何度も味わった苦しみ、それでも早大準硬の主将として―― 「苦しい」「悔しい」。野球人生を振り返る準硬式野球部令和５年度主将・春名真平（教＝東京・早大学院）は何度も口にした。決して順風満帆なキャリアではなく、周囲の選手との実力差や敗北を味わう…
何度も味わった苦しみ、それでも早大準硬の主将として――
「苦しい」「悔しい」。野球人生を振り返る準硬式野球部令和５年度主将・春名真平（教＝東京・早大学院）は何度も口にした。決して順風満帆なキャリアではなく、周囲の選手との実力差や敗北を味わう時もあった。それでも、高い壁に挫けず、乗り換え続けてきたのが春名の野球人生。高校や大学での補欠時代を乗り越え、３年時にキャプテン役を経験すると、４年生の１年間は全体の主将として、チームを全日本大学選手権（全日）出場、東京六大学秋季リーグ戦（秋季リーグ戦）優勝に導いた。苦しみながらも野球と向き合い続けた春名の戦いの軌跡を振り返る。
主将（背番号10）としてチームを鼓舞し続けた
春名が野球を始めたのは小学１年生の時。兄の影響もあり、地元の小学校の軟式野球チームでプレーした。強いチームで自身も主力として活躍し、「勝つ喜びを知れた」と春名は語る。その勝つ喜びとともに野球への愛を深め、中学入学後はハイレベルなクラブチームに入団した。しかし、精鋭のそろう世界で試合に出られない日が続く。それでも、中学３年になるとレギュラーに定着し、全国大会も経験した。休日も野球漬けだった春名だが、文武両道を重んじるクラブチームで学業と両立。高校進学を見据える中で早実高を意識しながら戦う早大学院高の硬式野球部に魅力を感じ、無事に入学、入部を果たした。ところが、野球での苦悩はさらに増す。一時期はベンチ入りを果たすも、周りの選手のレベルには及ばず、３年間一度もレギュラーになれなかった。「悔しいよりも苦しい」一方で、「野球をやめてどうにかなる問題ではない」と春名。試合に出られない中でも、積極的な声出しなどでチームのために動く考え方を得た。
内部進学が迫った高校３年生の頃から大学での過ごし方を考えるようになった春名。ベンチ外で自分にできることはやったものの、野球での不完全燃焼感はぬぐえなかった。部としての厳しさを欲した春名は、大学で準硬式野球部に入部することを決意。大きな迷いはなく、大学進学後すぐに入部した。しかし、準硬入部後もしばらくは我慢の日々が続く。２年生の頃まではＢチームで過ごす時間が長く、たまにＡチームでチャンスを得ても結果を出せずにＢチームに降格。大学でも苦しみを味わった。
それでも３年前半になると、春名に大きな転機が訪れた。当時の主将だった新井健太（令５商卒＝東京・早大学院）にＢチームキャプテンに任命された。チームを本格的にまとめるのは初めてだったという春名。４年生の先輩も含め、Ｂチームの全方位とコミュニケーションを絶やさなかった。すると、一選手としてのパフォーマンスにも好影響が現れる。「狭くなっていた自分の視野が広くなり、自分へのプレッシャーが分散した」と春名が語るように、３年後半からＡチームに定着。表舞台での出場機会を増やしていった。
しかし、チームは目標としていた全日優勝はおろか、2019年を最後に出場から遠ざかっていた。先輩の引退と新体制始動が近づいてくる中で、「誰かが変えてくれるではなく、変えなきゃいけない気持ち」が働いた春名。主将として自身がチームを引っ張ることを志し、同期との話し合いで就任が決まった。目標の全日優勝に向け、チームの強化が急務だと考えた春名は同期の幹部と共に練習メニューも改革。一戦必勝を意味する『ＰＬＡＹ ＦＯＲ ＷＩＮ』をスローガンに掲げ、チーム練習を重ねた。試合では春名自身はベンチから見守る時間も多かったが、学年を問わずに選手を下支えする主将に徹した。すると、チームの成績も上向き始める。関東地区大学選手権で激戦を制しベスト４入りを果たすと、東京六大学春季リーグ戦での２位を経て、全日本出場校選出予選会では決勝で大逆転劇を演じて４年ぶりの全日出場が決定。目標の日本一へのスタートラインに立った。
粘りの野球で勝ち抜いてきた早大準硬は初戦で接戦を制する。日本一まであと３勝に迫った次戦・準々決勝の対戦相手は奇しくも慶大。より一層の気合で試合に臨んだが、現実は厳しかった。初回に３点を先制されると、中盤と終盤にも得点され、チームは完敗。試合後は球場の外で涙した。「後輩にも何も残してあげられなかった」。しかし、２週間後の秋季リーグ戦開幕に向けて落ち込み続けるわけにもいかない。「絶対に優勝しなければならない」と意気込んだ春名は再びチームを引っ張った。持ち味の粘り強さを取り戻したチームはし烈な優勝争いの中でも着実に白星を重ね、慶大からも勝ち点を獲得してリベンジを達成。そして、最終戦の立大戦で優勝を決めた。春名の出場機会も増え、主将として、一選手として有終の美を飾った。
秋季リーグ戦で優勝し、令和５年度副将の渡邉真之介（社＝早稲田佐賀）と抱き合う春名（右）
準硬での一番の思い出は全日での慶大への敗戦で、「あそこで負けたからこそもうひと踏ん張り頑張れた」「涙を流させてしまった意味でも自分にとっては大事な試合」だと語る春名。チームの全方位へ気を配るリーダー像と何度も苦しみを乗り越えてきた経験でチームを７季ぶりのリーグ制覇に導いた。がむしゃらに主将を全うした春名は最後に優勝の喜びを実感しながら、早大のユニフォームを脱いだ。
（記事：横山勝興、写真：横山勝興、渡邊悠太）
