スーパーバンタム級の4団体すべてのベルトがかかる大一番が12月26日に迫った。WBC、WBO王者の井上尚弥(大橋)がWBA、IBF王者のマーロン・タパレス(フィリピン)と有明アリーナで激突する。楽しみな勝負の行方を占ってみよう。 井上が勝て…

スーパーバンタム級の4団体すべてのベルトがかかる大一番が12月26日に迫った。WBC、WBO王者の井上尚弥(大橋)がWBA、IBF王者のマーロン・タパレス(フィリピン)と有明アリーナで激突する。楽しみな勝負の行方を占ってみよう。

井上が勝てば、バンタム級に続いて2階級で4団体統一チャンピオンとなる。実現すれば、スーパーライト級とウエルター級を統一したテレンス・クロフォード(アメリカ)に次いで、ボクシング史上ふたり目。メイウェザーもパッキャオも、カネロさえも達成していない歴史的快挙といえる。

しかし、これほどの大記録がかかる試合にもかかわらず、戦前の予想はモンスターの圧倒的有利と出ている。オンライン・ベットの『STAKES』のオッズは、井上1.07に対してタパレスは7.40。はたして、タパレスはそれほど楽な相手なのだろうか。

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■タパレスの左ストレートがポイント

タパレスの戦績は37勝(19KO)3敗。今年4月に、アマチュアで300勝の実績を持つ実力者、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)を2-1の番狂わせで下して2本のベルトを奪取した。2016年にはWBO世界バンタム級のチャンピオンにもなっている2階級制覇王者だ。

タパレスの評価が上がらないのは、19年に岩佐亮佑(セレス)に11回KO負けを喫しているからだろう。しかも、3回にはボディブローによるダウンもあった。岩佐に明確に敗れた選手がモンスターに勝つシーンは、確かに想像しづらい。

タパレスのベストパンチは、サウスポースタンスからの長い左ストレート。体を前傾しながらスイング気味に打つパンチで、アフマダリエフにもよく当たった。思い切りよく振ってくるパンチは軌道が見づらい。速いバックステップで距離を取るモンスターにこのパンチが届くかがポイントとなりそうだ。

■サウスポーを得意とするモンスターに死角はない

一方の井上のキーパンチはジャブ。スティーブン・フルトン(アメリカ)戦では、1ラウンドにジャブの差し合いを制して楽々と試合の主導権を奪ってしまった。今回はリーチのアドバンテージもある。鋭いジャブが当たるか、まずは試合の立ち上がりに注目だ。

そして、左フック。タパレスは左ストレートを打つときに右ガードが下がるクセがある。ここにモンスターは強い左フックを狙い撃つだろう。また、サウスポーはレバーのある右脇腹が前に出る。抉るようなボディショットが打ちやすくなる。

井上は過去、サウスポーと3戦して3KO。しかも、3ラウンド、1ラウンド、2ラウンドと圧倒している。得意のボディブローが炸裂すれば、早いラウンドでの決着もありそうだ。

■早くも気になる次戦の対戦相手は?

むしろモンスター陣営が警戒しているのは、楽勝ムードによる気の緩み。本人が話しているように、「ボクシングは何が起こるか分からないスポーツ」だ。まさかあのマイク・タイソンが東京ドームでジェームス・ダグラスにKO負けするとは、誰も思わなかった。

しかし、その心配も井上には無用だろう。この試合に備え、4人のメキシカンをパートナーに116ラウンドという異例のスパーリングをこなしてきた。記者会見でも、「これまでにないモチベーション」を強調していた。順当にいけば、試合中盤までのKO勝利とみる。

そうなると、気になるのは今後のスケジュール。復帰戦を壮絶なKOでクリアしたアフマダリエフ、実績のあるルイス・ネリ(アメリカ)などが次戦の候補か。しかし、個人的にはジョンリル・カシメロ(フィリピン)との因縁に決着をつけてほしい。モンスターにとって、まさに「やり残した仕事」。凄まじい打撃戦になるはずだ。

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著者プロフィール

牧野森太郎●フリーライター

ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞