横浜F・マリノスのケヴィン・マスカット監督、浦和レッズのマチェイ・スコルジャ監督など、2023年末になってJ1上位クラ…
横浜F・マリノスのケヴィン・マスカット監督、浦和レッズのマチェイ・スコルジャ監督など、2023年末になってJ1上位クラブの監督交代が相次いでいる。
今季5位にとどまった鹿島アントラーズも岩政大樹監督が退任。タイトルこそ取れなかったものの、日本代表入りした佐野海舟やU-22日本代表で重要戦力になりつつある松村優太ら若いタレントを伸ばした手腕を認める声も少なくない。
岩政監督と選手時代に共闘している鹿島OBの名良橋晃氏も自身のYoutubeチャンネルで「岩政監督は若い。最低でも、もう1年やらせてあげたかった。猶予を与えたかった」と擁護。そういった意見を持つサポーターも数多くいるだろう。
実際、岩政監督は現役引退後、高校と大学で数年間教えただけで、指導経験が豊富にあったわけではない。2022年にレネ・ヴァイラー監督体制のコーチとして鹿島に戻ったが、それがJクラブでの初仕事だった。
「コロナの影響で監督が来日できず、最初から監督代行という形になって、キャンプでチームを組み立てるところから始まった。何も分からない中ですからね」と本人も予期せぬ展開に戸惑いを覚えたことを明かす。
■「鹿島の新たなスタイルを構築するには時間がかかる」
3月半ばからレネ監督がようやく指揮をと執り始めたが、7月には鈴木優磨と並ぶ重要な得点源である上田綺世(フェイエノールト)が海外移籍を決断。そのダメージが癒えないうちに、クラブ側はレネ監督とのチームマネージメントに対する考え方を相違を理由に監督交代を決断する。
後任に指名されたのは、もちろん岩政コーチ。すでに監督代行を務めていたとはいえ、プロコーチ半年の彼をいきなり指揮官に据えるというのは、やはりリスクが高かった。
だからこそ、岩政監督は「鹿島の新たなスタイルを構築するには時間がかかる。この10年でタイトルを取ってきた(サンフレッチェ)広島や川崎(フロンターレ)、マリノスは長い時間をかけてその作業をやってきた」と語り、すぐには結果が出ないことをあらかじめ強調していたのだ。
それを鹿島強化部も承知していたはず。であれば、ある程度、腰を据えてサポートすべきだったのではないか。吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)も最初はそういうスタンスを示していた。昨季J1・5位、国内無冠という結果もやむを得ないと考え、2023年に勝負をかけたのだろう。
ただ、今季に向けての補強が弱かった。昌子源や植田直通、垣田裕暉らクラブOBを呼び戻し、知念慶らを補強したものの、外国人助っ人は契約上入れ替えることができなかった。岩政監督としては鈴木優磨と並ぶ点取り屋がほしかったはずだが、「バジェット」という理由で新戦力は得られなかった。
それが響き、今季の鹿島はヴィッセル神戸、マリノス、名古屋グランパスといった上位陣に軒並み勝てず、昨季と同じ5位にとどまった。「すべては勝利のために」を哲学とする鹿島にとって、この結果は受け入れられないものだったのだろう。
■「レジェンドを呼び戻せば何とかなる」
ただ、本気で常勝軍団を再建しようと思うなら、最初から資金を投入して実績ある大物指揮官を据え、トップクラスの陣容を揃えることもできたはず。鹿島は「レジェンドを呼び戻せば何とかなる」という考え方が根強いせいか、ら、2015年の石井正忠(現タイ代表)以降、大岩剛(現U-22日本代表監督)、相馬直樹、岩政と過去の名DFを次々と指揮官に据えてはいるが、いずれも志半ばで終わっている…、そんな印象が拭えないのだ。
指導経験の少ない岩政監督抜擢は最たる例だった。彼も川崎の鬼木監督のように長くコーチを務めてから指揮官になっていたら、マネージメントや戦い方の幅も違っていたかもしれない。勝てる監督になる可能性のあった人材をこういう形で手放してしまうのはクラブにとっても損失だ。この結末は本当に残念でならない。
(取材・文/元川悦子)
(後編へ続く)