1月19日、スーパーバンタム級の4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が、全米ボクシング記者協会(BWAA)が選定する「2023年の年間最優秀選手(シュガー・レイ・ロビンソン賞)」に選出された。井上は昨年度の主要な賞をほぼ総なめにしたが、BWA…

 1月19日、スーパーバンタム級の4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が、全米ボクシング記者協会(BWAA)が選定する「2023年の年間最優秀選手(シュガー・レイ・ロビンソン賞)」に選出された。井上は昨年度の主要な賞をほぼ総なめにしたが、BWAAから受け取ったこの賞は、その中でも最高の栄誉と言えよう。


全米ボクシング記者協会の

「年間最優秀選手」に選出された井上尚弥 Photo by 北川直樹

『リングマガジン』が選定するパウンド・フォー・パウンドランキングでこそテレンス・クロフォード(アメリカ)に次ぐ2位のままだが、2023年は日本の"モンスター"が世界最高級のボクサーだったことを、あらためて印象づけることになった。

 この栄誉に際し、BWAAのジョセフ・サントリキート会長に言葉を求めた。サントリキート氏は井上の功績を絶賛するとともに、今年6月、ニューヨークで開催予定の表彰式で実際に対面することが待ちきれないようだった。

【歴史的ボクサーたちの仲間入り】

 井上は日本人史上初めてBWAAの年間最優秀選手を受賞したことで、また新たな歴史を切り開きました。

 この栄誉ある賞は、近年ではドミトリー・ビボル(ロシア)、サウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ)、テオフィモ・ロペス(アメリカ)、オレクサンデル・ウシクとワシリー・ロマチェンコ(ともにウクライナ)といった各国の優れたボクサーたちが受賞してきました。井上がその仲間入りを果たしたことで、あらためて「ボクシング=ワールドワイドなスポーツ」であることが示されたと思います。

 BWAAはどんなメディア、テレビ局、プロモーターにも所属しておらず、常に中立の団体です。何の忖度もない私たちが年間最優秀選手として認めたことを、井上も誇りに感じてくれたら嬉しいですね。また、井上は『リングマガジン』の「Fighter of the Year」にも選ばれました。文字通り世界最高級のボクサーと認められた井上を表彰できることは、私も誇らしいです。


BWAAのサントリキート会長

 photo by 杉浦大介

 BWAAの年間賞は1938年からスタートし、年間最優秀選手の第1号はジャック・デンプシー(アメリカ)でした。その後、モハメド・アリ、シュガー・レイ・ロビンソン、マイク・タイソン、ジョー・フレイジャー、シュガー・レイ・レナード、フロイド・メイウェザー(すべてアメリカ)、マニー・パッキャオ(フィリピン)といった多くのビッグネームが名を連ねてきましたが、井上もその歴史の一部になったわけです。

 過去の偉大なボクサーたちと同じように、井上も殿堂入りに相応しいキャリアを築いてきたことを、私はすでに確信しています。また、井上は人間的な評判もすばらしい。彼と関わったことがある人たちと接しても、悪い話はまったく聞きませんでしたね。

【敗者・フルトンからの伝言】

 2023年、井上はハイレベルな2試合を消化しました。前WBC、WBO世界スーパーバンタム級統一王者スティーブン・フルトン(アメリカ)は、一般的な認識以上に優れたボクサーです。井上は無敗だったフルトンに勝つだけではなく、完全に支配してしまった。米ペンシルベニア州フィラデルフィア在住の私は、個人的にフルトンと親しくしていますが(フルトンはフィラデルフィア生まれ)、これまで、彼をあのように打ちのめしたボクサーは他に存在しません。

 昨年12月には、前WBAスーパー、IBF同級統一王者のマーロン・タパレス(フィリピン)もKOし、2023年を力強く締めくくりました。井上は明らかに特別なボクサー。100人以上いるBWAAのメンバーの投票で井上を年間MVPに選出し、彼にこの賞を授与できることは幸せです。

 今年度の年間最優秀選手は、井上と、世界ウェルター級4団体統一王者テレンス・クロフォード(アメリカ)が最有力候補となりました。エロール・スペンスJr.(アメリカ)とのメガファイトで9回KO勝ちを飾ったクロフォードも見事だったのは事実です。

 ただ、やはり井上は実績ある王者たちと2試合を行ない、どちらもほぼ完璧なKO勝ちを収めたことが受賞の決め手となったのでしょう。最終的な得票数、得票率などは公表できませんが、井上が飛び抜けた投票数を得たこと、2位以下との差が少なくなかったことは伝えておきたいです。

 井上の年間最優秀選手賞の受賞が決まった後、私は彼に直接電話をしてそれを伝えました。その電話をセットアップしてくれた大橋ジムに感謝していますし、5、6分の会話の中で井上からの敬意も感じました。

 私が「仲がいいフルトンを打ちのめしてくれたね」とジョークを飛ばすと、井上は笑っていました。また、フルトンが「もし、井上を年間最優秀選手賞に選ばなかったら、BWAAはバカみたいに見えるよ」と言っていたこと、この賞は極めて長い歴史がある名誉なものであること、今後も再び同賞を受賞するチャンスがあるだろうことも伝えました。大理石で作られた「シュガー・レイ・ロビンソン賞」の記念盾の写真を送付し、それも喜んでもらえましたよ。

 BWAAは毎年6月、ニューヨークで年間賞の受賞セレモニーと記念ディナーを主催します。例年、その時期にマンハッタンで大興行が開催されるのが通常で、その週に全米からボクシング記者たちが集まってきます。今年度の日程は未定ですが、井上は「出席できるように検討します」と言ってくれました。

 授賞式の際、井上にも壇上でスピーチをしてもらいたいですが、通訳を用意するつもりなので、英語のスピーチにプレッシャーを感じる必要はありません。井上がそのタイミングで渡米し、セレモニーに出席してくれたらすばらしいことですし、全米の関係者や記者たちも名誉に感じてくれるに違いありません。