女優・ラウンドガール・格闘家の"三刀流"宮原華音インタビュー 後編(前編:『仮面ライダーガッチャード』クロトー役・宮原が語る空手少女時代「男の子に勝てることが自信になった」>>)【約7年の時を経て、再び仮面ライダーシリーズに出演】『仮面ライ…

女優・ラウンドガール・格闘家の"三刀流"

宮原華音インタビュー 後編

(前編:『仮面ライダーガッチャード』クロトー役・宮原が語る空手少女時代「男の子に勝てることが自信になった」>>)

【約7年の時を経て、再び仮面ライダーシリーズに出演】

『仮面ライダーアマゾンズ』のシーズン2配信終了から約7年。宮原華音は、昨年9月に放送が開始された『仮面ライダーガッチャード』(テレビ朝日系列)に出演している。仮面ライダーシリーズは"若手役者の登竜門"として知られているが、宮原へのオファーは主役を引き立てる悪役、「冥黒の三姉妹」の次女・クロトー役だった。

「アマゾンズでもお世話になった、田﨑竜太監督がオファーしてくれたんです」

 宮原を直々に指名したのは、もちろんアクションの腕前を買ってのことだろう。撮影の現場では、自分に求められている役割を強く感じたという。

「もう少し若かったら、ヒロインなりたかったと思ったでしょうけど、今はないですね」


プロの格闘家としてRISEのリングにも上がった宮原華音 撮影/栗山秀作

 ヘア&メイク/高部友見

 宮原に求められたのは「強さ」。キリッとした顔立ちゆえ、演技中に見せる冷酷な表情と、主人公との対比が見事に際立つ。これほど悪役に向いていたとは、本人も思っていなかっただろう。演者たちの中で宮原は年長者であり、それゆえ、現場でも言いたいことが言えた。「思い切って悪役に徹することができた」という。

 アクションの現場において、空手で培った宮原の動きはひときわ輝きを放つ。

「この業界に入ってアクションをやった時、ほかの人ができない難しい動きができることを褒められました。例えば、飛び蹴りの高さが人よりも高かったり。身長が高くて足も高く上がることも強みだと思っています」

 アクションの現場で求められるのは"阿吽の呼吸"である。闇雲にパンチを打てばいいというものではない。相手を本気で倒そうと思わないと、その"ウソ"が画面越しに伝わる。だから、相手がきちんとよけてくれることが求められる。それを繰り返すことで、白熱した戦闘シーンになる。アクション俳優たちは信頼関係で成り立っているのだ。

 ストーリーに邪念が入らないようにすること、自分が目立とうとしないこと。そんな役割を全うすることが、アクション俳優の使命だと思っている。

 また、「実際に人を殴ったことがあるかどうかで、アクションのリアリティは大きく変わる」と宮原は言う。現場で監督に褒められるのは、戦う際の顔つきだという。

「私がアクションシーンで見せる顔は、"戦う人の表情"らしいんです。そこは小さい時から空手をやっていた影響が大きいんでしょうけど、ほかの演者さんたちよりも慣れている部分かもしれませんね」

 撮影の苦労を聞くと、「衣装がやぶけないように注意すること」と、大きな口を開けて快活に笑う。ドラマで着用する衣装はオリジナルであり、万が一破損した場合は撮影の進行に大きな支障をきたす場合がある。それゆえ、衣装を大事にしながら激しいアクションをこなすという無理難題に挑む必要がある。

「例えば、地面を滑るように転ぶと衣装が破けてしまいますから、着地する時は"面"ではなく"点"で地面と接するように気をつけています」

 受け身などの所作は、空手や格闘技を学ぶ中で自然と身についたものだが、周囲のスタッフは大いに感心したに違いない。

「アマゾンズに出演した頃は10代だったので、自分のことだけで精一杯。だから、少しは成長したところを見せられたかなって思っています」

【格闘技の試合に出ようと思ったきっかけ】

 仮面ライダーへの出演が決まる数カ月前、彼女はもうひとつの決断をしていた。格闘技への挑戦だ。

 空手をやめたあと、格闘技の試合を生観戦する機会が増えていた。そんな中、あるUFCの試合に衝撃を受けた。

「KOされた選手がきれいに倒れるのを見た瞬間、体がぞわっとしたんです」

 その試合は激しいパンチの応酬の末、カウンターを食らった選手が静かに膝をついた。まるでスローモーションのようで、「人はこんなにきれいに倒れるのか」と驚いたという。そこからボクシング、キックボクシングなどもむさぼるように見るようになった。

 そんな格闘技好きが高じ、2022年4月からキックボクシング「RISE」のラウンドガールに。同時に、第4代RISEバンタム級王者・宮城大樹が代表を務める「TARGET SHIBUYA」の門を叩く。

「少しでも選手の気持ちを理解したかったんですよね。最初は、体を絞るためにやる会員さんと同じ感覚でした」

 やがて、トレーニングだけでは飽き足らなくなったのか、「試合に出たい」という気持ちが強くなってきた。宮原の中に流れる"闘いの血"が騒いだのだろう。そして、パーソナリティを務めていたRISEのラジオ番組『RISE STUDIO』(2022年10月~2023年8月)内での、宮原の企画コーナーについて打ち合わせをしていた時に、RISEの伊藤隆会長から「プロの選手として試合に出るのはどうか」と打診されたことをきっかけに、実現へと動き出すことになる。

 最初にリングに立ったのは昨年1月のアマチュアの大会で、右ミドルキックで対戦相手を開始わずか15秒でKO。ブランクはあったものの、空手で実績を残してきた宮原にとっては当たり前とも言える結果だった。

 素質を見込まれた宮原は、プロの選手としてRISEの本興行に出場することになる。現役のラウンドガールがリングに立てば話題になる、という興行側の目論見もあったことだろう。その日からトレーニングの強度は格段に上がった。

 空手と違ったのは、パンチとキックをよけることの重要さだ。もともと目がいい宮原は、フットワークを磨く練習に時間を割いた。

 そして、実戦をイメージしたトレーニングで教えられたのは、フィニッシュの大切さだ。闇雲にパンチを繰り出すのではなく、何をしたいか瞬時に判断して攻撃する。相手が攻撃してくる瞬間も下がるだけでなく、「この次にどうするか」と考える。どんな一瞬の動作も、すべては相手をKOするための布石でしかない。

 それは、宮原が仮面ライダーの撮影現場で学んだアクションの極意と通底していた。キックボクシングというスポーツの魅力にとりつかれるまで、長い時間はかからなかった。

【プロデビュー戦は39秒KO】

「初めてのプロの試合はあっという間のようだけど、長いような気もしました」

 興奮と同時に、緊張を楽しむ余裕もあった。最初に、相手の足を封じるつもりでラッシュをかける。だが、相手の膝蹴りがモロにみぞおちに入り、思わず目の前が真っ白になる。

「膝蹴りを食らうのが初めてで、あんなに痛いとは思いませんでした。でも、それでスイッチが入ったのかもしれません。『このままだとやられる。行かなきゃ』って」

 トレーニング中に顔面を殴られることはあったが、膝蹴りがこんなに痛いとは思っていなかった。パンチ力のある相手にひるんだら一気に押し切られる。実際に相手は、宮原の弱気を見抜いたのか攻勢を強めた。

 実は、試合前は「得意のハイキックで倒したい」と宣言をしていた。だが、相手はそれを封じる目的で懐に入り、インファイトに持ち込もうとしていた。ただ、宮原は真っ向から打ち合うことを選んだ。宮原には"強み"があったからだ。

「トレーニング中に、『カウンターがうまい』と褒められていたんです」

 試合前もハイキックが注目されていたが、試合ではあまり出すつもりはなかった。空手の師範からは蹴りよりも突きを重点的に叩き込まれたこともあり、宮原自身もパンチに自信を持っていたのだ。そして、カウンターという強みもあった。インファイトに持ち込めば勝機はあると思っていた。

 試合の終焉はあっけなく訪れた。ガードが下がった宮原に対して、相手選手が右ストレートを叩き込もうとした瞬間、宮原の右が相手のアゴをとらえた。一瞬ふらついた相手に立て続けに二発を叩き込み、試合開始わずか39秒でマットに沈めたのだ。

 その時の手応えを聞くと、「必死すぎて覚えてないです」と笑うが、映像で見ると、倒れた相手を鬼気迫る表情で睨みつける宮原の姿があった。

「倒した実感がなかったんです。相手が今にも起き上がってきそうで、そんな顔になったんだと思います」

【練習が一番つらくあるべき】

「練習が一番つらかったし、怖かったです」

 厳しい練習を通じて感じたのは、「試合ではやってきたことしか出せない」という当たり前のことだった。それは空手を通じて彼女が学んできたことでもある。

 練習では、体格で上回る男性相手にスパーリングを行なうことに恐怖があった。体重が10kgほど違うチャンピオンクラスの選手たちに、パンチが効いてるようには思えなかった。どれだけ押してもびくともしなかったが、あえて過酷な環境に身を置いたおかげで、当日は「彼らより絶対強くない」と言い聞かせることで恐怖を克服できた。

 見事な勝利のあとにやってきたのは安心感だった。

「プロの選手をはじめ、いろんな人が自分の時間を割いて協力してくれたので、勝利を届けられてほっとしたんです」

 試合後、ラウンドガールとして再びリングに上がって大きな喝采を浴びた宮原には、応援に来てくれた仲間たちに手を振る余裕もあった。その時、心から勝った喜びを噛み締めたのかもしれない。

 試合に出たことで格闘家として注目を浴びたが、今後の活動の重心をどこに置くのか尋ねると、彼女は間髪入れずにこう答えた。

「アクション女優です。自分にしかできないことを表現できるのはここしかないと思うから。賞も獲りたいけど、いつかSASUKEをクリアしたいですね。だってカッコいいじゃないですか(笑)」

 そんな夢も語った宮原は、「私をきっかけにアクション、格闘技に興味を持ってくれる人が増えたらうれしいです」と笑った。

【プロフィール】
宮原華音(みやはら・かのん)

1996年4月8日生まれ、東京都出身。三愛水着イメージガールに中学生として選出されデビュー。空手の全国大会で優勝した高い運動能力を生かし、映画『ハイキック・エンジェル』で主役を務めるなど、女優として活躍。立ち技打撃格闘興行『RISE』のラウンドガールを務め、選手としてもリングに立った。現在、『仮面ライダーアマゾンズ』以来の仮面ライダーシリーズ出演となった、『仮面ライダーガッチャード』に「冥黒の三姉妹」の次女・クロトーとして出演中。公式X>> 公式Instagram>>