身長178センチ、体重83キロ。その数字だけを聞くと、「もっと大きいのでは?」と思ってしまう。青山学院大3年・佐々木泰(たい)の打席には、それほどのスケール感が詰まっている。 本人にそんな印象を伝えると、佐々木は「たしかに『懐が広い』とか…

 身長178センチ、体重83キロ。その数字だけを聞くと、「もっと大きいのでは?」と思ってしまう。青山学院大3年・佐々木泰(たい)の打席には、それほどのスケール感が詰まっている。

 本人にそんな印象を伝えると、佐々木は「たしかに『懐が広い』とか『大きく見える』とはよく言われます」と答えた。

 佐々木のことを知らない観戦者であっても、そのスイングをひと目見ただけで「おぉっ!」と驚きの声をあげるはずだ。一瞬で全身を振り絞る鋭いターンとともに繰り出される、豪快なフォロースルー。それはまるで、人気漫画『ONE PIECE』(尾田栄一郎)の主人公・ルフィのゴム状になった両腕のようによく伸びる。佐々木は周囲から「バットが長く見える」と言われるそうだ。



1年春のリーグ戦で4本塁打を放つなど衝撃の大学デビューを飾った青山学院大・佐々木泰 photo by Kikuchi Takahiro

【大学1年春に衝撃デビュー】

 高校時代は県岐阜商で通算41本塁打を放ち、青山学院大では入学直後の1年春のリーグ戦で初出場から6試合で4本塁打と衝撃的なデビューを飾っている。

 しかし、その後は低打率のシーズンが続くなど、1年春の実績と比べるとやや物足りなく映る。大学3年間で残した通算成績は67試合の出場で打率.245、11本塁打、27打点。だが、「ポジティブな性格」と自己分析する佐々木はこんな実感を語る。

「成績だけを見ると『あれ?』と思われてしまうと思うんですけど、自分では成長していると感じます。この1年はチャンスで打てているので、これを継続しつつ、長打と確率を求めていきたいです」

 ドラフト戦線において「右投右打の強打者」は需要が高い。ましてや内野手となるとさらに希少価値が上がり、三塁手の佐々木は今後の成長次第で争奪戦に発展する可能性すら秘めている。

 ただし、現状の注目度で言えば、青山学院大のチームメイトである西川史礁(みしょう)に先を越された感がある。

 西川は身長182センチ、体重81キロの大型スラッガー。龍谷大平安では高校通算8本塁打に留まり、本人いわく「いるかいないかわからないような選手」だった。

 兄・藍畝(らんせ)が主将も務めた青山学院大に進学したが、入学当初はベンチメンバーにも入れなかった。ボールボーイとして佐々木の大爆発を眺めていた西川は、ジェラシーを抱いていたことを明かしている。

「ベンチにも入れないふがいなさを感じながら、同級生の活躍に刺激を受けていました。でも、それに憧れるのではなく、超えるくらいの強い気持ちで練習に取り組んでいました。ライバルだと思っていたので、(佐々木の活躍は)悔しかったですね」

 佐々木と西川は普段から仲がよく、2年の秋以降はパートナーを組んで練習していた。そして今春、初めてレギュラーの座をつかんだ西川が爆発する。

 4番打者としてリーグ戦で打率.364、3本塁打、10打点を放ちMVPを受賞。夏場には日米大学選手権の代表に選出され、全5試合で4番を担った。打率.316を記録し、敵地・アメリカでの優勝に貢献している。

 一方、佐々木も大学日本代表に選出されていたが、9打数0安打に終わっている。当初は先発で起用されていたが、第4戦から控えに回った。

「優勝はしましたけど、自分は力になれず歯がゆかったですね」

 敵地開催で日課のウエイトトレーニングが思いどおりにできず、体重が減るというコンディション面の事情もあった。だが、佐々木は「それは言い訳ですね。自分の実力不足です」ときっぱりと言いきった。

【課題は確実性】

 西川の活躍を身近でどのように見ていたのか。そう聞くと、佐々木は複雑な心の内を語り始めた。

「史礁とはずっと一緒に練習してきたので、うれしい反面、焦りもありました。でも、史礁は頑張ってきたからこそ今があるわけで、自分もここでくじけていたら上ではやっていけません」

 そして、佐々木はこう続けた。

「シモさんからは『泰の今の気持ちがわかるから』って言われて、その言葉がめちゃくちゃ沁みましたね。シモさんもツネさんが出てきた時のことがあるので、『俺も頑張ったから』と言っていました。ドラフト1位にそんなこと言われたら、説得力が違いますよね。シモさんは負けず嫌いだからこそ、成長してドラフト1位になれたんでしょうね」

 佐々木の言う「シモさん」とは1学年上の下村海翔(阪神1位)のこと。「ツネさん」は常廣羽也斗(広島1位)である。下村は今春リーグ戦直前まで状態が上がらず、同期でドラフト上位候補と騒がれる常廣に対して強い劣等感を抱いていた。それでも、最終的には常廣を上回る安定感と完成度でスカウト陣の評価を高め、ドラフト1位指名を勝ちとっている。

 なお、佐々木と下村には「サウナ」という共通の趣味があり、行きつけの温泉施設に一緒に通っている。佐々木は「心も体もめちゃくちゃリラックスできます」と効用を語る。下村のプロ入りを祝して、佐々木はサウナハットをプレゼントしたという。

 12月1日から3日間、愛媛県松山市で実施された大学日本代表候補強化合宿に佐々木は西川とともに招集された。初日の打撃練習では、広い坊っちゃんスタジアムでサク越えを連発。翌2日の紅白戦では2点タイムリー安打を放つなど、持ち前の長打力と勝負強さを発揮した。

 佐々木、西川だけでなく、大学3年生以下には右の強打者が多い。同じく来年のドラフト上位候補に挙がる渡部聖弥(大阪商業大3年)に、ほかにも藤澤涼介(横浜国立大3年)、立石正広(創価大2年)、清水智裕(中部大3年)らが合宿中に快打を放ってアピールしている。

 大学日本代表の堀井哲也監督(慶應義塾大)も、「いい右バッターが多い」と認めている。

「過去の国際試合を見ても、右投右打の選手が重要な役割を持っていると感じます。我々もその点を意識して(代表候補として)集めているので、期待しています」

 佐々木の成長は、来年の大学日本代表の成功にも結びつくはずだ。残された課題は明確。「確実性」に尽きる。

「ずっと言われてきていることなので、この冬になんとか頑張って『これ』というスイングに固定したいです。スイングが波打つのは自分の難点でもあり、うまく扱えれば飛ばせる長所でもあると思います。試行錯誤しながら、ちょうどいいバランスをとっていきたいです」

 佐々木がそう語っていると、傍らを西川が通り過ぎた。佐々木はいたずらっ子のような笑顔で、「西川に負けないように頑張ります!」と叫んだ。西川はこちらを振り返り、苦笑で応じた。

 1年春のリーグ戦で残した打率.371、4本塁打。まずは「この成績を超えたい」と佐々木は意気込む。数字だけでは測れない魅力があるのは間違いないとはいえ、たしかに1年春がキャリアハイでは寂しい。佐々木泰に数字が伴った時、来年のドラフト戦線は大きく音を立てて動き出すはずだ。