井上の強さを誰よりも信頼するアラム氏。この御大は危険な風潮にもクギを刺した。(C)CoCoKARAnext いまやパウンド・フォー・パウンド(全階級で体重差のハンデがない場合に誰が最強であるかを決める称号)でも当たり前のように上位3…

井上の強さを誰よりも信頼するアラム氏。この御大は危険な風潮にもクギを刺した。(C)CoCoKARAnext

 いまやパウンド・フォー・パウンド(全階級で体重差のハンデがない場合に誰が最強であるかを決める称号)でも当たり前のように上位3傑に食い込む。そんな井上尚弥(大橋)だからこそ、メガマッチは望まれる。

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 もっとも、上位に食い込むのも必然だ。プロキャリア25戦無敗(22KO)と敵なしの強さを誇り、各国の識者たちが「モンスターだ」と称える図抜けた才能を遺憾なく発揮してきた。スーパーバンタム級での初陣となった今年7月の2団体統一戦では、“難攻不落”と言われたスティーブン・フルトン(米国)を8回TKOで撃破。「さすがの井上も苦戦するのではないか」との下馬評を覆した井上に対する声価は一気に高まった。

 ワールドクラスの地位を確固たるものとした。ゆえに海外メディアやファンは「イノウエはどこまでいけるのか」と“妄想”を膨らませる。

 フルトン戦後には、KO率93.1%を誇る現WBA世界ライト級レギュラー王者ガーボンタ・デービスとの一大決戦を望む声が噴出。米番組『Show Time』の最高責任者であるステファン・エスピノサ氏は、「ちょっとクレイジーに聞こえるかもしれないが、たった13ポンド増えるだけだ。だから、私はイノウエと“タンク”・デービスの対決が見たい」「彼(井上)に届かないものはない」と推挙した。

 だが、スーパーバンタム級からは3階級も上になる。そこには階級制スポーツだからこその危険が付きまとう。だからこそ、ボクシングの酸いも甘いも知る重鎮も、安易な声に警鐘を鳴らす。

 12月24日に行われた記者会見に出席した米興行大手『TOP RANK』の総帥であるボブ・アラム氏は会見後の囲み取材で「イノウエは偉大なるファイターだ。焦って(階級を)上げるような馬鹿げたことはしない」とピシャリ。「一歩一歩」「一気にジャンプはできない」という言葉を繰り返し、階級の違いが生むリスクを論じた。

 無論、アラム氏は井上の実力を軽んじているわけではない。「歴代のスターたちも劣らぬスーパースターだ」とも絶賛する。だからこそ、「敵がいないなら上げろ」という風潮にクギをさす。

 かく言う井上も「『とりあえず階級を上げろ』というのは、自分はどうかなと思う」と口にしたことがある。バンタム級に属していた21年12月に取材に応じたモンスターは、冷静にこう語っていた。

「階級をひとつ上げるのはそう簡単なものじゃない。それで自分のパフォーマンスが潰されるなら上げることはしない。そこが階級制のスポーツの難しさ。ファンが見たいのは分かりますけど、しっかりと身体をつくってから上げないと意味がない」

 何もかもがハイスピードで処理されていく時代に、娯楽性だけを追い求める世間の声にも流されない井上。信頼できる人々の声を聞き、冷静に己を見定められる姿勢にこそ、怪物たる所以がある。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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