第103回天皇杯決勝が12月9日に行われ、川崎フロンターレが日本一に輝いた。3大会ぶり2度目の優勝となったが、準優勝の…
第103回天皇杯決勝が12月9日に行われ、川崎フロンターレが日本一に輝いた。3大会ぶり2度目の優勝となったが、準優勝の柏レイソルのプレーも含めて、数字には表れない見どころが詰まった一戦だった。記憶にとどめておくべきポイントを、サッカージャーナリスト後藤健生が振り返る。
■成長を示した細谷
ところで、柏の攻撃の形を作り続けた細谷真大は、延長前半の場面だけでなく、69分にもビッグチャンスを決められなかった。
自陣深くからマテウス・サヴィオが蹴ったロングボールに反応した細谷は、まず相手DFの山村和也と入れ替わることに成功。すぐにカバーに入った大南拓磨と接触して倒れそうになったのだが、持ちこたえてゴール前に進入。GKの鄭成龍と1対1になったのだが、大南と接触があったためバランスが崩れ、ボール・コントロールが長くなってしまい、判断良く飛び出してきた鄭成龍にクリアされてしまった。
2度の決定機を決めきれなかったのは本人にとっても痛恨だったろう。しかし、69分の場面ではバランスを失いかけていてもそこで倒れてFKを要求するのではなく、持ちこたえてゴールに向かった姿勢を高く評価したい。
今シーズンすっかり「強さ」を身に着けた細谷の成長ぶりが詰まった場面だった。
そして、99分の場面は、GKの鄭成龍を褒めるしかないだろうし、前半から戦い続けた細谷はかなり疲労が溜まった状態だったはずでもある。細谷が決めきれなかったことを責めることはけっしてできない。
細谷はパリ・オリンピックを目指すU-22日本代表のエース・ストライカーの1人だが、11月のワールドカップ・アジア2次予選では森保一監督率いるフル代表に招集され、2024年1月1日に行われるタイ代表との試合でも再び代表入りを果たした。森保監督が視察に訪れた天皇杯決勝戦でも、その成長ぶりを十分に見せつけることができたので、これからも代表に定着していくことだろう。
■「11分の7」の反応
さて、PK戦ももつれにもつれ、10人目のGK同士の対決にまで持ち越された(柏の古賀太陽が故障していたためキッカーをはずれたため、PK戦は10人ずつで行われた)。
10人目には川崎のGK鄭成龍がゴール右上隅に素晴らしいキックを決め、直後に松本のキックをストップしてヒーローになった。
だが、PK戦における松本健太のパフォーマンスもぜひ記憶にとどめておきたい。
松本は、PK戦でやり直しを含めて11本のキックを受けたのだが、なんとそのうち7本のキックに対して正確に反応していたのだ。
絶体絶命の5人目と6人目にゴミスと登里享平のキックをともに正確に反応してセーブした。また、2本目では瀬川祐輔のキックを止めて見せた。ここは、キックより早くゴールラインを離れたためにやり直しとなったものの、一度はキックをストップした。
また、1人目の家長昭博、9人目のジョアン・シミッチのキックも、ゴールを防ぐことはできなかったものの正確に反応して手には当てているのだ。
松本のキックに対する反応の仕方を見ると、情報にも基づいて飛んでいるのでもないし、勘に頼って飛んでいるようにも見えない。相手のキックの動きを見て、正確にコースを読んでいるように見える。素晴らしい反応だった。
彼が今後もPKストップの技術に磨きをかけていけば、PK用のGKとして日本代表に招集してもよいかもしれない。
■楽しみな両チームの今後
川崎の鬼木達監督は「タイトルを取り続けること」の重要性を熱く語った。
いわゆる「勝者のメンタリティ」を手に入れるにはタイトルを取る経験を知るしかないからだ。苦しい戦いの中で、押し込まれてもけっして慌てることなく我慢しきって、PK戦も含めて諦めることなく戦って、結局、最後は勝利をつかみ取ってみせた川崎。彼らにそれができたのは、これまでいくつものタイトルを取ったという貴重な経験があったから。だからこそ、鬼木監督は「タイトル」にこだわったのだ。
カウンター・プレッシングのスタイルがJリーグでも主流となりつつある現在。各チームの「川崎対策」も進化を続けており、もう、川崎としてもかつてのようにパス・サッカーだけで相手を翻弄して圧勝できる時代ではないのかもしれない。
だが、2022年、2023年と苦しいシーズンを経験した中で「勝負強さ」を身に着けた川崎が、来シーズン以降、どんなチームに変身していくのか注目したい。
そして、今シーズンは残留争いを経験したものの、最後に川崎相手にあれだけの試合を展開した柏。試合内容では上回りながら、最後にタイトルを攫われた悔しさも含めて、天皇杯決勝は来シーズン以降につながる試合となったはずだ。
そして、今シーズンの成長を天皇杯決勝という大舞台で存分に疲労した細谷。決めきれなかったことの悔しさをバネに、ゴール前でボールを収めてタメを作れるFWとしてさらに成長を続けて、ワールドカップ優勝を目指すという日本代表にとっての「最後のピース」となっていってほしいものである。