ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」――いよいよ年末の大一番、"グランプリ"GI有馬記念(中山・芝2500m)が12月24日に行なわれます。イクイノックスやリバティアイランドの名前はありませんが、今年もGI馬8頭が出走。豪華な…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――いよいよ年末の大一番、"グランプリ"GI有馬記念(中山・芝2500m)が12月24日に行なわれます。イクイノックスやリバティアイランドの名前はありませんが、今年もGI馬8頭が出走。豪華なメンバーがそろいました。

大西直宏(以下、大西)GIジャパンC(11月26日/東京・芝2400m)で"現役最強馬対決"が実現し、多くのファンがその勝負に夢中になりました。その後、イクイノックスが同レースを最後にしての現役引退を発表。有馬記念では、"世代間の対決""(有力馬に騎乗する)騎手の腕比べ"といった点に注目が集まりそうです。

 実際、有力馬は五指に余り、どの馬にも勝つチャンスがあるため、(それらに騎乗する)騎手の駆け引きが重要になるレースと言えます。それぞれの人馬がどのような意識で臨むのか、想像するだけでもワクワクしますね。

――今年から1着賞金が5億円に増額されました。5着馬でも5000万円の賞金が得られますが、それによってジョッキーのモチベーションも変わりますか。

大西 それは、間違いないでしょうね。イクイノックスという"怪物"が不在で、どの馬にも上位入線の可能性がありますから。乗り役にとって、これほど「一発を狙ってやろう」「ひとつでも上の着順を勝ち取ろう」と思えるレースはそうそうありません。

 中山・芝2500mはトリッキーなコースで知られ、乗り方次第で実力以上の走りができます。全馬が全力を尽くし、ゴール前は激しい争いになるでしょう。

――イクイノックスが出走したレースは、他の馬が同馬をマークして動き出すような展開が多かったように思います。今回はその大本命が不在のなか、各ジョッキーが重視するのはどういった点になるのでしょうか。

大西 今回は、レースの流れに乗ること、自分の馬の最大限のパフォーマンを引き出すことが重要になります。他馬のことよりも、自らの騎乗馬に一段とフォーカスした乗り方をするのではないでしょうか。

 たとえば、ドウデュース(牡4歳)は近2走、かなりイクイノックスを意識した騎乗をしていましたが、今回は本来の後方ポジションから末脚を生かす騎乗をしてくる可能性が高いと思います。

 また、GI天皇賞・秋(10月29日/東京・芝2000m)で2着だったジャスティンパレス(牡4歳)は、前走はハイペースの流れについていかず、終(しま)い勝負に徹したことが奏功しましたが、今回はもう少し位置取りを意識して(より勝ちにいくポジションで)運ぶことを考えるかもしれません。

――クラシックホースの3歳牡馬2頭、皐月賞馬のソールオリエンス(牡3歳)とダービー馬のタスティエーラ(牡3歳)は、どういった競馬をすると思われますか。

大西 ソールオリエンスには川田将雅騎手、タスティエーラにはライアン・ムーア騎手が騎乗。2頭にとっては初めての古馬相手のレースになりますが、近年の有馬記念では3歳馬の活躍が目立っていますから、斤量の軽さを生かした積極的な走りを見せるのではないでしょうか。どちらも早めに仕掛けてくることが予想されます。

――有力各馬がそれぞれベストな乗り方をした場合、穴馬として面白そうな存在はいますか。

大西 展開面の恩恵を受けそうなのは、タイトルホルダー(牡5歳)です。僕の見立てでは、前走のGIIIステイヤーズS(12月2日/中山・芝3600m)で逃げきりに成功したアイアンバローズ(牡6歳)が何が何でも逃げると考えていて、その番手となる絶好位にタイトルホルダーがつけると思うからです。

 もしアイアンバローズがハナをきれなかった場合でも、タイトルホルダーが先手を奪うことになるでしょう。いずれにしても、実質的に展開を作るのはこの馬。その優位性は少なからずあると見ています。



ラストランとなる有馬記念では展開面で恩恵を受けそうなタイトルホルダー。photo by Kyodo New

 有馬記念3度目の参戦となる今年は、ここが引退レースとのこと。メイチの仕上げが施されてレースに臨んでくるでしょう。今になって、あれこれと作戦を考える必要もなく、本来の自分のスタイルで全力を出しきる競馬を試みると思います。

 ジャパンCでは早めにイクイノックスに並びかけられて厳しい競馬になりましたが、もともとこの馬は直線の長い東京コース向きの馬ではありません。コーナーを何度も回るようなコースでこそ、持ち味を発揮します。陣営としても、この秋3戦のなかでもここが最大のチャンスと認識しているはずです。

 引退レースなので単勝は上位人気の一角になるかもしれませんが、人気が分散してレースの中心的な立場からは解放されるので、他馬のマークが緩くなった時、この馬が粘り強く頑張るシーンがあってもおかしくありません。「ヒモ穴馬」としてチェックする価値は大いにあると思います。