今年の「第76回秩父宮賜杯全日本バレーボール大学男子選手権大会」(以下、全日本インカレ)で10度目の優勝を飾った早稲田大。エースでキャプテンの水町泰杜(4年)は大会を終えた直後、あっけらかんと口にした。 水町泰杜(みずまち・たい…
今年の「第76回秩父宮賜杯全日本バレーボール大学男子選手権大会」(以下、全日本インカレ)で10度目の優勝を飾った早稲田大。エースでキャプテンの水町泰杜(4年)は大会を終えた直後、あっけらかんと口にした。
水町泰杜(みずまち・たいと/早稲田大4年/身長181㎝/最高到達点339㎝/鎮西高〔熊本〕出身/アウトサイドヒッター/ウルフドッグス名古屋内定およびトヨタ自動車ビーチバレーボール部入団予定)
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【ギャラリー】全日本インカレを戦った水町泰杜
「早稲田のいいところが全部出た」と振り返る全日本インカレ決勝
そのセリフを聞いたのは、実に6年ぶりだろうか。全日本インカレを終え、報道陣の取材に応えたあと、こちらを見るや水町は開口一番に嘆いた。
「自分、何もしてないっス!!」
コート内で見せる表情と同じように、白い歯をのぞかせる。決して謙遜しているわけでも、必要以上に下手に出ているわけでもない。おそらくは素直な心境だ。
もちろん、何もしていないわけではないのは誰もがわかっている。キャプテンとしてチームを率い、エースとして得点を重ねた。それでも、当の本人はそう言わずにいられない。
あのときもそうだった。鎮西高(熊本)に入学し、1年目からレギュラーに抜擢されると、2学年上のエース鍬田憲伸(現・サントリーサンバーズ)の対角に入り、非凡な才能を発揮。その年のインターハイと春高の高校二冠に貢献している。だが、このときを水町はこのように振り返ったものだ。
「憲伸さんが全部決めてしまうんで。自分は何もしてないんです」
この年以降の高校2年間は堂々とエースの役割を担って過ごした。大学生活でも、チームに勝利をもたらす要素となることを自身の役目として胸に留めていた。
けれども、大学カテゴリーでの最後の公式戦である全日本インカレでは同級生やレギュラーの下級生が高い貢献度を示し、他を圧倒する戦いぶりで頂点まで駆け抜けた。
「みんな、いい顔していましたよね。特に決勝では早稲田のいいところが全部出たな、とすごく思います。ほんとうにみんな、すごかった」
全日本インカレ決勝を終えた直後は、どこか不思議な表情を浮かべていた
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仲間が頼もしかったゆえに抱いた物足りなさ
頼りがいのあるチームメートに囲まれた大学4年目。そのことへの感謝は尽きないが、同時に、それは水町にとって不完全燃焼に終わる一因にもなった。
「僕自身の感覚的には、気がついたら優勝していた、というぐらい。それだけ同期や後輩たちがやってくれたということだし、そこに懸けてくれた思いをすごくうれしく感じます。
でも、自分は何もしなかったな、こんなに何もしない大会があっていいのか!? って(笑)」
全日本インカレが始まって早々に背中に痛みを覚え、低調なパフォーマンスが続いたのは事実だが、「それも影響しないぐらいでしたから」と本人は苦笑い。それもあってだろう。1週間後に控える天皇杯全日本選手権大会ファイナルラウンドへの意気込みをたずねると、意気揚々と語った。
「天皇杯が頑張りどころかなぁ。何もせずに全日本インカレが終わって、僕自身は(完全に)燃焼していないので。ひょっとしたら同期は、これで満足しているかもしれないけれど(笑) それに、勝ち上がれば早稲田のOBがたくさんいるジェイテクトと戦えるので!!」
大学生活最後の全日本インカレで、同期が手にした勲章を喜ぶ姿も
【次ページ】学生バレー最後の試合となったジェイテクト戦
頼れる仲間たちと臨んだ最後の公式戦
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学生バレー最後の試合となったジェイテクト戦
12月9日、天皇杯ファイナルラウンド2回戦。早稲田はジェイテクトSTINGSと対戦し、競り合う展開をつくる。だが、シーズンを通してトスを上げていたセッター前田凌吾(2年)を体調不良で欠き、これまでと違う戦いかたを強いられた。
そこでは、どうしても水町の打数が多くなった。それでも決めきるのだが、Vリーグのチームを相手にするからには、これまで以上にギアを上げる必要が出てくる。ゲームが進み、打数を重ねるごとに水町の体にはじわりと疲労が溜まっていく。
「2セット目くらいから、けっこう太ももにきていました。きついなぁ、と思いながらプレーしていましたね」
思えば、そんな言葉を聞くのも久しかった。高校2年目から絶対的エースとしてコートに立ち、そこでは限界を突破してでも最後までスパイクを打ち抜いた。そのため、試合終盤で足をつるのは、戦いのレベルが上がるほど見られた光景だった。
「久しぶりに打数が多かった」と水町。ジェイテクトを相手に全開でプレー
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美談にするわけではないが、それでも本人は“自分がチームを勝たせる”思いがあったからこそ、その現実を受け止め、向き合っていた。トレーニングのほか、プレー中にはカーフスリーブの着用を試したり、日頃のサプリや食事による栄養摂取など、できることは何でもトライした。やがて大学では、エースに変わりなかったものの、仲間に託しながらチームの一員として戦うことを体感したのである。
ただし、この日のジェイテクト戦だけは別だった。1週間前には抱くことのなかった筋疲労が、体を支配していた。
第3セット、福山汰一のショートサーブが水町の手前に落とされる。足は動かず、突っ伏すようにして手を伸ばすもボールに届かない。限界だった。
「しんどい…、しんどいけれど、気持ちよかったです!!」
その感覚を懐かしみ、そして惜しむようにして笑った水町。完全燃焼できたんだな。見ているこちらが、そう確信できるほどの清々しい表情だった。
学生バレーを駆け抜けた
(文・写真/坂口功将)
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【ギャラリー】全日本インカレを戦った水町泰杜
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水町泰杜1(早稲田大)【写真:坂口功将】
#1水町泰杜2(早稲田大)【写真:坂口功将】
#1水町泰杜3(早稲田大)【写真:坂口功将】
水町泰杜4(早稲田大)【写真:坂口功将】
水町泰杜5(早稲田大)【写真:坂口功将】
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