無良崇人 インタビュー 全日本フィギュア2023 男子編(全2回) いよいよ12月21日に開幕するフィギュアスケートの全日本選手権。2014年四大陸選手権男子金メダリストで、全日本では5回表彰台に上がったプロフィギュアスケーターの無良崇人さ…

無良崇人 インタビュー 全日本フィギュア2023 男子編(全2回)

 いよいよ12月21日に開幕するフィギュアスケートの全日本選手権。2014年四大陸選手権男子金メダリストで、全日本では5回表彰台に上がったプロフィギュアスケーターの無良崇人さんに、全日本フィギュアの見どころについてインタビュー。前編では、21日にショートプログラム(SP)、23日にフリーが行なわれる男子シングルについて聞いた。

【一番嫌いな大会だった?】

ーーまず、フィギュアスケーターにとって全日本選手権とはどのような大会なのでしょうか?

無良崇人(以下同) 僕自身はシーズンを通して一番緊張する試合というか、ある意味、一番嫌いな試合でした(笑)。グランプリ(GP)シリーズや四大陸選手権、世界選手権なども出場する選手は全力を出して臨んでいるのは確かなんですけど、全日本選手権で結果を出さなければそういった国際大会につながらない。そういう意味でも全日本はカギになる試合ですし、選手の気持ちが大きいんじゃないかなと。僕は一番緊張したし、プレッシャーがかかる試合でした。

ーー試合直前は選手からするとどういう時期でしょうか?

 ある程度の体力や技術の基礎的な部分はシーズンを過ごしてついてきていて、全日本へ向けてまたピークを上げてきている途中だと思います。最後のひと仕上げをする段階は、調子が上がらずに焦る選手もいるだろうし、いい調子で調整ができている選手がいるだろうし。各々が心と身体を整えている時期だと思います。

【成熟した宇野昌磨か、安定感の鍵山優真か】

ーーでは、男子シングルの見どころを教えてください。

 今シーズン、鍵山優真選手がケガから復帰して、順調に調子を上げてきていると思います。鍵山選手とともにGPファイナルに出場した宇野昌磨選手、三浦佳生選手はスケジュールがタイトなのでピークを合わせるのが大変だと思いますが、GPシリーズ2戦を勝ち抜いてファイナルに出場した真の実力者として全日本に登場します。自信を持って全日本に臨めるでしょうし、ファイナルで課題を見つけた選手は修正してくる。



NHK杯、GPファイナルで2位だった宇野昌磨

 個別で言うと、宇野選手はNHK杯の回転不足判定は僕もちょっと腑に落ちない部分はありますが、何も考えず自信を持っていつもどおりやってくれればいいんじゃないかなと思っています。今シーズンの彼はジャンプの内容よりプログラムの完成度に力を入れてきているのが明確に出ていますし、演技構成点でもつなぎの部分などで成熟した表現者の魅力が出ているプログラムになっていると感じています。やってきたことは間違っていないと僕は思っているので、自信を持って出しきってほしいなと思いますね。



NHK杯で優勝を果たした鍵山優真

 鍵山選手は大きい失敗が少なく安定感抜群。4回転はトーループとサルコウという構成ですが、クオリティの高いもの、加点がしっかり得られる一つひとつの要素というのは彼の強みですし、多少軸が曲がったジャンプでも着氷をしっかり流せるから加点がもらえる。そういう持ち味がある選手だからこそ、全日本でどういう演技をするか楽しみであり、見どころだと思っています。

 三浦選手はGPファイナルの時の体調不良が心配ですが、あれだけ豪快な4回転ジャンプを跳べる選手は他にいないと思うんです。それが彼の一番の持ち味だと思うし、フリーの『進撃の巨人』はアニメを見ていた側からしても面白いなって(笑)。彼は上の選手たちに追いつくために、自分のスケートを伸ばすためにどうしたらいいかというのをすごく具現化できていて、昨シーズンから彼の成長をすごく感じていますし、負けん気、気持ちの強さもある。全日本という緊張する舞台でも、今季はやりきるところまで持ってきてくれるんじゃないかなと見ていて思います。

【佐藤駿は「一番化けた選手」】

ーーGPファイナルに進出した選手以外だといかがでしょうか?

 僕のなかで、佐藤駿選手は一番化けた選手だと思っています。今シーズンは海外へ練習に行ってプログラムもつくって、意識が変わったなというのが第一印象です。今まではジャンプで頭がいっぱいになっていて、もうちょっと表現を意識してくれればなと思うことはあったんですけど、今シーズンのプログラムを見て、「やればできるんじゃん」って正直思いました(笑)。ジャンプがハマる・ハマらないはあると思うんですけど、そこだけじゃなくなったのは大きい。



東京選手権で大技・4回転ルッツを解禁した佐藤駿

 山本草太選手は伸びやかなスケートや彼が持っている雰囲気をプログラムのなかでも出せているので、あとはジャンプを決めるだけ。彼の持つ力やペースがかみ合ってくれば問題ないと思います。年齢を重ねていくと個性や味が濃くなってくるなと感じているので、精一杯やりきってほしいですね。

 友野一希選手は今季、ハマっているようでハマりきってない部分があると思いますが、彼は強い気持ちと最後までやりきれる体力がある。僕なんかは25歳くらいの時は体力的になかなか難しいものがあったから(笑)。山本選手にしても友野選手にしても、ジャンプの調整ができれば勝負できる。全日本はくすぶって終わっちゃうのが一番悔しいと思うので、自分が持っている武器を全部出しきってほしいです。



全日本フィギュアの見どころを語った無良崇人さん

ーー若い世代で注目している選手は?

 ジュニアGPファイナル優勝の中田璃士(りお)選手ですね。ファイナルでのすばらしいフリーの勢いのまま、全日本に乗り込んで来るんじゃないかなと。

 男子はそれぞれ個性や武器が違っていて、見ていて面白い。あの舞台でどれだけ力を出しきれるか。試合前の調子のよし悪しって、僕は意外と関係ないなと思っていて。僕なんか最後のシーズンは本番でしか4回転跳べていなかったですし(笑)。ただ、自信を持って試合に臨める安心材料としては大きい。どの選手も緊張する場面で自分をコントロールし、力を出しきってほしいですね。

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【プロフィール】
無良崇人 むら たかひと 
1991年、千葉県生まれ。フィギュアスケートのコーチをしていた両親の影響で、2歳からスケートを始める。現役時代には、GPシリーズのフランス杯やスケートカナダで優勝、2014年四大陸選手権を制覇。全日本選手権で3位5回。2018年に競技を引退し、現在はプロスケーターやコーチ、解説者として活躍している。