2021年の東京2020パラリンピックは陸上競技で、翌年の北京2022冬季パラリンピックにはスノーボードで出場。夏冬両方のパラリンピックに出場した小須田潤太は「パラリンピックのメダルが欲しい」という気持ちを強くし、2021-22シーズンから…

2021年の東京2020パラリンピックは陸上競技で、翌年の北京2022冬季パラリンピックにはスノーボードで出場。夏冬両方のパラリンピックに出場した小須田潤太は「パラリンピックのメダルが欲しい」という気持ちを強くし、2021-22シーズンからスノーボードに専念している。そんな小須田に大きな影響を与えた人物、そして変化しつつある競技についての思いを聞いた。

超ポジティブなパラアスリート

需要があるかはわかりませんが、しっかり発信することが大事だと思っています。そう思って知人のお子さんに手伝ってもらいながら、SNSで発信をしてみたらInstagramはもちろんのこと、TikTokのフォロワーも増えてきました。SNSでも『足がなくなってよかった』と発言していますが、もし『今から足を生やすことができるけど、どうする?』とささやかれても確実に断りますよ。本当に、足がなくなってよかった。心の底からそう思っています。

パラスノーボード日本チームの先輩たちから運動神経とセンスの塊と評される。スポーツ好きの両親の血を受け継ぎ、体を動かすのが好きだった

 20歳くらいのころは何も考えない無気力な人間だったし、何かに本気で取り組むことがなかったんです。21歳のとき、交通事故で右脚の大腿部を切断したのですが、足を失ったのは、究極の自業自得です。当時、引っ越し業者で働いていたのですが、3月で超繁忙期だったこともあって自分から『出勤させてください!』と志願して、休みなく働いていました。そんな矢先の居眠り運転でしたから。ただ、好きな仕事をしていただけなんです。

ミラノ・コルティナ冬季パラリンピックのメダルを目指す義足のスノーボーダー小須田

 セレクションには落ちているのに、受かった気分になっちゃったんです。全然ダメだったと思っていたほうが、もっといろんなことにがむしゃらに取り組めたのかもしれないですよね。以来、何事も「そこそこに取り組めばいいや」と考えるようになり、失敗を恐れるようになってしまったんです。

「見た目のこだわりはあまりない」という義足は、ゴルフ選手のジョイントパーツと足部を参考にしたもの。多少凸凹した地形でも、しっかり踏み込めるんだとか

 リハビリを担当してくれた理学療法士からスポーツを勧められていたのですが、義足がフィットしなかったこともあり、正直に言ってピンと来ませんでした。でも、義足で生活したほうがいいことはわかっていましたから、ランニングクリニックに行ってみたんです。そしたら、自分より背は小さいのに世界で戦っている“あの人”との出会いがあり、陸上競技を始めてみようと思うようになりました。

先輩に勝つ。そのために選択した二刀流という道

 陸上競技の道に進んだのは篤さんの存在が大きかったからです。陸上競技ではなく、他のスポーツでもよかったのかもしれません。実際、スノーボードも篤さんの影響で本格的に始めましたしね。篤さんの第一印象? とにかく『カッケー!』です。その篤さんに『お前、タバコやめろよ』と言われたので、翌日からやめました。当時は若手がいなかったこともあると思うのですが、アスリートとしての可能性を見出してくれたんだと思います。

パラアスリートを陸上競技への道にいざなってきた先輩の山本には「たぶん、一生敵いません」

 最初は想像以上に義足で走る難しさを感じました。競技人口が少ないから、すぐに国内3~4番になれましたけど、圧倒的トップの篤さんを目指していたおかげで、とにかく上だけを見てチャレンジを続けることができたんだと思います。

「やるしかない」スノーボードに専念
フィジカルも課題。多いときで3合の白米を食べるなどして増量に励んでいる

 スノーボードは子どもの頃、家族で年に一度、遊びに行っていたくらいの経験しかありませんでした。でも2017年に篤さんが大会に出ていると聞き、滑りを見て「陸上競技ではかなわないけどこれなら勝てるんじゃないか」と思ったのがスノーボード挑戦のきっかけでした。その後、パラリンピックに出場したことで「メダルが欲しい」気持ちが強くなっていきました。

小須田にとって傷跡は挑戦の証。転倒も、骨折も意に介さない

 スノーボードに振り切って取り組むのがメダルへの最短ルートかなと考えたんです。今は2026年のミラノ・コルティナの金メダルを目指しているので、自分の技術を上げるために走量を増やすことが必要だと感じました。一本に絞ると技術的な課題も見えてきて、これまでよく2競技もやっていたなと思うほど、時間が足りないと感じますね。

 子どもってできなかったことがどんどんできていくし、そんなときにうれしそうな表情を見せますよね。自分に子どもが生まれて改めて感じるのは、日々、できなかったことができていく楽しさと喜びです。スノーボードでも、できないことにどんどん挑戦していかないとダメだと常に思っていますし、そういった挑戦を大人になってからもできるって、すごく恵まれた環境にいるなと思います。

生後間もない愛娘を抱く小須田(2023年10月、千葉県内にて撮影)

text by Asuka Senaga

photo by Hiroaki Yoda