対戦国が見た日本代表(前編) アジアカップのグループリーグが終わり、日本は決勝トーナメントに駒を進めた。 だが、カタールW杯の残像がいまだ瞼に残っている世界の人々にとって、今回の日本の戦いぶりはかなり期待とは異なっていたようだ。スペイン、ド…

対戦国が見た日本代表(前編)

 アジアカップのグループリーグが終わり、日本は決勝トーナメントに駒を進めた。

 だが、カタールW杯の残像がいまだ瞼に残っている世界の人々にとって、今回の日本の戦いぶりはかなり期待とは異なっていたようだ。スペイン、ドイツを下した日本ならアジアでは敵なしと誰もが思ったが、ふたを開けてみるとベトナムにリードされ、イラクに敗れ、インドネシア相手にもなかなかプレーの流れからのゴールを決めることができなかった。多くの人々が「日本はどうした?」と思っていることだろう。

 直接、対戦した選手たちや監督、そして相手国の記者はこの日本に何を思ったのだろうか。

 まずは初戦のベトナム戦。アジアカップに取材に来ている記者たちの間では、日本にとってこの試合がグループリーグで一番重要であると考えられていた。理由は簡単。ベンチに座るフィリップ・トルシエ(元日本代表監督)は日本を熟知しているからだ。トルシエはベトナムが逆転ゴールを決めた時、はっきりとわかる満足そうな笑みを浮かべていた。そしてこの2ゴールにより、日本の守備はプレッシャーをかけられると弱いということを露呈した。

 そのトルシエとは私は旧知の仲であり、記者会見以外でも話をする機会に恵まれた。以下、彼の言葉を紹介しよう。

「日本はベトナムにてこずった。今のベトナムに日本に勝つ力はないだろう。だが、ベトナムは日本ゴールへの道を1度ばかりか2度も見つけ、3ゴール目さえ近かった。これは注目すべきことだ。私は2-0で負けるより、4-2で負けることを望む」

 トルシエ自身にとっても、日本戦は特別だったという。

「日本と対戦するのは、とても心が動いた。私は日本で監督として、そして人としても、大切な一時期を過ごしたからだ。日本人のメンタリティーはよく知っている。私はそのこともベトナムの選手たちに説明した。ピッチで彼らはどんな考え方をするのか、どんな風に感じているのか。こうした日本人独特の感性は大きな武器にもなり、弱点にもなる。

 イラク戦を見ればそれはよくわかるだろう。ベトナムに点をとられたあとの日本も、明らかに苛立っていた。これは決して偶然ではない。ベトナムの2ゴールは、日本のミスと、ベトナムサッカーの成長から生まれた。我々の目的は日本に勝つことではなく、日本からひとつでも得点を奪うことだった」

【「今のままでは日本は優勝候補ではない」】

 対戦した今回の日本代表についてトルシエはこうも語っていた。

「今の日本代表の中には、ヨーロッパのどんなチームでプレーしても遜色のない選手が3、4人いる(名前はあげなかった)。森保(一監督)は非常にプロフェッショナルでフェアなプレーをするチームを有している。私が代表監督をしていた頃とはかなり違うね。より現代的で、より強く、より集中している。これは日本の大きな長所だ。

 決勝トーナメントになり、試合が進めば進むほど、日本はもっと強い、本来の力を見せてくれることだろう。まだ修正が必要な箇所はピッチでいくつか見かけられたが、優秀な監督の手によって、きっといい方向に変わっていくはずだ。イランとオーストラリアとともに、日本が最大の優勝候補であるという私の意見は変わらない」

 一方、ベトナムの記者オアン・テイエン氏は日本のウィークポイントをこう指摘する。

「日本は優秀なアタッカーと中盤の選手がいるが、守備やGKはそれに比べると見劣りする。ベトナムはそれを知っていて、そこをピンポイントでつくやり方をした。日本とベトナムの実力差はかなり大きいが、この戦法のおかげで日本を苦しめることができた。日本を一時でもリードしたことは、ベトナムにとっては非常に大きなことだ。この試合はベトナムサッカーの成長と日本の守備に問題があることを物語っていた」

 アジアサッカー全般に詳しいベトナムの記者タイ・ハ氏はもっと辛辣だった。

「ベトナムは少なくとも40分間は、日本と対等にプレーしていた。今のままでは日本は優勝候補ではない。今大会での日本のGKと、ピッチでの選手たちの動きは気に入らない。どこか混乱している。W杯で見たあのチームとは別物だ。多くのベトナム人にとって、日本は第二の心のチームと言っていい。このパフォーマンスには皆、がっかりしている」

【「テレビで見ていた選手たちに勝てた」】

 2戦目で日本を破ったイラク。チームを率いるスペイン人監督ヘスス・カサスは自身のチームを絶賛していた。

「今日のイラクには、日本どころか世界チャンピオンのアルゼンチンさえ、勝てなかっただろう。私の選手たちはほぼ完璧だった。強く、その強さを自覚し、前に誰がいようと恐れなかった。日本が強いことを我々は知っていた。しかし最初の10分のイラクのプレーを見た時、今日は日本にとって苦しい日になると確信した。この日、あと200分試合を続けたとしても日本は勝つことができなかったろう」

 カタールには4万人近いイラクサポーターが押し寄せ、スタジアムの雰囲気は日本にとって完全にアウェーだった。

「イラクの選手たちは国のため、イラクの人々のために戦った。サッカーの試合に完璧なものはない。しかし今日の試合は、これまで私が見てきたいくつもの試合のなかで、最もそれに近かった。イラクはスピーディーで、力強く、アグレッシブであり、とにかく勝つことに執着していた。イラクがピッチを支配していることで日本の選手は苛立っており、我々はそれをうまく利用した。

 たぶん日本は、イラクがこれ程の高いモチベーションを持って向かってくるとは想像していなかっただろう。我々は日本がやろうとしているプレーをブロックすることを狙っていた。それを実行するのに最適な選手たちがそろっていた。そして私の願いどおりにプレーをしてくれた。少なくとも日本のスター選手たちと対等に戦ってくれた。これはイラクの歴史のなかでも最も重要な勝利のひとつだ」



イラクに敗れて失意の表情を見せる日本の選手たち photo by Kyodo news

 この日、イラクの2ゴールを決めたアイメン・フセインからも話を聞くことができた。

「私の人生のなかでも最も幸せな日だ。あのゴールは生涯、忘れられないだろう。世界に名を馳せる強い日本を相手に、いいプレーをし、こんなふうにはっきりとした形で勝てたのは、本当にすごいことだ。イラクがまぐれで勝ったなんて思う者は、たぶんひとりもいなかったはずだ。この日の日本は決してイラクより上ではなかった。南野(拓実)など、いつもテレビで見ていた強い選手たちと対等に戦うことができた。とにかくイラクは今日、その強さを見せることができた。2026年のW杯に出場するだけの力のあるチームであることを証明できたと思う」

【「イラクはベストメンバーではなかった」】

 イラクの記者ユニス・アルアカビ氏も、この勝利を大きくとらえていた。

「日本に勝てるチームは、世界のどのチームにも勝てる可能性を持っている。日本はトップクラスのチームだが、イラクはそれを恐れることも臆することもなく、何より不安になることもなく、対峙することができた。イラクの頭にあったことは勝つことのみだった。日本に勝ったことは、イラクの勝利をより輝かせてくれた。おまけに日本はほぼベストメンバーをそろえていたが、イラクはそうではなく、このことは我々により大きな希望を与えてくれた。日本はイラクがより世界に羽ばたけることを教えてくれた」

 また同じくイラク人の記者ラフィク・マフマド氏も試合をこう分析する。

「イラクは42年間、日本に勝っていなかった(日本戦勝利は1982年11月のアジア大会以来)。これは歴史的な勝利であり、日本はイラクの強さを、身をもって感じたことだろう。今のイラクは、中東のトップ3にも入るチームだ。カサス監督は日本の監督に、どうしたらより強いチームをブロックできるか、その方法を教えたことだろう。

 イラク人は日本戦に幻想は抱いてはいなかった。日本のほうがイラクよりずっと優秀であることはよくわかっていた。しかし11人の選手たちは誰もが高いモチベーションにあふれ、一方、日本はどこか眠っているようでもあった。我々は今、本当に幸せだ。世界の名門クラブでプレーする日本の選手たちに勝利したのだ。イラクサッカーにとっても重要な日となった」
(つづく)

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