所変われば品変わる、と言う。取材で世界各国を訪れる蹴球放浪家・後藤健生にとっては、当然のことだ。また、郷に入っては郷に…
所変われば品変わる、と言う。取材で世界各国を訪れる蹴球放浪家・後藤健生にとっては、当然のことだ。また、郷に入っては郷に従え、とも言われる。サッカー取材においても、同じことが言えるのだ。
■各国の取材風景
Jリーグの試合を取材に行くと、試合開始前に両チームのメンバー表が配られます。先発・控えの選手名や生年月日、身長・体重、前所属チーム。それに、今シーズンおよび通算の出場試合数と得点数が書いてあります。
新型コロナウイルス感染症が拡大した影響で紙のメンバー表が配られなくなり、デジタル配布になってしまいました。そして、「5類移行」後も紙のメンバー表が配られない会場が多いので不便なのですが、それでもとても便利なメンバー表です。
日本サッカー協会(JFA)主催の国際試合の時など、メンバー表の配布が遅れて、試合開始直前になってしまうこともありますが……。
そして、試合後には記者会見室で両チーム監督の記者会見が行われ、それとは別に選手に対してはミックスゾーンでの取材ができます。ロッカールームを出た選手たちが、チーム・バスに向かう間の通路などで選手を呼び止めて話を聞く方法です。
ワールドカップをはじめとするFIFA主催の大会やAFC主催のアジアカップなどでも、あるいはUEFA主催の大会でも基本的には同じようなやり方です。昨年11月のインドネシアでのU-17ワールドカップでは、記者会見はなく監督もミックスゾーン取材でしたが……。
■出所不明のメンバー表
FIFAやUEFAの大会ではスタンドの記者席まで紙のメンバー表やハーフタイム・リザルトなどを持ってきてくれることが多いので、さらに便利です。
しかし、昔から「ところ変われば広報体制も変わる」とよく言われます。JリーグやFIFA、UEFAの大会の常識が通用しない場合もたくさんあります。
最近はずいぶん改善されましたが、20年ほど前まではコパ・アメリカ(南米選手権)などCONMEBOL主催の大会の広報体制は混乱を極めていました。
たとえば、メンバー表……。
メンバー表を持ってスタンドに上がってくる記者もいるので、たしかにメンバー表は存在するのです。実際、僕自身ももらったことがありました。しかし、メンバー表がどこに存在するのかが分からないのです。
Jリーグの場合は(紙の配布がある場合は)、記者控室の一角にメンバー表が置いてあります。
しかし、コパ・アメリカの場合、広報担当者が持って歩いて配っていることが多くて、その広報担当者がどこを歩いているのかが分からないのです。結局、メンバー表をもらえないことが多かったように記憶しています。
■「そんなもん、ないよ~」
1987年の10月に香港に立ち寄った時に、昔の政府大球場(ガバメント・スタジアム。全面改築されて現在のホンコン・スタジアムになった)で「銀牌(シニア・シールド)」のラウンド16、南華対セン湾(「セン」を漢字にすると、草冠に「全」)戦を観戦しました。
「銀牌」というのは、なんと1895年に第1回大会が行われたという伝統あるカップ戦(第1回大会の大会名は「香港フットボール・カップ」)。アジア最古の大会の一つで、1986年当時は「駱駝漆銀牌賽」と呼ばれていました。「駱駝漆」というのはスポンサー名。英語で「キャメル・ペイント」というペンキ・メーカーです。
それで、試合前に「メンバー表がほしいな」と思って、記者席にいる現地の記者たちに(香港のカップ戦に「現地以外」の記者がいるとは思えませんが)「メンバー表はどこにあるの?」と訊いてみたわけです。
そうしたら、広東訛りの英語で「そんなもん、ないよ~」と言われてしまったのです。