坂本花織は「女子選手っぽくない」無良崇人が占う全日本選手権　絶賛する注目の新星は？

無良崇人 インタビュー 全日本フィギュア2023 女子編（全２回）

　いよいよ12月21日に開幕するフィギュアスケートの全日本選手権。2014年四大陸選手権男子金メダリストで、全日本では５回表彰台に上がったプロフィギュアスケーターの無良崇人さんに、全日本フィギュアの見どころについてインタビュー。後編では、22日にショートプログラム（SP）、24日にフリーが行なわれる女子シングルについて聞いた。

【坂本花織は女子っぽくない？】

ーー男子に続いて、女子シングルの注目選手を教えてください。

無良崇人（以下同）　まず、坂本花織選手。グランプリ（GP）ファイナルは彼女の優勝が僕のなかで一番大きなトピックでした。ふだんはおどけていたり、日常的にハプニングが起こって周囲を笑わせるようなキャラクターなんですけど（笑）。やっぱりここ一番の気持ちの強さがある。緊張感のなかでも「絶対に！」という強さ。それに、いい意味で女子っぽくないというか。あれだけスケートを速く滑れる選手は男子でもあまりいないと思います。実際に生で見ると感じてもらえると思うんですけど、スピードを活かして跳ぶジャンプも彼女にしかできない技術。だから彼女もいつもどおり、練習どおりやってほしいなと思っています。

　ジュニアGPファイナルのフリーでトリプルアクセルと４回転トーループを成功させて優勝した島田麻央選手は、これからの女子選手の起爆剤になると思って見ています。もちろんスピンなどジャンプ以外の部分も年々クオリティが上がり、すべてのレベルが高い選手です。いつか４回転ジャンプをバンバン跳ぶロシアの選手が試合に戻ってきた時、立ち向かっていくには演技の質、プラスアルファでレベルを上げていかなければいけない。島田選手や住吉りをん選手が４回転を成功させたり、吉田陽菜選手や渡辺倫果選手、樋口新葉選手などトリプルアクセルを入れてくる選手が増えてきましたが、新しい時代をつくっていってほしいですね。

GPファイナルで優勝した坂本花織（左）と３位に入った吉田陽菜 photo by Getty Images

　個人的には、吉田選手のトリプルアクセルがすごく好きなんですよね。力やスピードをうまく使って跳ぶアクセルは見ていて気持ちいい。エッジワークなども毎日練習を積み重ねて「吉田陽菜」というスケーターがつくられているんだなとすごく感じますね。雰囲気も含めて成長を感じる選手のひとりです。

　三原舞依選手は今シーズン抱えているケガが心配ですね。伸びやかなスケートやかもし出す空気感は三原選手だけの武器。「無理しないでね」とも言えないので、少しでも回復して元気に（大会会場の）長野入りしてくれるといいなと思っています。

　樋口選手は、「よく戻ってきてくれた！」と思いましたね。女子は休養の後にコンディションを戻すのって大変だと思うんです。男子の比じゃない。戻ってくるための労力は計り知れないものがあると思うので、そういった意味でも「おかえりなさい」と言いたいです。NHK杯から全日本までの間にどれだけ戻してくるのか楽しみですね。

【精神力の強さがものを言う】

ーー女子ならではの見どころは？

　女子はジャンプが成功する、しないではなく、ノーミスが基準みたいなところがある。やりきって当たり前で、そこからが勝負というか。精神力の強さがものを言うし、GOE（出来ばえ点）をどれだけプラスにできるかの選手権だと思っています。もちろん４回転やトリプルアクセルを何人もの選手がプログラムに入れてくると思うのでそれも見どころですが、やっぱりどれだけ質のいいものを見せられるかが重要になってくる。実際に試合をする側からしたらすごく大変だとは思いますが、見ていて面白い全日本になると思います。

全日本フィギュアの見どころを語った無良崇人さん

ーーさて、無良さんもクロコダイル役で出演した今夏のアイスショー『ワンピース・オン・アイス』からスケートに興味を持った方もいると思います。そんな新しいスケートファンに向けて、全日本選手権の観戦ポイントをあらためて教えていただけますか？

『ワンピース・オン・アイス』は物語を見せるためのスケートが主体だったけれど、試合は技術をベースに競うもの。現役選手たちが競うためにやっているスケートの演目や迫力を味わってほしいなと思っています。アイスショーの魅力と競技の魅力って、またちょっと違うと思っていて。選手たちが100％を出しきろうとしている姿を実際に見てほしいし、それを見たうえで、アイスショーに出演しているプロスケーターたちの見せる演技のよさもわかってもらえるかな、と。

　両方見ることでまた一段とスケートの面白さが伝わると思うので、現地だったらスピード感や会場で感じる音、空気感を知ることができるし、テレビや配信だったらスロー映像でこうやってジャンプを跳んでいるんだとじっくり見ることができる。とくに今年は『ワンピース・オン・アイス』に出演した面々も出ているので、応援しがいがあるんじゃないかなと思いますね。

【それぞれのストーリーがある大会】

ーー全日本は毎年いろんなドラマがありますから、見逃せないですね。

　今年が最後のシーズンという選手もいますし、念願の初出場という選手もいる。表彰台を狙う選手たちはもちろんですが、ブロック大会、東日本選手権と西日本選手権という２回の予選を勝ち抜いて上がってきた選手たちもそれぞれストーリーがあるんです。そうやってたどり着いた全日本だからこそ、みんなが力を出しきってほしい。トップ選手ばかり注目されがちだけど、全員がすごく頑張ってきた選手たちなので応援してほしいですね。

ーー最後に、出場する選手たちにエールをお願いします。

　選手によってそれぞれ目標は違いますが、自分がこれは絶対やりきりたいと思う部分は絶対にクリアしてほしいなと思っているんです。自分で出しきった、やりきったと思うことで、次にステップアップするための課題が見えてきます。次に進むためにも、2023年を気持ちよく終わるためにも、最後まで諦めずに戦えるよう祈っています。

終わり

男子編＜宇野昌磨か鍵山優真か...無良崇人が展望する全日本フィギュア　一番化けた選手は？＞を読む

【プロフィール】
無良崇人　むら・たかひと　
1991年、千葉県生まれ。フィギュアスケートのコーチをしていた両親の影響で、２歳からスケートを始める。現役時代には、GPシリーズのフランス杯やスケートカナダで優勝、2014年四大陸選手権を制覇。全日本選手権で３位５回。2018年に競技を引退し、現在はプロスケーターやコーチ、解説者として活躍している。