サッカーではポジションごとにそれぞれの役割があり、選手それぞれに個性がある。それでも、重要なのは年間20得点する選手で…
サッカーではポジションごとにそれぞれの役割があり、選手それぞれに個性がある。それでも、重要なのは年間20得点する選手であると、サッカージャーナリスト大住良之は語る。その意味することとは――。
■得点王は「探す」もの
2005年以来19シーズンのJ1で20ゴールを挙げた日本人選手は11人だが、そのうち自クラブのアカデミーから昇格した選手はわずか2人(柿谷曜一朗と杉本健勇、ともにセレッソ大阪)にすぎない。高校を卒業してプロになった最初のクラブで記録した選手は、前田遼一(暁星高校からジュビロ磐田)ひとり。小林悠(川崎フロンターレ)は、拓殖大学を卒業してプロになった川崎で2017年に23ゴールを記録している。
すなわち、「シーズン20ゴール」の選手の大半は、「育てられた」わけではなく、「探してきた」のである。クラブとしての「補強」の能力に負うところが多い。だが、誰の目にも得点を量産するのが明らかな選手、あるいはすでに実績を残している選手を獲得するには、多額の資金を必要とする。補強のための資金に限りのあるJリーグのクラブとしては、日本中だけでなく世界にネットワークを張り巡らせ、才能があるのに開花しきっていない選手を発掘するしかない。
■柏が見つけた「本物の9番」
2020年に32試合に出場して28ゴールでJリーグ得点王となった柏のオルンガ。前年の2019年にはJ2最終節の京都戦(13-1)で何と8得点を決めるなど柏をJ1昇格に導き、2020年にはJ1のライバルクラブを恐れさせ続けた。彼はケニアのナイロビで生まれ、大学での学業のため22歳まで祖国を離れなかったせいもあってか、欧州ではまったく注目されなかった。
2016年に初めて欧州に渡り、スウェーデンのユールゴルデンに所属した後、2017年には中国の貴州智誠に移籍、2018年にはスペインのジローナに貸し出された。しかしユールゴルデンで1シーズンに12ゴール(出場27試合)を挙げた後、貴州では2ゴール、ジローナでは半年だけながら3ゴールしか記録できなかった。このオルンガに目をつけたのが柏だった。2018年8月、オルンガは柏に完全移籍する。
このシーズンは先発出場わずか4試合、交代出場6試合とあまり試合にからめず、わずか3ゴールにとどまり、柏はJ2に降格した。悪く言えば「せわしない」Jリーグのサッカーのなかで、オルンガの「アフリカのリズム」はひどく場違いに見えた。しかし2019年、J2の柏で2期目の監督をスタートしたネルシーニョは、他にはないオルンガの能力に注目していたに違いない。シーズン序盤から辛抱強く起用し、5月の声を聞くとともに得点の量産が始まるのである。
柏での緻密な指導を受けて「本物の9番」に変貌したオルンガは、このシーズンのJ2リーグで30試合に出場して27ゴールをマーク、J2優勝、そしてJ1復帰へのキーファクターとなった。そして2020年のJ1でも28ゴールを記録して得点王となり、柏はJ1復帰1年目で7位と躍進した。だが翌年の1月、突然カタールのアルドゥハイルに移籍し、日本での活躍は終わるのである。
■川崎の強さを示す数字
2005年からの19シーズンにシーズン20ゴール以上を記録した延べ26人のうちから、クラブのアカデミー育ちの2人をのぞいた24人の所属クラブ(20ゴール以上を記録したシーズンの所属先)を見ると、川崎が6人と、群を抜いて多い。それに次ぐのが、ガンバ大阪とサンフレッチェ広島の3人である。
その川崎の「延べ6人」とは、ジュニーニョが2回(2003年にブラジルのパルメイラスから移籍、2006年に20ゴール、2007年に22ゴール)、大久保嘉人が2回(2013年にヴィッセル神戸から移籍、2013年に26ゴール、2015年に23ゴール)、小林悠が1回(2010年に拓殖大学から加入、2017年に23ゴール)、そしてレアンドロ・ダミアンが1回(2019年にブラジルのサントスFCから移籍、2021年に23ゴール)と、継続的に「オーバー20ゴール」を輩出していることがわかる。
2004年にJ2で優勝を果たしてJ1に2回目の昇格を果たした後、アップダウンはあったもののほぼ毎年上位争いにからむようになり、2017年以降、鬼木達監督の下、7シーズンで4回もの優勝を遂げた川崎の強さの秘密の一端は、間違いなくここにある。
タイトルに迫る「王道」は、「シーズン20ゴールのエース」を持つことなのである。オルンガのような「黄金」を掘り当てるのは本当に希なことかもしれないが、プロのクラブとしては、最大限の努力を払うべきポイントであるのは間違いない。「そんなこと、誰でも知ってるよ」と言われそうだが…。