エースの松山和希は4区区間2位の走りを見せた photo by AFLO服部勇馬が振り返る第100回箱根駅伝 後編【全日本からの変貌で総合4位】「一強」駒澤大を凌駕した青山学院大の異次元の快走、チーム史上最高位の3位に輝いた城西大の躍進。至…


エースの松山和希は4区区間2位の走りを見せた

 photo by AFLO

服部勇馬が振り返る第100回箱根駅伝 後編

【全日本からの変貌で総合4位】

「一強」駒澤大を凌駕した青山学院大の異次元の快走、チーム史上最高位の3位に輝いた城西大の躍進。至高の"驚走"と新風が吹き込んだ今回の箱根駅伝の上位勢だったが、総合4位に入った東洋大も忘れてはならない。

 これまで総合優勝4回、18年連続シード権獲得中の名門とはいえ、前回大会はシード権内に10位で滑り込み、今季も出雲駅伝8位、全日本大学駅伝14位と低空飛行。主力の足並みがなかなか揃わず、大会前はシード権獲得も危ういという評価さえあった。しかし、本戦ではチームカラーにかけて表現される「鉄紺魂」の真髄を発揮。往路から快走を見せ4位で折り返すと、復路3位の襷リレーでスタート時には3分49秒あった城西大との差を21秒まで縮めて、総合4位でフィニッシュした。

 東洋大OBで東京五輪マラソン代表の服部勇馬(トヨタ自動車)は、近年はテレビの前に10時間陣取り、箱根駅伝全体を楽しみながら後輩たちにエールを送っているが、全日本時からの東洋大の変貌ぶりには驚きを隠せなかったという。

「この2カ月、何があったんでしょう(笑)と思うくらい、全日本の時の状態は良くなかったですからね。僕自身は、今は年に数回、酒井(俊幸)監督に自分の近況を報告するくらいしか連絡を取りませんし、チームの内情も詳しくは知らないです。ただ、今季の駅伝シーズンは"なんて声を掛ければいいのか"と思うくらいの状態だったので、連絡を控えていたくらいでした。本当に箱根駅伝では良い走りを見せてくれました」

 東洋大は1区で15位と出遅れたものの、2区の梅崎蓮 (3年)が区間6位の1時間06分45秒で8人抜きを果たしチームに火をつけると、3区の小林亮太(3年)が区間6位、さらに4区で起用されたエースの松山和希(4年)も期待に応え区間2位。2区から4区でチーム順位を4位まで引き上げた。5区以降もその順位を必死でつなぎ、最後は10区の岸本遼太郎(2年)がチーム唯一の区間賞獲得で締めくくった。

【2区・4区を乗り切れたことが大きい】

 酒井監督はレース後、服部が言う「この2カ月」、細かくいえば全日本後に危機感をチーム全体で共有できたこと、11月下旬以降はケガから復帰した松山が主将としてチームをまとめてくれたことを好成績の大きな要因に挙げた。

 服部はその概要を聞くと、東洋大の選手たちの本戦までの心情を踏まえ、その戦いぶりを振り返った。

「選手って、どうしても結果が悪いとネガティブになってしまうものです。それが外部の人間が見ても状態が悪いとわかるくらいなら、なおさらです。でも、やっぱり本当に自分たちがやるべきこと(目の前の練習に真摯に取り組む、きちんとした日常生活を送る)を明確にして取り組んだからこそ、結果につながったと思います。今回は、100点満点と言っても良いのではないでしょうか。

 流れを見れば、2区の梅崎選手の走りで勢いがついたと思いますが、3区の小林、4区の松山も並走する速い選手につきながらレースを進められたので、そうした巡り合わせも大きかった。

 5区以降の選手は僕自身もどのような走りをするかわからなかったですが、2区、4区を乗り切れたことが10区までの流れにつながったと思います。7区で少し後れを取りそうになったところ(区間19位)を8区でカバーした(区間10位)あたりも、チームとして戦えた象徴だったと思います」

 東洋大は「その1秒をけずりだせ」、「鉄紺」というキーワードでチームの意志を表現するが、今季は「鉄紺の再建」をテーマに向かってきた。今回の箱根駅伝の結果により、その第一歩を踏み出すことができた。

「ここ数年アップダウンのある状態が続いてきたので、来季以降に立て直しのできる状態に戻せたと思います。その点は、酒井監督の手腕が光ったと言えるかもしれません。今は一OBとして応援していますが、はい、ほっとしました(笑)」

 服部自身は、東京五輪は熱中症の影響もあり73位。そのダメージからの回復にしばし時間を要したが、マラソンのトップシーンに戻るべく、本格始動している。正月のニューイヤー駅伝では昨年がアンカーの7区で区間賞、今年も7区を務めてトヨタ自動車の8年ぶりの優勝に貢献し、フィニッシュテープを切った。

 3月の東京マラソンに8年ぶりに出場する予定で、1月上旬から約1カ月半、ケニアの高地で合宿を行なう予定である。

「僕の中ではここまで予定どおり順調に来ていますので、いい練習を積んで臨みたいと思います」

 前評判を覆した後輩たちの「鉄紺魂」に刺激され、服部もまた走り始めていく。

前編:東洋大OB服部勇馬が箱根駅伝2区を走った青学大・黒田や駒澤大・鈴木らの走りを分析


全日本実業団駅伝で優勝テープを切った服部勇馬

 photo by Yohei Osada/AFLO

【Profile】服部勇馬(はっとり・ゆうま)/1993年11月13日生まれ、新潟県出身。仙台育英高(宮城)→東洋大→トヨタ自動車。中学時代から全国レベルの選手として活躍。大学入学後は1年目から主力として活躍し箱根駅伝では9区区間3位、2年時からは3年連続でエース区間の2区に出走し2年時は総合優勝に貢献、3、4年時は2年連続区間賞を獲得した。トヨタ自動車入社後はマラソンに本格的に取り組み、2019年の東京五輪代表選考会のMGCで2位となり日本代表に内定。1年延期となった東京五輪では熱中症の影響もあり73位。その後、しばらくレースから遠ざかるが、2022年秋から本格的に競技を再開し、ニューイヤー駅伝では2023年7区区間賞、24年は7区区間3位で8年ぶりの優勝に貢献した。