大相撲の”昭和の大横綱”大鵬(故・納谷幸喜氏)の孫で、元関脇・貴闘力(鎌苅忠茂氏)の長男である納谷幸男(22歳)が、9月14日にプロレスデビューを果たすことが決まった。それに先駆けて行なわれた8月4日の記者会見…

 大相撲の”昭和の大横綱”大鵬(故・納谷幸喜氏)の孫で、元関脇・貴闘力(鎌苅忠茂氏)の長男である納谷幸男(22歳)が、9月14日にプロレスデビューを果たすことが決まった。それに先駆けて行なわれた8月4日の記者会見で、197cm、130kgの恵まれた体を持つ納谷は、「祖父と父があれだけ偉大な人物なので、その名前ばかり先行しないように、自分の実力で認めていただける選手に成長したい」と決意を語った。




初代タイガーマスクの佐山サトルと共に会見に臨んだ納谷

 納谷は埼玉栄高校を卒業後、2013年3月に初代タイガーマスクの佐山サトルに弟子入りした。佐山が主宰するリアルジャパンプロレスのセコンドにつき、初めてプロレスを目の前で見て、「今までのプロレスのイメージが覆されました。『これが本物のプロレスなんだ。すごいな』と思いました」と、さらに魅力にとりつかれていく。

 ところが、本格的に修行を開始した矢先の2014年に、内臓疾患で入院。幸いにして症状が悪化する前に治療を行なうことができたため、命に別条はなかったものの、療養に約1年を要した。手術の影響で体重が10kgほど落ちるなど、予期せぬ大病との闘いを経て、入門から4年で悲願のデビューにこぎつけた形だ。

 記者会見に同席した佐山は、入門当初の納谷を「腕立て伏せは0回。1回もできなかった」と振り返る。祖父、父譲りの体格に見合わない”ひ弱”な男だったが、納谷には努力を繰り返すことができる素質があった。わずか1カ月で腕立ての回数は100回を超え、病気の治療を終えた後も地道に練習を積み重ねた。その中で目覚め始めた才能には、師匠の佐山も舌を巻く。

「特に、右の蹴りを見た時はびっくりしました。幸男の蹴りは腰が入っていて重たいんですよ。この体でそんな蹴りができる選手は、そうはいません」

 練習で指導する先輩レスラーのスーパータイガーも、「ダイナミックな蹴りは、ミットを持っているこっちが脳震とうを起こすぐらいの衝撃があります。試合でどう炸裂するか楽しみです」と絶賛した。

 さらに、レスリングの能力に関して、佐山は祖父・大鵬の”偉大なる遺伝子”を感じたという。

「単純に重いものを持ち上げるパワーではなく、筋肉に柔らかさがあるんです。柔軟性のあるパワーは、おじいちゃんのそれを引き継いでいる。私は大鵬さんが好きだったのでよくわかるんですが、その現役時代を思わせる柔らかい足腰、強い上体を持つ選手ですね。レスラーでいうと、猪木さんに似ているかもしれません。猪木さんの柔らかさに、大鵬さんのパワーを加えたような感じです」

 納谷の底知れぬ才能に太鼓判を押す佐山は、プロレスラーだけにとどまらない活躍にも期待を寄せる。初代タイガーマスクとして、プロレス界に革命を起こした佐山。引退後には新たな格闘技「シューティング(現・修斗)」を創設し、世界的に発展した総合格闘技の礎(いしずえ)を築いた。だからこそ、「納谷にはプロレスと総合格闘技の両方やらせたい」と明かし、納谷自身も「プロレスと格闘技の2つを極めたい」と意欲を見せる。

 過去に総合格闘技のトップレベルで戦った選手には桜庭和志がいるが、桜庭はプロレスラーとして王者になることができなかった。納谷がプロレスと総合格闘技で”横綱”になれば、前例のない日本人プロレスラーが誕生することになる。

 道場でも、レスラーとしての受け身の練習を繰り返しながら、総合格闘技の日本王者クラスに胸を借り、肉体だけでなく精神的にも自分を追い込んでいる。厳しい練習にも決してギブアップしない納谷を、佐山は「何度やられても相手に向かっていく。その根性は相撲につながるところですね」と、闘魂相撲で相手に挑んだ父・貴闘力の気迫を重ね合わせた。

「もちろん、現時点での実力はまだまだですが、今の気迫溢れる姿勢で練習を続ければ、どんどん強くなっていくことは間違いない。これから新たな練習も課していきますから、どこまで才能が伸びるか楽しみですよ」

 後楽園ホールでのデビュー戦に向け、佐山は必殺技「ファイブストーリーズホールド」と「アルバトロス」を伝授することを明言した。特に、「五重塔」をイメージした「ファイブストーリーズホールド」は、体格を活かした固め技だという。新たに開発された必殺技に「ワクワクしかないです」と、納谷も胸を高鳴らせる。

 佐山をはじめとした道場関係者だけでなく、相撲の道に進んだ3人の弟たちも納谷の支えになっている。次男の幸林(たかもり)は中央大相撲部の2年生。三男の幸之介(こうのすけ)は埼玉栄高相撲部で主将を務め、四男の幸成(こうせい)は同校相撲部の1年生として兄の背中を追う。中でも、三男の幸之介はすでに大相撲入りを表明しており、来年は土俵とリングで納谷兄弟が話題をさらうかもしれない。

 そんな弟たちに刺激をもらい、いち早くプロの世界に飛び込む長男。その姿を見せたかった祖父の大鵬は2013年の1月にこの世を去ったが、納谷は「天国から、一生懸命やれよって言ってくれると思います」と笑顔を見せた。生前の祖父からもらった言葉で、最も心に残っているのは「謙虚」。おごらずたゆまず、”大鵬イズム”をリングで炸裂させる。