女子サッカーの日本一を決める皇后杯は、残すところあと1試合となった。決勝までの道のりを振り返ると、日本の女子サッカーの…

 女子サッカーの日本一を決める皇后杯は、残すところあと1試合となった。決勝までの道のりを振り返ると、日本の女子サッカーの発展の軌跡が見えてくる。変化の胎動を、サッカージャーナリストの後藤健生が読み解く。

■最下位からの逆襲

 INAC神戸レオネッサの準決勝も延長戦にもつれ込んだ。相手は、ちふれASエルフェン埼玉である。

 EL埼玉は、現在リーグ戦では10位。昨年度の皇后杯でも準決勝に進出して、同じI神戸に敗れてはいるが、WEリーグ発足から2シーズン連続で最下位というチームだった。

 しかし、今シーズンから就任した池谷孝監督の下、このところ強豪相手に素晴らしい試合を続けており、準々決勝では日テレ・東京ヴェルディベレーザを延長戦の末に下していた。

 ベレーザ戦のEL埼玉は序盤戦に何度か攻撃をしかけただけで、後は5バックで専守防衛。トップには本来はボランチである瀬野有希を起用し、前線からも守備を徹底して、「ゼロで抑える時間」を長くすることに専念した。

 引いて守る相手に対してベレーザはサイドからのクロスに対して山本柚月が飛び込んだり、日本代表なでしこジャパン)の主力でもある藤野あおばが鋭いドリブルで切れ込んだり、サイドバックが攻撃参加したりと多彩な攻撃を繰り広げたものの、EL埼玉の分厚い守備を破ることはできないまま時間が経過した。

■ジャイアントキリングの方程式

 こうしてスコアレスのまま迎えた74分、EL埼玉は前線に祐村ひかるを投入。祐村と吉田莉胡のツートップに変更した。瀬野をMFに下げて中盤の守備を強化するとともに、FWを2枚並べてカウンターをしかけたのだ。吉田も祐村も足が速く、ダイナミックに動ける選手だ。

 ベレーザが前がかりになった裏のスペースを使う意図だった。

 そして、このギアチェンジが功を奏して1点を先行することに成功。延長前半95分に吉田のパスを受けた左ウィングバックの金平莉紗が祐村との間で大きなワンツーを使って抜け出して先制ゴールを決めたのだ。

 実は、ベレーザとEL埼玉は2023年12月10日にもWEリーグ第5節で対戦しており、この試合でもEL埼玉はベレーザの攻撃をしのいでスコアレスドローに持ち込んでいた。そして、この試合でも終盤にトップの吉田の走力を生かして何度かベレーザ・ゴールを脅かす形は作っていた。ただ、せっかくのチャンスでパスを選択するなど、攻撃が中途半端で得点には至らなかったのだ。

 試合後、池谷監督は「うちの選手たちはサッカーを知らない」とボヤいていたが、皇后杯ではリーグ戦での引き分けからの教訓を生かして、思い切って攻め切ったことで勝利に結びつけたのだ。

 つまり、EL埼玉はジャイアントキリングの“方程式”のようなものを完成しつつあった。

■大会を盛り上げた主役たち

 準決勝のI神戸戦でもEL埼玉は準々決勝のベレーザ戦とまったく同じメンバーでスタートした。CKに合わせた田中美南のヘディングシュートがポストを直撃するなど、I神戸に何度か決定機を作られたものの、EL埼玉は失点を防いでいた。

 ところが、37分、愛川陽菜からのパスを追った田中が倒され、I神戸がPKを獲得。田中自身が決めて前半のうちにI神戸がリードすることに成功した。

 EL埼玉としては、“方程式”が崩れてしまったのである。

 そこで、EL埼玉は想定よりも早く、後半開始から祐村を投入。ツートップに変更して攻撃モードに入った。そして、52分に祐村が落としたボールを吉田が決めて振り出しに戻すことに成功する。

 だが、61分にはI神戸が左ウィングバックの北川ひかるが持ち込んで、最後は右WBの守屋都弥が決めて再びリード。しかし、EL埼玉も粘って、83分に右からのクロスを祐村がボレーシュートを決めて再び同点。

 前半はシュートがなかったEL埼玉は、後半もシュートはわずかに4本だった。だが、その4本のシュートで2ゴールをゲット。さらに、77分にも吉田のシュートがポストに嫌われる場面もあった。非常に効率的なカウンターだった。

 結局、延長後半の終了間際に、I神戸の北川がゴール前に上げたクロスがそのままゴールに飛び込んで、EL埼玉は土壇場で涙をのんだが、ベレーザ戦の勝利に続いて強豪を追い込んだEL埼玉は今年の皇后杯の主役の一つだった。

 今シーズンの皇后杯は、こうして浦和対I神戸の「頂上決戦」となったのだが、リーグ戦で下位にいる広島やEL埼玉の健闘で盛り上がることになった。

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