粘りの走りを見せたものの、結果につながらなかった清田真央 初マラソンで2時間21分36秒を出した安藤友香(スズキ浜松AC)と、2012年ロンドン五輪代表で2大会連続出場となるベテランの重友梨佐(天満屋)、そして安藤と同い年で同じチームの…



粘りの走りを見せたものの、結果につながらなかった清田真央

 初マラソンで2時間21分36秒を出した安藤友香(スズキ浜松AC)と、2012年ロンドン五輪代表で2大会連続出場となるベテランの重友梨佐(天満屋)、そして安藤と同い年で同じチームの清田真央が出場した、世界陸上の女子マラソン。気温19度で陽差しも強いなか、レースは夏の大会特有の遅い展開から一気のペースアップで決着がつく、日本勢には厳しいレースとなった。

 アフリカ勢を中心としたメイン集団は、スタートからの5kmを18分01秒、10kmまでを17分42秒、15kmまでを17分48秒と超スローペースで走った。街中の10km周回コースは、路面条件が多様なだけでなく、上り坂や直角のカーブ、細い道路もあって体への負担がジワジワとかかる。

 通常のレースでは、給水などで意識的にペースを変化させるなかで、徐々に人数が絞られていくものだが、このレースは、リオデジャネイロ五輪2位のユニス・キルワ(バーレーン)や世界選手権11年、13年連覇のエドナ・キプラガト、前回大会2位のヘラー・キプロプ(ともにケニア)などが、牽制し合って動けない状態になっていた。

 レースがやっと動いたのは、35kmを過ぎてから。リオ五輪9位のエイミー・クラッグ(アメリカ)が仕掛けると、集団は9人に絞られた。さらにゴールが近づくと今度はリオ五輪8位のローズ・ケリモ(バーレーン)が仕掛け、クラッグとチェイエチ・ダニエル(ケニア)を振り切って、キプラガトとのマッチレースに持ち込む。

 この間の5kmのラップは16分19秒。その前の17分55秒から一気に加速した。最後はラスト1kmを過ぎてからケリモが競り勝ち、2時間27分11秒で優勝。2位にはキプラガト、3位には追い上げてきたクラッグが同タイムの2時間27分18秒で入り、4位は3秒遅れでダニエルと、最後まで大きなタイム差がないレースとなった。

 日本勢にとって問題だったのは、安藤と重友が、レースが動く前の時点で早々と脱落していたことだ。

 安藤は「20kmを過ぎてから集団についていけなかったのは、私の気持ちの弱さ。最初から揺さぶりはあると思っていたんですが、ひとりではなく、いろいろな人たちがペースを上げたり下げたりしていたので、怖じ気づいてしまったというか。離されてしまった時に気持ちが引いてしまい、自分の体を動かなくさせてしまった。自分らしい走りをやりきれなかったのが一番ダメなところだと思う」と反省する。

 集団離されたものの、そこから順位を落とさず17位でゴールできただけに悔やまれるレースだった。

 また、重友も「早い段階で離れてしまい、後半も思うように追い上げていけなかったのが反省点。給水の前にペースが上がると、終わったあとは自然と前も落ちてくるので落ち着いて走っていたんですが、道幅も狭くて、他の選手と接触することも多かった。そこですごく神経を使ってしまう部分もあった」とロンドン特有のコースにも対応できず、結局、2時間36分03秒の27位でレースを終えた。

 そんななか、最後まで粘りの走りを見せたのが、今回3回目のマラソンだった清田だ。レース前の会見では、揺さぶりに対応するための30kmの変化走で、手応えを感じたと明るい表情で語っていた。

 その清田は中盤までは集団の前方に位置取りして、時には先頭に立って集団を引っ張るシーンもあった。25kmを過ぎると集団から一旦遅れたものの、そこからまた追いつく動きを何回か繰り返し、粘りを見せる。しかし、35kmからの急激なペースアップには対応できず、取り残されてしまった。そこから40kmまでのラップタイムも、18分23秒に落ち、最後の2.195kmも8分25秒と粘りきれず、2時間30分36秒の16位にとどまった。

「粘ったとは言っても、前半からゆとりを持っての走りではなく、いっぱいいっぱいだったので、それが後半に響いて35kmからのペースアップには反応すらできなかった。途中で遅れた時は『多少ペースが上がったとしても、市街地の中では落ちてくる』という想定だったので、焦らずに落ち着いていけていました。でも集団のペースが遅いので、自分がある程度のペースを作りたいと思って前に出た時も引っ張りきれない部分もあった。自分のリズムに乗せることができなかったのが、後半にバテた原因のひとつでもあるので、もっと思い切って、自分で押していく走りができなかったことをすごく後悔しています」

 粘るところは粘ったが、結局は清田も主導権を握る場面は一度もないまま、終盤の強烈なペース変化に屈した。

 そんな日本勢とは違い、アメリカ勢は着実にメダルを獲得した。クラッグは持ちタイムこそ2時間27分03秒と遅いながらも、35kmまでのスローペースにしっかり対応し、そこから自分でレースを動かす強さを見せた。最後は粘り切るだけではなく、ラストの2.195kmは勝負のスパートをかけ、キプラガトを追い込んで銅メダルを獲得した。

 アメリカ勢はリオ五輪でも6位と7位、9位になる健闘を見せていた。日本陸連の山下佐知子オリンピック強化コーチも、マラソンの持ちタイムはないのに、本番では結果を出す、そのタフさに注目していたという。

 実際、クラッグのマラソン以外の記録は、5000mが15分09秒59、1万mは31分10秒69、ハーフマラソンは1時間08分27秒と、日本選手でも届かないタイムではない。ただ、彼女たちはそんな記録を一定のペースで走る記録会ではなく、駆け引きのあるタフなレースで出しているからこそ、揺さぶりや強烈なペース変化にも対応できるのだろう。

 マラソンも記録を狙うというより、夏場の世界大会で結果を出すことに照準を合わせて走っているため、持ちタイムも遅いのだと考えられる。日本勢が入賞を狙うなら、最初から速いペースに持ち込んで先頭集団を絞り込むという作戦も有効だが、さらに高い目標であるメダルを狙うとなれば、アメリカのような戦略的な取り組みが欠かせない。

 世界選手権の入賞ゼロという記録は、日本女子マラソンにとって11大会ぶりという屈辱的な結果だった。ここから復活するためには、選手個々のスピード強化やタフさを身につけるだけでなく、組織としての戦略の立て直しも必要になってくるだろう。