スタンドから投げ込まれた食べ物を、試合中の選手がピッチ上で口にする。浅野拓磨の行動がドイツ国中を驚かせたのは、1月16…
スタンドから投げ込まれた食べ物を、試合中の選手がピッチ上で口にする。浅野拓磨の行動がドイツ国中を驚かせたのは、1月16日のウニオン・ベルリン戦だった。
ブンデスリーガの放映権株式を外部投資家へ売却する計画に、各クラブのファンやサポーター団体が抗議。ボーフムのホーム、ヴォノヴィア・ルーアシュタディオンでも、試合中にテニスボールやコインを模したチョコレートなどが投げ込まれた。
そのひとつを浅野が食べた場面が、映像でとらえられたから大変だ。中継していたテレビの解説者は「食べてしまった!」とコメントしたが、周囲をさらに驚かせたのは前半終了間際に浅野が先制ゴールをゲット。3-0の快勝を導いたからだ。
万が一、毒物や禁止薬物が混入されていたら――心配する声が上がるなかで、複数のドイツメディアがウニオン・ベルリン戦後の浅野のコメントを伝えている。
「とても疲れていて、このままではハーフタイムまで持たないと思った。あまりおいしくなかったけど、大事なのはチョコレートでエネルギーをもらったことです」
すべてを前向きに考え、自分にプラスをもたらすと思えば迷わず行動に移す。プレー面で言えば、サッカーにはミスがつきものであり、例えしくじってもその後のプレーで挽回すればいい。浅野の脳裏には加点イズムが常に力強く脈打っている。
■三笘を超える、監督からの信頼感
カタールW杯までの浅野は、代表で目立った実績を残していなかった。不要論だけでなく、サンフレッチェ広島時代に愛弟子だった関係もあって、森保一監督のもとで招集されるたびに「また広島枠か」とも揶揄されてきた。
「所属クラブでの数字や結果を見ても、まったく満足できるものではない。代表でも自分がみんなよりも劣っている、という点は理解しているつもりです」
こう語る浅野は、心ない批判を逃げずに受け止めてきた。その上で、ここでもプラス思考を発揮。所属クラブでアタッカー陣が競うように結果を残す第2次森保ジャパンの現状が、さらなる成長を促す相乗効果を生み出すと逆に歓迎している。
「代表に呼ばれるたびに、いい選手が増えている。みんなのレベルが上がってきているし、僕もその流れについていかなきゃいけない。その意味でも、代表が強くなるための環境というものが整ってきているんじゃないかと思う」
簡単には下を向かない屈強なメンタルを評価しているからこそ、森保監督は浅野を代表に招集し続ける。そして、もう一人。昨シーズンからボーフムを率いる、ドイツ出身のトーマス・レッチュ監督も浅野に全幅の信頼を置いている。
2023年に行われたボーフムのリーグ戦35試合で、右ウイングを主戦場にする浅野はすべてで先発を託されてきた。これは三笘や久保でも成し遂げていない快挙であり、特に今シーズンはチームトップの5ゴールをマークしている。11月に29歳になった韋駄天ストライカーは、現在進行形でポジティブな変化を遂げている。
(取材・文/藤江直人)