ラグビー日本代表が4月30日、今年度最初のテストマッチ(国際間の真剣勝負)に挑む。神奈川・ニッパツ三ッ沢球技場でのアジアラグビーチャンピオンシップの韓国代表戦を、2019年ワールドカップ日本大会への序章とする。 おもに日本最高峰トップリー…

 ラグビー日本代表が4月30日、今年度最初のテストマッチ(国際間の真剣勝負)に挑む。神奈川・ニッパツ三ッ沢球技場でのアジアラグビーチャンピオンシップの韓国代表戦を、2019年ワールドカップ日本大会への序章とする。

 おもに日本最高峰トップリーグの面子がメンバー入りを果たすなか、リザーブに入ったのが筑波大2年の前田土芽。下の名は「ドガ」と読む。長崎・海星高時代には2年時から高校日本代表入りしたCTBだ。19歳でのテストマッチデビューに、「自覚と誇りを持ってプレーしたい」と息巻く。

 名前には、海星高監督の父・希土さんと同じく「土」の文字が入っている。音の響きは、画家の祖父・斎さんが好きなフランス絵画の印象派の巨匠ドガと一緒だ。ちなみに実家にも、ドガの関連書籍があるという。珍しいファーストネームについて、本人は「自分としては気に入っている。皆さん、すぐに覚えてくれる」。確かに、コミュニケーションが必要な集団競技にあってはアドバンテージになったか。24日からの代表合宿でもこうだった。

「武器でもあると思っていて。1回、自己紹介で話したら、すぐに『ドガ、ドガ』と言ってくれるようになった。『ドガ!』って、インパクトのある名前に負けないプレーをしたいとも思っています」

 2013年の秋に遡る。

 参加者が若手選手を紹介して2019年の理想の日本代表を作り上げるトークイベントに、中竹竜二・現日本代表ヘッドコーチ(HC)代行がゲスト出演。当時、高校2年生で全国級の大会と無縁だったこの人の名を挙げたとがある。

 来場者がきょとんとするなか「あれ? ドガ、知らないですか?」とおどけ、そのランニングセンスや身体を張る気質をアピールした。

 その後、本人は2年連続で高校ジャパン入りした。かねて17歳以下の日本代表にもリストアップされたことで、「自分にもチャンスがあるんだな。日本代表に選ばれたい」と思うようになった。かつては、自身がプレーするCTBに外国出身選手が多く選出される傾向に「おもしろくはないです」と、笑いながら負けん気を覗かせていた。

 チームは3年時の全国高校選抜大会にチャレンジ枠で出場も、冬に大阪・花園ラグビー場である全国高校大会には出られなかった。当時を振り返り、前田はこうも言った。

「悔しさは、(いまの状況に)関係している。高校で全国大会を経験していたら、慢心していたかもしれない。負けたことが成長につながった部分もあると思います」

 眼光は鋭い。守備網の凸凹を鋭角に突っ切る意気があり、密集戦で球が覗けば果敢に飛び込む。身長179センチ、体重87キロと、決して大柄ではない体躯でも存在感を示す。

「チームに沿ってやるなかで、自分の突破力、アングルチェンジをアピールできれば。いろんな人たちとコミュニケーションを取りながら、連携していきたいです」

 今年3月には、フィジーで環太平洋諸国の若手が参加するワールドラグビー パシフィック・チャレンジ(WRPC)に「ジュニア・ジャパン」のメンバーとして参戦。20歳以下日本代表の修養の場にあって、采配を振るったジャパンの中竹HC代行は「まだまだミスは多いですが、身体を当てられる」と太鼓判を押した。

「ジュニア・ジャパン」のCTBには、今度の韓国代表戦で先発するサントリーの中村亮土やNTTコムの石橋拓也もいた。そのなかでの高評価だ。指揮官の期待は膨らんでいる。

「ボール保持者としての強さだけでなく、ボールを獲ってくれるところも楽しみです。WRPCでは中村、石橋と、ほぼ変わらなかった。試合によっては彼(前田)の方がいいと思ったくらいです」

 今回のジャパンには、昨秋のワールドカップイングランド大会を戦ったメンバーは1人もいない。日本協会は春の戦いを、6月以降の戦いに向けた若手の登竜門と位置付けている。

 渦中、「フィジー(WRPC)では自分なりにいいパフォーマンスができたけど、まさか入るとは…」と驚いた前田だが、メンバー発表のあった28日には「このなかでやれる自信はある」と言い切った。

「遠慮はしたくないですし、トップリーグの選手を相手にも負けたくない気持ちがある。順調すぎるので怖いっちゃ、怖いですけど、日本代表という名前を背負っているので、それに恥じないようにやっていきたいです」

 ラグビーは名前ではなく、ましてキャリアではなく、その人格でするものと証明したい。(文:向 風見也)