【期待を背負ったクライミングモンスター】 1月2日、箱根駅伝の往路。5区・山上りに挑むランナーたちが4区の走者を待ち受けている頃、小田原では雨脚が強まっていた。5区走者はそれぞれに寒さ対策をしていたが、ひと際目立っていたのが創価大の吉田響(…
【期待を背負ったクライミングモンスター】
1月2日、箱根駅伝の往路。5区・山上りに挑むランナーたちが4区の走者を待ち受けている頃、小田原では雨脚が強まっていた。5区走者はそれぞれに寒さ対策をしていたが、ひと際目立っていたのが創価大の吉田響(3年)だっただろう。
「寒さに弱いのでしっかり体を保護するために、ニット帽をかぶって走りました」
箱根駅伝で5区を走った創価大の吉田響 photo by Kishimoto Tsutomu
他のランナーがランニング専用のキャップをかぶるなか、吉田響が身につけたのは白いニット帽。赤と青のストライプにその白色が映えた。Tシャツの下には長袖のインナーを着込み、寒さ対策を万全に行なって臨んだはずだった。
今回、吉田響が注目を集めたのは、もちろんそのルックスだけではない。2年前、大学1年時にも箱根の5区を走り、区間2位と好走。今回優勝した青山学院大の"若の神"こと若林宏樹にも区間順位で勝利している。
さらに今季の吉田響は、出雲駅伝、全日本大学駅伝とともに5区区間賞の活躍を見せている。2年前からは格段に走力がアップし、"新・山の神"候補のひとりに数えられていた。榎木和貴監督が"クライミングモンスター"と名づけたほどだ。
もうひとつ注目を集めた理由は、2年前に走った時とはユニフォームが異なること。当時は東海大の選手だったが、チームとのギャップに悩んだ末に退部し、2023年4月に創価大に編入していた。そんな事情があって、2度目の箱根の山にはユニフォームを変えて臨むことになった。
周囲の期待や注目に応えるべく、本人も区間記録を大きく上回る1時間8分45秒前後をターゲットに掲げ、自信を持って臨んだ。
【完璧な準備も箱根の山は厳しい...】
ところが、箱根の山は厳しい現実を突きつけた。
「いつもだったらプレッシャーを力に変えて走ることができるんですけど、今回は逆に、どんどんどんどん期待が重みに変わった。もちろん寒さも原因でしたが、プレッシャーで走れなくなってしまうのは、自分でも人生で初めての経験でした。そういうプレッシャーのなかで走る選手は本当に強いんだと思います」
序盤は快調に飛ばし、12秒前に出発した帝京大を捉えると本格的に上り始める前に突き放した。傾斜がきつくなってからも区間上位でペースを刻んでいたが、目標としていた区間記録からは大きく遅れ、軽快な足取りとは言えなかった。
区間新ペースで走る城西大の山本唯翔(4年)には、小涌園前(11.7km)で1分29秒、芦之湯(15.8km)では2分21秒と、国道一号線の最高点を迎える前に個人タイムで大きな差をつけられてしまっていた。
その後も最高点を過ぎて下りに入っても、勢いを取り戻せなかった。
「どの選手も下りで切り替えてペースアップしていたんですけど、自分は下りだけを見たら区間19位相当でした。まったく切り替えができず、下りがだいぶきつかったです。出雲、全日本と5区で区間賞を獲得していたので、それを自信にしていましたが、平地の作り方と山の作り方は違うのだと再確認できました。完璧な準備をしてきたつもりでしたが、それだけ対策しても、箱根の山は厳しいのだと感じました」
最後まで苦しい走りになり、山の神になるどころか、区間9位と本領を発揮できなかった。順位もひとつ上げるのが精一杯だった。
それでも、足を前に運ぶことができたのは、自分を受け入れてくれた創価大の仲間が待っていたから。とくに9区を走る同じ姓の吉田凌は、最初に仲良くなった選手でもあり、チームに溶け込むための架け橋になってくれた。
「何度ももうやめたいと思ったほど、今回の箱根はきつかったんですけど、凌が9区に控えている。しっかり最後まで走りきって、タスキをつながなきゃっていう思いで、なんとか走りきることができました。そういった意味でも凌には感謝しています」
往路を終えた時点で、目標の3位には6分30秒以上の差がついていたが、なんとか7位に踏みとどまった。
【飛躍を遂げていたもうひとりの吉田】
響の分も挽回すべく、復路では吉田凌の出番だ。
1年時に8区8位と上々の箱根デビュー。前回は走ることが叶わなかったが、この1年で吉田凌は飛躍を遂げていた。
昨年2月に先輩の葛西潤(現・旭化成)とともにケニアで武者修行を敢行すると、5月の関東インカレはハーフマラソンで3位入賞と早速結果を残している。
さらに、編入してきた吉田響に刺激を受けこれまで以上に走り込むと、駅伝シーズンに入り、出雲、全日本と最長区間のアンカーを任されるまでになり、それぞれ区間5位、7位としっかり走りきった。出雲では準優勝のフィニッシュテープを切り、自信を深めていた。
そして、箱根では復路の要である9区を担うことになった。
9区を走った吉田凌 photo by Kitagawa Naoki
創価大の復路は6区の1年生、川上翔太が区間3位と好走し、2人を抜いて5位に押し上げる活躍を見せた。
「けっこういい流れで来ていたので、その流れに乗ってひとつでも順位を上げることが自分の役目だと思っていました」
吉田凌がタスキを受けた時は再び7位に下がっていたが、自分の役割をまっとうしチームに勢いを取り戻そうと意気込んで走り始めた。
しかし、結果は区間15位。
「自分の走りがうまくできなくて、悔いの残る走りになってしまいました」
14.5kmの横浜駅前までは8位の早大に差を詰められることなく走っていたが、終盤に逆転を許し、順位をひとつ落としてしまった。
【リベンジに燃えるダブル吉田】
響に続き、凌も2回目の箱根は思うように走れず、厳しさを味わった。
チームは総合8位となり5年連続のシード権は確保した。だが、今回は、総合3位以内をチーム目標に掲げ、城西大とともにダークホースと目されていただけに、これで満足するわけにはいかなかった。
「シード権を獲得できてホッとしているところはありますが、チーム目標を達成できなかったのはやはり悔しい。個人としても、今回は(5区で)68分台を目標に掲げていたのでまったくダメでした。来年はふたりでリベンジをしっかり果たしたい。総合優勝を僕たちは来年度の目標に掲げているので、青学大や駒澤大に負けないような走りを『ダブル吉田』で見せていきたいと思います。この1年間、創価大にすごく支えられて頑張ってこられたので、来年は結果で恩返しを果たしたいです」
響は、早くも次回大会での活躍を誓う。
凌も思いは同じ。
「今回はまだまだ力不足の部分を感じたので、課題を一つひとつクリアし、一から積み上げていって、来年はエース区間で勝負できるように頑張っていきたいと思います」
ダブル吉田は、大学ラストイヤーに赤と青のストライプ旋風を巻き起こし、箱根路の頂点を狙いにいく。