四大陸選手権で初優勝を飾った千葉百音 2月頭に開催された四大陸選手権で、千葉百音(18歳/木下アカデミー)が自己ベストを大幅に更新する214.98点で優勝した。昨季、四大陸選手権優勝から世界選手権2位と飛躍したイ・ヘイン(韓国)と同じ道をた…



四大陸選手権で初優勝を飾った千葉百音

 2月頭に開催された四大陸選手権で、千葉百音(18歳/木下アカデミー)が自己ベストを大幅に更新する214.98点で優勝した。昨季、四大陸選手権優勝から世界選手権2位と飛躍したイ・ヘイン(韓国)と同じ道をたどるように、千葉も3月の世界選手権へ向け、ダークホースからメダル候補になったと言える。

【不調に自信を失ったシーズン前半】

 のびのある滑りと安定したジャンプで期待されていた千葉。昨年、拠点を仙台から京都に移し、木下アカデミーに所属してレベルアップに臨んだが、今季の前半戦は苦しんだ。初挑戦のグランプリ(GP)シリーズは初戦のスケートアメリカで6位、第2戦のフランス杯は9位で得点は164.76点。

 テンポの速い曲のショートプログラム(SP)は、少しもたつく雰囲気があり、フリーでも滑りが小さくなったように見えた。前年の四大陸選手権で、204.98点を出した時ののびやかさはなかった。

 だが、昨年12月の全日本選手権で滑りは一変。当時、千葉はこう話していた。

「不調続きで試合ではなかなか結果を出せなかったけど、フランス杯が終わってからは、全日本しかないという気持ちで練習に臨んできたので、自然に背水の陣になったというか、そういう状況で体調も崩れることなく、練習を詰めていけたのが調子を上げられた理由になったと思います」

 全日本SPは、ノーミスの滑りで68.02点を獲得して3位発進。フリーも終盤のわずかなミスだけに抑え、非公認ながらも当時の自己最高を上回る合計209.27点で、坂本花織に次ぐ2位。世界選手権代表に選出された。大躍進の背景を千葉はこう説明した。

「京都に来てから、練習をしていると少し息が苦しいなと思っていたけど、体力がないからかなと考えていたんです。でも、フランス杯のあと、苦しすぎるから病院に行ってみたら、『運動誘発性ぜんそく』と診断されました。その治療を始めると苦しさが軽減され、気持ちもラクになった。それで調子も上がってきました」

 結果が出せない時期は、「移籍が間違いだったのか」と不安になることもあったという。それでも千葉は、「自分で決めた以上、この選択が間違いではなかったという結末にしたいと思って頑張れました」と話す。

【自己ベスト大幅更新で圧勝】

 千葉にとって今回の四大陸選手権は、日本選手権の結果がフロックではなかったことを証明した。

「ショートは全日本の結果を踏まえてステップシークエンスで少し動きを変えたので、しっかりレベルをとれるようにこなすというのがひとつの目標。あとは、全日本でやっとジャンプの流れもつかめるようになってきたので、自信を持ってジャンプをノーミスで終えられるようにしたいです」

 そう目標を語った四大陸選手権のSP。冒頭の3回転フリップ+3回転トーループをしっかり加点をもらうジャンプにすると、そのあとは余裕を持った滑りで自己最高の71.10点を獲得。最終滑走のイ・ヘインが崩れ、1位発進となった。

「ジャンプをすべてクリーンに降りることができてとりあえずホッとしたけど、すごく緊張していて表情が最初から最後まで表情がかたかった。表情や表現力を磨いていけたらなと思いました」

 翌日のフリー。最終滑走は「一番緊張するシチュエーション」だったという。

 演技前に浜田美栄コーチと「この場で滑れることに感謝して、思いきりやろう」と話したという千葉は、少し硬さはあったが最初から最後まで丁寧な滑りを貫き通した。



 結果は、自己最高の143.88点。わずかな減点などもあったが、合計は、ジュニアながら3位に入った前回の四大陸選手権の自己最高得点を10点上回り、全日本の得点も上回る214.98点。2位のキム・チェヨン(韓国)に10.30点差をつける、堂々の優勝を果たした。

「正直、フリーは不安な部分も多くあって、簡単にノーミスはできないだろうなと思っていました。去年3位だったからといってあまり気負わずにやろうと思って、やるべき演技、やるべきジャンプをしっかりこなそうということに集中しました」

【世界トップへ「まだまだこれから」】

 昨年の四大陸選手権を含め、今季の全日本選手権や四大陸選手権と大舞台で結果を出し続ける度胸のよさは、そのおっとりとした表情とは裏腹に、千葉にとっては大きな武器だ。さらにのびやかな滑りも大きな特徴でジャッジの評価も高い。フリーの演技構成点が昨年の四大陸選手権と比較して4.49点も高くなっているところにもそれは表われている。

 今回の得点は220点台に乗せている坂本花織とルナ・ヘンドリクス(ベルギー)に次ぐシーズン3位で、昨季世界選手権2位のイ・ヘインが不調な今、千葉は表彰台候補におどり出たと言っていい。

 だが、ジャンプではまだGOE(出来ばえ点)加点が坂本やヘンドリクスのように取りきれていない課題もある。それでも、まだ18歳で経験と自信を積み上げていくのはこれからだ。

「シニアの主要大会で優勝することができて非常にうれしいですが、スケーティングスキルやスピン、ジャンプのすべてにおいてトップと競り合うにはまだまだだなと感じます。少しは自分のよさを磨けて表現できるようにはなってきたかなとも感じていますが、本当にこれからだと思う。今はスタートダッシュの一歩目にすぎないので、次の五輪へ向けてどんどん努力して、自分のよさをもっと活かせるようにしてレベルアップしていきたいです」

 こう話す千葉は今回の優勝で、大きな可能性を見せてくれた。