2024年1月2日・3日に行われる第100回箱根駅伝がいよいよ迫ってきた。今シーズンの学生駅伝界は、駒澤大の「一強」と言っても過言ではない状況が続いてきたが、史上初の2年連続学生駅伝3冠という偉業をライバルは止めることができるのか? 学生駅…

2024年1月2日・3日に行われる第100回箱根駅伝がいよいよ迫ってきた。
今シーズンの学生駅伝界は、駒澤大の「一強」と言っても過言ではない状況が続いてきたが、史上初の2年連続学生駅伝3冠という偉業をライバルは止めることができるのか? 学生駅伝のテレビ中継、また箱根駅伝では第一中継車の解説でお馴染みの渡辺康幸氏(住友電工陸上競技部監督)に、"ストップ駒大"の有力校について、うかがった。

渡辺康幸が占う第100回箱根駅伝 後編


前回大会は2区区間賞の中央大・吉居大和

 photo by Jiji Press

【城西大、創価大は往路優勝の可能性を秘める】

――駒大の強さが際立つ一方、ストップ駒大の有力候補は青山学院大、國學院大、中央大(全日本の2位から4位チーム)の3校を軸に、今季の駅伝で上位に食い込み存在感を発揮している城西大(出雲3位、全日本5位)、創価大(出雲2位、全日本6位)が続く印象です。

「いや、分けるのではなく、城西大と創価大も最初に挙げた3校と合わせて入れてしまっていいのかなと思います。『1+5』です」

――今季、勢いのあるチームに触れていただきましたが、2校について高く評価している理由は?

「城西大は山本唯翔(4年)、創価大は吉田響(3年)という山上り(5区)のスペシャリストがいることです。吉田選手は2年前に区間2位(当時・東海大)、山本選手は昨年、区間新記録で区間賞と5区でその名を一躍とどろかせ、今シーズンも好調を維持しています。彼らがいることで4区までリードを奪われていても、山上りでひっくり返して往路優勝という可能性を秘めています。ふたりのスペシャリストがゲームチェンジャー(レースの流れを決める力を秘めた選手)になり得るので、青学大、國學院大、中大と肩を並べる存在として名前を挙げていいと考えています」

――両校とも主力選手が各学年からバランス良く出ていることも特徴です。

「そうですね。端的に言えば両チームとも良い留学生ランナーを擁しつつ、留学生頼みでないチームであるから強い。つまりそれだけ日本人選手が今シーズン、しっかり成長してきたことがここまでの成績に表れている。城西大はヴィクター・キムタイ、斎藤将也の2年生コンビ、創価大は留学生2番手のスティーブン・ムチーニ(1年)となった点は計算しづらいですが、桑田大輔(4年)はじめ往路候補は多い。その上、箱根では平地の区間よりも差が出やすい5区のスペシャリストがいるわけですから、往路優勝に手をかけているチームとして見ています」

【ハマれば魅力の中大の爆発力】

――では、次に全日本2位、箱根では2年ぶり7回目の優勝を狙う青学大についてはいかがでしょうか。

「スピードのあるレベルの高い選手は多いのですが、ゲームチェンジャーと呼べる選手が少ない印象です。2区候補もパッと思い浮かぶ選手がいないので、原晋監督としては区間配置に少し悩む部分はあるのではないでしょうか。2年生の黒田朝日選手が急成長してきているので、彼を2区か5区のどちらで走らせるのか。そこが戦略としてひとつのカギになると思います。ほかに5区で実績のある若林宏樹(3年/2022年区間3位)、過去2年の箱根で好走した太田蒼生(3年/2022年3区区間3位、2023年4区区間2位)の両選手もいわゆるゲームチェンジャー候補ですが、大黒柱と呼べる選手が誰になるのか」

――選手層は高いレベルで厚いが、そこからさらに突き抜ける存在がほしい。

「10区間トータルで考えれば、復路で巻き返す力は十分に備えています。ただ、往路で乗り遅れてしまう危険性もあるので、そこをどう対処していくか、という意味です」

――前回大会の近藤幸太郎(現・SGホールディングス)選手は別にして、原監督は箱根で連覇している頃もそうでしたが、エース区間の2区で勝負! という区間配置を必ずしもしてきた訳ではありません。

「昔からそうですよね。2区を特別視しているわけではありません。今回でいえばオーソドックスにいくなら2区に黒田選手、5区に若林選手、ゲームチェンジャーになりえる太田選手を3区か4区に置く。あと1区候補の佐藤一世(4年)選手もいますので、往路でうまく力を発揮できれば、復路はアドバンテージがあるので、駒大に挑めるのかと思います」

――前回大会2位の中央大についてはいかがですか。前回大会2区区間賞の吉居大和(4年)選手が最終学年となり、チーム全体でも総合優勝を狙える戦力が整っています。

「打倒駒大という意味では、戦力がハマったら一番可能性があるのは中大だと思います。吉居兄弟(大和、駿恭/2年)、中野翔太(4年)というスピードランナーを3人並べたら、すごい力になると思います。ただ、トラックで5000m13分20秒台の自己ベストを持っている選手が多いことは間違いないのですが、ロードレースの1区間20km近い箱根駅伝にしっかりシフトできるかどうかがカギとなります。私の現役時代は、駅伝シーズンに(トラック用の)スパイクを履くことがなかったのでわかりませんが、近年は秋以降にもトラックレースに出る選手が増え、中大の主力もそうです。その辺りの調整をどうしていくのか。トラックの延長で駅伝を走れるわけではありませんので、その点が気になります」

――実際、11月の全日本では1区からその3人を並べましたが、うまくいきませんでした。吉居大和選手は直前に海外でのトラックレースに出場した影響もあったかもしれませんが、3区で区間11位と精彩を欠きました。

「そういう崩れるリスクはもちろんあります。とはいえ、おそらく1区・駿恭、2区・大和への兄弟襷リレーが見られる可能性は高いです。ふたりとも、持っている潜在能力が高い選手ですし、中野選手含めて3人が力を発揮できれば4区に湯浅仁(4年)、5区には過去2年の経験がある阿部陽樹(3年)と、頼れる選手がいるので、やはり個々のパンチ力が強力な布陣です」

――國學院大はいかがでしょうか。全日本7区ではエースの平林清澄(3年)選手が区間賞を獲得するなど、成長を続けています。

「学生駅伝のトップ3、悪くてもトップ5に安定的に入るチーム力を十分に備えてきました。取材に行った知り合いの報道陣の方たちも一様に、すごくいいチームになっている、と言う人も多いです」

――頂点を狙うためにはもう一段階、チームとしてのブレイクスルーが期待されます。

「2区候補の平林選手のみならず、山本歩夢(3年)、青木瑠郁、上原琉翔(共に2年)、5区候補の伊地知賢造(4年)ら個々の選手も強さを発揮しているので、崩れることはない。だからこそ、そこから頂点に対してどう挑んでいくか。泥臭い練習もやっているので復路でも強いと思いますが、どこかで爆発力がほしい。その部分をどう醸成していくかだと思います」

【早大、法大、大東大がシード争い上位に】

――頭ひとつ抜け出た駒大に、中大、青学大、國學院大、城西大、創価大が駒大を追うグループという情勢ですが、この6校以外の有力校についてはいかがですか。

「自分の母校でもある早稲田大は、シード校候補筆頭に挙げられると思います。大きいのは大迫傑(現・Nike)選手の早大ハーフマラソン記録を塗り替えた山口智規(2年)選手の成長です。エースの石塚陽士(3年)、前回大会5区区間6位の伊藤大志もいるので、往路優勝まではいかなくても好位置につけて復路につなげられると思います。あとはシード校の地位を固めつつある法政大、全日本ではシード権を獲得した大東文化大も日本人選手の成長が著しいので、十分にシード権獲得の可能性を秘めています。続くのは、帝京大学、1万m27分台を誇る吉田礼志(3年)選手が率いる中央学院大、神奈川大という百戦錬磨の監督が率いるチームで、いかに自分たちの展開に持ち込むかがカギになります」

――ここ数年は苦戦が続く中でも18年連続シード権獲得中の東洋大については?

「確かに厳しい部分はあるかもしれませんが、ギリギリの戦いでしぶとさを見せてきたチームです。シード争いには絶対に絡んでくると思います」

――前回大会5位の順天堂大は、三浦龍司(4年)選手が最終学年で迎えますが、今季の駅伝シーズンは苦戦が続いています。

「三浦選手の動向がどうなるか。3000m障害で世界のトップクラス入りした選手ですので、最後の箱根駅伝をどう捉えるか。2024年がオリンピックイヤーであることと、今の調子次第と思いますが、出るなら1区が有力なのと思います。それと、まだ力を発揮しきれていない1年生の吉岡大翔の走りにも注目したいです」

――スーパールーキーの前田和摩選手を擁する10年ぶりの出場となる東京農業大、山本豪新監督の体制で迎える明治大の走りにも注目が集まります。

「東農大は、前田選手を2区に据えて、高槻芳昭と並木寧音の4年生を前後で固めるなど頭から速い選手を並べて、序盤を盛り上げてくれそうです。明大の山本監督は私と同級生ということもあり、個人的には応援したいチームです」

――メンバー変更等も含めて、最後に見どころをお願いします。

「まず12月29日の区間エントリーがありますので、補欠選手に誰を置いているかなどから、各校の監督がどのような意図を持って戦略を立てているのかを読み解いていくのがレース前の楽しみだと思います。レースでは、特に駒大が佐藤圭太選手を1区に置いてくるのかどうかも気になりますが、やはりエース区間、華の2区が最大の注目ポイントです。留学生もいますので、いくら駒大といえども、独走にならないのではないかと思います。今は昔でいう"つなぎ区間"がなく、どこも重要な区間ですが、2区以外ですとやはり山上りの5区が注目区間ですね。今回は5区で順位変動が見られるのではないでしょうか」

⚫︎プロフィール
渡辺康幸(わたなべ・やすゆき)/1973年6月8日生まれ、千葉県出身。市立船橋高-早稲田大-エスビー食品。大学時代は箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝、トラックのトップレベルのランナーとして活躍。大学4年時の1995年イェーテボリ世界選手権1万m出場、福岡ユニバーシアードでは1万mで優勝を果たし、実業団1年目の96年にはアトランタ五輪1万m代表に選ばれた。現役引退後、2004年に早大駅伝監督に就任すると、大迫傑が入学した10年度には史上3校目となる大学駅伝三冠を達成。15年4月からは住友電工陸上競技部監督を務める。学生駅伝のテレビ解説、箱根駅伝の中継車解説でもお馴染みで、幅広い人脈を生かした情報力、わかりやすく的確な表現力に定評がある。