今シーズンの順天堂大は箱根駅伝で過去3大会連続シード権獲得を支えてきた主力世代が卒業し新体制で再出発したが、出雲駅伝や全日本大学駅伝では低空飛行に終わった。だが、箱根駅伝は違う。長門俊介・駅伝監督は自身の現役時代を思い返し、全日本後は原点回…

今シーズンの順天堂大は箱根駅伝で過去3大会連続シード権獲得を支えてきた主力世代が卒業し新体制で再出発したが、出雲駅伝や全日本大学駅伝では低空飛行に終わった。だが、箱根駅伝は違う。長門俊介・駅伝監督は自身の現役時代を思い返し、全日本後は原点回帰。記録会に出場せずに、じっくり調整。世界レベルの3000m障害の選手に成長した三浦龍司(4年)、藤原優希(4年)のふたりの主将を中心に、総合5位以内の目標に向かう準備はできている。


最後の箱根路となる三浦龍司

 写真提供/順天堂大

【集団で戦う意識を再確認】

 前回の箱根駅伝は4区でシード圏外の11位に順位を落とすも、5区の四釜峻祐(現・ロジスティード)が区間2位の走りで5人抜き。復路はシード圏内(10位以内)を維持し、8位で迎えた最終10区では西澤侑真(現・トヨタ紡織)が区間賞獲得の走りで総合5位まで順位を上げて締めくくった。四釜、西澤を含めて5人走った4年生はすべて区間7位以内と堅実な走りを見せた結果だった。

 その4年生がゴソッと抜けた今季は、出雲駅伝、全日本大学駅伝とともにスタートから波に乗れずにそれぞれ10位、11位。苦戦が続いている。

 長門監督はふたつの駅伝を振り返り、今季のチーム状況を説明する。

「駅伝経験者が少ない中、できるだけ流れに乗れないと厳しいと考えていました。昨季の4年生世代は、どんな状況になっても流れを取り戻してくれる安心感がありました。しかし今のチームは、初めから流れに乗れないと厳しい展開を迫られる。出雲と全日本はその点が課題として出たレースでした」

 長門監督がその要因として考えたのは、現4年生の主軸になるべき選手たちの駅伝に向う姿勢だった。どこかに甘さがあるのではないか。そのため全日本後には各選手に報告書という形で感想文を出させ、その内容を元にミーティングを敢行。4年生には耳の痛いような内容の指摘も出てきたが、『今のままではダメだ』という危機感を芽生えさせた。

「駅伝を戦う上での心の部分です。うちにはトラックを戦うような選手が多くいるが、トラックは個人。かたや集団で戦う駅伝は、他人事ではなく『人のために』とか、『次の走者のために』という部分が基本になってくる。そういう部分が少し薄れていました。ただ、ミーティングを通してみんなが変えていこうとする空気が生まれ、大きく変わった。2泊3日の伊豆大島合宿に今井正人選手(現・トヨタ自動車九州。順大時代は5区で活躍)が来てくれて話をしてくれたことなど、すべてのものが絡んで変わってきたのではないかと思っています」


エントリー16人のメンバーたち

 写真提供/順天堂大g

【3000m障害ランナーにとっての20kmの意味】

 長門監督は毎年恒例の12月上旬に行なわれるトークバトル(前回大会の上位5チームの指揮官が出席)で、チームのキーマンとして今年は前回9区の藤原優希とともに共同主将を務めた三浦龍司の名前を挙げた。

 三浦は大学1年時から3000m障害で日本のトップ選手に台頭すると、その後は一気に世界の舞台に駆け上がっていった。2年時の2021年には東京五輪に出場し日本人初となる7位入賞、2022、23年には世界陸上選手権に連続出場し23年は6位入賞、世界の強豪が集うダイヤモンドリーグの年間王者を決めるファイナルでも5位と、世界トップクラスの仲間入りを果たした。一方で大学駅伝でも存在感を発揮し、1、 2年時は全日本で区間賞を獲得、3年時は出雲で区間2位、全日本で区間3位と力を見せた。

 かたや箱根では1区を走った1年時は区間10位、2区を走った2年時は区間11位、3年時は区間12位と、見ている側には「もう少し走れるのでは」という印象を与える結果だったが、三浦はこう振り返る。

「僕自身は3000m障害の選手なので、距離でいえば3000mで最大限の力を発揮するため、(駅伝を含めた長距離における)スタミナよりスピードを重視した体づくりと練習を半年以上やった上で、駅伝シーズンに向かっています。その過程では故障のリスクもあり、(駅伝用の)練習の継続や体のメンテナンスの部分で難しさもありました。でもこれまでの3年間の駅伝はダメな結果なのかといえば、自分自身はそうは思っていません。毎回毎回、納得して消化できているので、逆に駅伝への取り組みは無駄じゃなかったかなと思っています」

 箱根駅伝では周囲の期待値があまりに高すぎるゆえ、結果との差があったように見えるが、実際にはそうではない。三浦は前回の2区こそ1時間08分11秒で順位を3つ落としたものの、2年時の2区は快走した日本人トップの田澤廉(駒澤大、現・トヨタ自動車)には1分31秒差だったが、日本人2位には42秒差。1年時の1区は区間1位に31秒差と、大崩れしているわけではない。3000mを主戦場としている選手が1区間20km以上の距離の箱根駅伝を走ることを考えれば、十分に役割を果たしているといえる。

【序盤から流れに乗ることがカギ】

 そんな三浦も、今年は主将を務めたことで意識の変化があったという。

「2、 3年生の時に比べ、今は基本的なところで責任感が出ています。他の人たちのことを見たり、主将という立場に自信を持って1年間やってきて『これまでの自分とは違うのかな』と思うところあります」

 長門監督も三浦の主将としての変化を認めている。

「全日本大学駅伝は、シードを落とせば来年はトラックシーズンに予選会があるからという理由で、三浦とも『後輩たちにシード権を残そう』と取り組んできました。しかしシード権を残せなかったことで、悔しさをすごく見せた。自分以外のことで悔しがるのを初めて見ました。それほど今年の三浦は、チームのことを考えて取り組んでいることを感じました」

 だからこそ、箱根駅伝の三浦には期待したいという。

「3000m障害では世界で活躍できる選手に成長して、みんなに応援される人間として成長した4年間だと思います。多くの人は駅伝でも3000m障害の実績と同等の結果を求めていると思いますが、この1年間はキャプテンとして苦手な役割に挑戦して苦労した部分もある。ただ、三浦自身、熱いものを胸に持っているけど、それが表になかなか出てこない部分もある。今回は彼にとって最後の箱根駅伝になるけど、ここでチームを鼓舞するような、胸にある熱い思いがグッと前面に出てきた時には、チーム全体が奮起するのではないかと。そうした姿を見せてもらいたいですね」

 気迫が全面に出る三浦を見られるのは、エース区間の2区だろうか。

 順大は全日本後、ミーティングを通して箱根の目標を5位以内に修正した。今回は特殊区間といわれる山上りの5区、山下りの6区はそれぞれ適性のあるスペシャリストが不在ゆえにしのぐ区間になるが、往路がうまく流れて7~8位で終えられれば、復路は藤原を中心に、1年間ロード組として駅伝シーズンに向けてじっくり足づくりをしてきた選手たちもおり、目標達成の自信はある。

 往路は春シーズンのトラック組が主体になるが、前回7区区間3位の浅井皓貴(3年)が12月3日の甲佐10マイルで実業団選手を抑えて日本学生最高の46分05秒で走り「2区を走りたい」と自信をつけている。また出雲駅伝と全日本大学駅伝では力を出し切れなかった佐久長聖高(長野)出身のスーパールーキー・吉岡大翔(1年)も、「全日本後は報告書の中でも自分がなぜ走れなかったかを自己分析し、その後は浅井と変わらないくらいの練習ができている」と長門監督も太鼓判を押す。


吉岡大翔は箱根でその潜在力発揮となるか?

 写真提供/順天堂大

 発表済みのエントリー16選手の自己ベスト上位10人の1万m平均タイムは28分56秒85で出場23校中15番目と低いが、それも全日本後に記録会への出場を見送ってきた結果と織り込み済み。

「過去に強かった時、私の現役時代は『調整力の順天堂』と言われていたように、全日本が終わった後は箱根に向けてきちんと準備をしていた。今回はそういう強さを箱根で取り戻す意味でも、記録会には出ず練習で作ってきました」と長門監督はその狙いを説明する。

 前評判は高くない。しかし潜在力は十分。今季の出雲、全日本でつまずいた1区で流れに乗り、気迫あふれる三浦の走りが見られれば、目標の総合5位以内もグッと近くなる。