【大恵陽子=コラム『ちょっと馬ニアックな世界』】「夢」っていい言葉だな、と思います。仕事や勉強を頑張るモチベーションに…

【大恵陽子=コラム『ちょっと馬ニアックな世界』】

「夢」っていい言葉だな、と思います。仕事や勉強を頑張るモチベーションになりますし、それを叶えることに醍醐味があると感じていました。ところが、「夢だと言っているうちは叶えられない」と話すのは、JBCスプリントをイグナイターで制した新子雅司調教師。その真意とは、何なのでしょうか。

また、先月は地方競馬からジャパンカップに参戦し、「目標の一つを叶えられた」と話すチェスナットコート陣営の姿もありました。今回が連載最終回となる「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

◆大谷翔平選手の「憧れるのをやめましょう」に通ずる思い

 先月、JBCスプリントを制覇したイグナイター。南関東以外の地方馬がJBC三競走(クラシック、スプリント、レディスクラシック)を勝つのは初めてという快挙でした。

 その勝利秘話については先月の当コラムでお伝えした通り。坂路のない園田競馬場のコースだけでJpnIを勝つ馬が誕生したことは、雑草魂や下剋上といった言葉も浮かび、勝利の重みと喜びがより増すようにさえ感じられます。

 かつてハイセイコーやイナリワン、オグリキャップなど地方出身でJRAのGIで活躍した馬たちが絶大な人気を誇ったのも、そんな側面があったからでしょう。

 新子雅司調教師はこう話します。

「弱いと見られていた者が強者に勝つのを面白いと思う人もいたでしょう。ましてや、園田から勝てるなんて、なかなか思わなかったでしょうし」

 そう、それだけ園田・姫路競馬からJpnIを勝つには高くて厚い壁が立ちはだかっていたのです。新子厩舎所属馬を除くと、ダートグレード競走(JpnIIとJpnIII)でさえ勝ったのはサラブレッドが導入された24年間でロードバクシン、チャンストウライ、トウケイタイガーの3頭のみ。

 だからこそ、「夢があるな、と言われました」と話します。ただ、この言葉にこう続けました。

「そう思っているうちは、勝てずに夢のまま終わると思います。僕は、ずっと勝つつもりでJpnIもJBCも臨んでいました」

 夢に掲げているうちは手が届かない、という意の言葉は、大谷翔平選手がWBC決勝戦を前に「憧れるのをやめましょう」と発した言葉に通ずるものがあるように思います。

◆YouTubeで好評だった「馬ご本人インタビュー」の裏話

 一方で、「夢は口に出せば叶う」という言葉も存在します。周りの人に目標を伝えることで、自分自身のモチベーションがより上がったり、達成のための手助けを受けることができたりするからでしょう。

「ジャパンカップに田中学騎手とチェスナットコートで出走したい」

 かねてからそう口にしていたのは、田中一巧調教師(園田・姫路)でした。そのためにジャパンCへの出走資格や出走馬決定順を細かく調べ、準備を進めてきました。

 残念ながら田中騎手は腰痛のため騎乗が叶いませんでしたが、田辺裕信騎手を背に夢の舞台に立つことができました。これが引退レースと決まっていたチェスナットコートは、かつて活躍したJRAの舞台、それも大観衆が見つめるGIレースで競走馬生活を終えることができ、京都府の乗馬クラブで余生を過ごすことが決まりました。

 netkeibaのYouTubeで「チェスナットコートご本人インタビュー」を行いましたが、実はこれも田中調教師からジャパンCに対する夢と熱い思いを聞いていたので、編集部と相談して実施したもの。

 そういう意味では「夢は口に出せば叶う」に通じるものがありますし、一方で17着という結果からは「夢だと言っているうちは叶えられない」のかもしれません。

 しかし、厩舎にとっては大きな一歩となったことでしょう。

 ある日、筆者は田中騎手から「大恵ちゃんの夢は何?」と聞かれたことがありました。

「競馬に関連した本を出すことです」

 そう答えると、「じゃあ、その時は買うね!」と笑顔で答えてくれました。

 あれから数年が経ってしまいましたが、このたび競馬本に携わることができました。

 毎月連載していた当コラム「ちょっと馬ニアックな世界」は今回をもって終了となります。テレビや新聞には収まりきらない馬ニアックな話題ばかりを集めていましたが、お付き合いいただいた読者のみなさま、本当にありがとうございました。

(文=大恵陽子)