世界最大のスケートボード・ストリート種目の大会であるSLS(ストリートリーグスケートボーディング)の2023年シーズンを締めくくる、「2023 SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」がブラジル・サンパウロにて…
世界最大のスケートボード・ストリート種目の大会であるSLS(ストリートリーグスケートボーディング)の2023年シーズンを締めくくる、「2023 SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」がブラジル・サンパウロにて2023年12月2日(土)~3日(日)に渡り開催された。
世界中のストリート種目に出場するライダーたちが目指すSLSの舞台。その中でもSLS World Championship Tourで年間を通して顕著な結果を残した選手、及び「SLS SELECT SERIES」という予選大会の優勝者のみが招待され、世界チャンピオンの座を争うのがこの「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」だ。
今回は今シーズン2勝を上げているオーストラリアのクロエ・コベルや、地元ブラジルの若きスーパースターのライッサ・レアウをはじめ、日本人選手勢からは東京オリンピック金メダリストである西矢椛や、国際大会で最近好成績を残している織田夢海、そして今シーズンからSLSシリーズに参加しているルーキーの上村葵が出場し、世界の名だたる競合を相手に日本人選手たちが一矢報いることにも注目された一戦となった。なお今回出場予定だった東京オリンピック銅メダリストの中山楓奈は怪我の回復状況から大事をとり直前で出場を見送った。
そして本決勝は全12名の出場者の中、6名1グループのノックアウトラウンドを勝ち上がった各上位3名である合計6名で競われる形。そんな世界最強のライダーを決める一戦のスタートリストは織田夢海(日本)、上村葵(日本)、ペイジ・ハイン(アメリカ合衆国)、西矢椛(日本)、クロエ・コベル(オーストラリア)、ライッサ・レアウ(ブラジル)の順となった。
決勝フォーマットは、ラインセクションと呼ばれる45秒間のラン2本に加えて、シングルトリックセクションというベストトリック5本にトライする中で、ベストスコアである計4本(ランは最大1本のみ換算)が合計得点として採用される。
なお今大会のコースはブラジル・サンパウロの「ジナシオ・ド・イビラプエラ」というスタジアムの中に特設で作られた。コース内にはクオーターやステア、レッジそして特徴的なロングレールなど様々なセクションが設置され、ライダーたちの高難度かつオリジナリティのあるトリックをメイクするためにふさわしい環境の中で、SLSシリーズの世界チャンピオンを決めることとなった。
大会レポート【ラインセクション1本目】
決勝の後半戦でポイント争いが繰り広げられることを見込んでか、ラインセクション1本目は全体的にミスを少なくして着実に得点を残すような展開が見受けられた。5点台のランが続く中、最初に6点台へ載せたのは西矢椛。レッジでの「クルックドグラインド to ノーリヒールフリップアウト」や「フロントサイドサラダグラインド」などをメイクしたランで、中盤にトリックミスもあったが6.3ptをマークした。
そんな西矢に続いたのは東京大会とシドニー大会の覇者であるオーストラリアのクロエ・コベル。自身の得意とする「キックフリップ」を主軸としたランを展開し、レールセクションでの「フロント50-50グラインド to キックフリップアウト」などメイクし安定したランで6.0ptをマーク。
ただ今大会で彼女らを上回るライディングを見せ続けたのは、地元ブラジル出身でかつ昨年のSUPER CROWNの王者であるライッサ・レアウ。落ち着いたライディングの中に完成度の高い「バックサイドリップスライド」や「フロントサイドノーズグラインド」、最後は10段のステアのハンドレールでは「フロントサイドブラントスライド」をしっかり決めて8.1ptと1本目から大きく優位に立った。
【ラインセクション2本目】
1本目のレアウのライディングにプレッシャーを受けたのか、各選手にミスが多く見られた2本目。ほとんどの選手が1本目より得点を上げられない中、1本目のミスをカバーし得点を伸ばしたのがアメリカのペイジ・ハインだ。
シドニー大会に合わせて行われたセレクトシリーズを勝ち上がりSLSに出場したルーキーであるハイン。スイッチ系のトリックに定評のある彼女は「スイッチフロントサイドボードスライド」を綺麗にメイクすると、その後も様々なグラインドやスライド系のトリックをメイクし1本目のミスをカバーして5.1ptまでスコアを引き上げた。
そして1本目の勢いそのままに、この2本目で本決勝の最高得点を叩き出したのがライッサ・レアウ。1本目でメイクしたトリックの難易度を上げて得点を塗り替えるようなライディングを見せた彼女は「バックサイドスミスグラインド」や「キックフリップフロントサイドボードスライド」などセクションの特性を活かして高難度のトリックをメイクしていき、最後は1本目と同様に「フロントサイドブラントスライド」を決めてノーミスでライディングを終えると9.0ptという9 Clubをマークした。
大会後の優勝者インタビューで話していたことではあるが、レアウが9Clubを出したのは今回が初めてだったこともあり、このスコアが表示された瞬間は口を開けて喜び、どこか涙ぐむような様子も垣間見れた。またランセクションを終えた時点で選手全体のパフォーマンスを見ても、レアウはトリックの難易度、完成度、安定感で頭ひとつ抜けている印象で9 Clubが出るのも納得できるランだった。
【シングルトリック1本目】
近年のパリ五輪予選で採用されているオリンピックルールと異なり、ランで高得点が残せなくてもこのセクションで十分に逆転が可能なのがSLSルール。そのため一つのベストトリックの得点次第で順位が入れ替わる接戦が予想された。ただ依然としてランセクションで高得点を上げておくことが、自分のベストなベストトリックをメイクする上で必要な精神的安心材料であることには変わりない。
シングルトリックセッション1本目は、ラインセクションを終えて上位に立ったコベル、西矢、レアウによるトップ争いに注目が集まった。コベルが10段のステアセットで「キックフリップ」をメイクし7.3ptをマークすると、西矢が「サスキーグラインド」で7.2ptでリードをキープ。そんな2人の争いを横目に更にリードを広げたのはレアウ。彼女らよりも高難度な「バックサイドテールスライド」を10段のステアのハンドレールでメイクし8.0ptをマークした。
【シングルトリック2本目】
1本目を終えて各選手がそれぞれ異なる状況の中で、2本目では暫定トップ3の座を乱すような7点台が飛び出す。まず2本目のトップスコアである7.4ptをマークしてきたのはハイン。彼女が得意とする「スイッチフロントサイドボードスライド」をハンドレールでメイクした。
そんなハインと同じくSLSルーキーであり、シドニー大会のセレクトシリーズの優勝者である上村葵もハンドレールで「バックサイドスミスグラインド」をメイクすると7.1ptをマークし、1本目のバンプから飛び出してハンドレールでメイクした「フロントサイドボードスライド」の7.0ptに加えて7点台でまとめていく。
一方で暫定トップ3であったコベル、西矢、レアウの3名は、コベルが「フロントサイドフィーブルグラインド」をメイクするも、西矢は「ビックスピン・フロントサイドボードスライド」に失敗。レアウも「フロントサイドノーズグラインド」をメイクするも6.4ptとスコアをあまり伸ばせず、トップ争いの展開が分からなくなる雰囲気が漂い出した。
【シングルトリック3本目】
しかし3本目ではそんな雰囲気を一蹴する8点台の高難度トリックが連発。まずは以前2019年と2022年でSUPER CROWNの舞台に立っており、SLS女子史上最高得点の9.4ptを過去「キックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインド」で叩き出した織田夢海がその強さを見せる。2本目で失敗してしまった「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」を綺麗にメイクすると8.6ptをマーク。
そんな織田に触発されたか西矢も織田と同じハンドレールにて2本目で失敗した「ビックスピン・フロントサイドボードスライド」をメイクすると8.8ptと高得点をマーク。さらに西矢の後にライディングしたレアウも、反対側のハンドレールで「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」をメイクすると8.5ptをマークした。
【シングルトリック4本目】
シングルトリック3本目を終えた時点で暫定トップのレアウを除く2位以下の順位がトリック1本ごとに大きく変動した中で、4本目ではほとんどの選手がメイクできない展開に。そこで唯一メイクしたのはハイン。3本目でミスをしてしまった「スイッチフロントサイド50-50グラインド」をしっかり決めると8.4ptをマーク。大きく表彰台争いに食い込むスコアを残した。
【シングルトリック5本目】
そんな最後までどうなるか分からないまま迎えたこの5本目では波乱の展開となった。暫定トップを守るレアウを追う形で最後にスコアを伸ばしてきたのは上村、西矢、ハインの3名。4本目を終えた時点での暫定ランキング順での滑走となり、惜しくも織田とコベルはトリックを決めきれず表彰台争いから離脱した一方で、3名がどんな表彰台争いをするのかが注目となった。
まず最後の1本で8.0ptの高得点を残したのは上村葵。3~4本目で失敗していたギャップアウトからハンドレールへかける豪快な「バックサイドリップスライド」をメイクし、暫定2位までジャンプアップした。この座を守り切れるかは後にライディングする残りの選手たちのパフォーマンスに託された。
上村に続いたのは今年のSLSシーズンの全大会でコンスタントに表彰台に乗り続けている西矢椛。ここまでシーズンを通して2位か3位を行ったり来たりしてきた中で、このSUPER CROWNでは是非優勝したいという思いが強くあったはずだろう。ただ5本目を迎えた時点でレアウを上回るには9.7ptが必要であった。そんな5本目で選んだのはバンプから飛び出す「ギャップアウト・フロントサイドサラダグラインド」。見事メイクして8.3ptをマークして上村を超えて暫定2位となった。ラストトリックをメイクした時には笑顔もこぼれ自分のライディングには納得して終えられているように見受けられた。
レアウを残してライディングしたのは暫定4位のペイジ・ハイン。最後も彼女が得意とするスイッチ系のトリック「スイッチバックサイドボードスライド」を見事メイクし7.0ptをマーク。暫定3位だった上村を上回る形で表彰台の座を獲得した。ハインもラストトリックのスコアが確定した瞬間に口を手で押さえて喜びを露わにし、そのハインを称えるように上村がハグする姿も見られスケートボードならではのスポーツマンシップを感じられた。
そして最後は1位の座を守り切り、ラストトリックをウィニングランとしたライッサ・レアウ。今年はSLSに関していうとシカゴ大会の優勝以降なかなか勝てていないシーズンを過ごした彼女だったが、今回は地元ブラジルにて観客から声援や期待をプレッシャーではなく力に変えることができていた。今大会ではノックアウトラウンドから決勝まで終始自分のペースを崩さず、常にベストトリックを見せることができる安定感を感じさせるライディングをしていた彼女は今大会の優勝によりSUPER CROWN2連覇を見事達成した。
大会結果
優勝 ライッサ・レアウ (ブラジル) / 31.9pt
2位 西矢 椛 (日本) / 30.6pt
3位 ペイジ・ハイン (アメリカ合衆国) / 28.8pt
4位 上村 葵 (日本) / 27.9pt
5位 織田 夢海 (日本) / 20.7pt
6位 クロエ・コベル (オーストラリア) / 20.4pt
今大会で通して一番感じたのは、やはりライッサ・レアウが見せた圧倒的な強さであったことは間違いない。それは高難度トリックをコンスタントにメイクできるスケートスキルはもちろんなのだが、SUPER CROWNというSLS World Championship Tourの中でも一番大きな舞台で、かつ自国開催という他の選手とは比べものにならないプレッシャーのかかる環境の中で、しっかり勝ち切ることができるその彼女の精神的な底知れぬ力について感服した。
またレアウ自身が感じていたであろう勝ち切れないことへの悔しさは東京大会、シドニー大会を通して我々にもひしひしと伝わってきていたので、改めて今回の優勝が意味するものは彼女にとっても去年のSUPER CROWN優勝よりも特別なものだと思う。
そして一方で言及しておきたいことなのだが、シドニー大会時の記事にてクロエ・コベル(オーストラリア)、ライッサ・レアウ(ブラジル)、西矢椛(日本)のトップ3の実力が頭一つ抜けていることを再認識したと記載したが、その勢力図に関しても遠からず大きな変化が起きるのではと今大会を通して感じた。実際今大会の決勝に残っていた織田夢海とSLSルーキーの上村葵とペイジ・ハイン(アメリカ合衆国)の強さもトップ3に引けを取らないものであった。
世界中の各選手のスキルや実力が瞬く間も無く向上している昨今。来年のパリ五輪を控えて来シーズンは今まで以上に拮抗した戦いになることは想像するに容易い。また今年はストリート種目としてシーズン最後の世界大会である「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」が東京・有明で開催される。
SLSとは異なり世界中からトップ選手たちが出場するこの大会を通じて、来年のSLS World Championship Tour及びパリ五輪予選大会など世界大会での台風の目になりうる選手たちを、日本人選手を含めてチェックしながら来年のシーズンを迎えたいと思う。
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