12月3日、東京・国立競技場で関東大学ラグビー対抗戦「早稲田大学vs明治大学」が行なわれた。両者の対決は明治大が創部された1923年から続いており、伝統の一戦である「早明戦」は今年で100周年、99回目の激突となった。 かつては押し寄せた…
12月3日、東京・国立競技場で関東大学ラグビー対抗戦「早稲田大学vs明治大学」が行なわれた。両者の対決は明治大が創部された1923年から続いており、伝統の一戦である「早明戦」は今年で100周年、99回目の激突となった。
かつては押し寄せた観客が60,000人を超え、チケットの入手も苦労を極めたという。昨今は現役学生の姿が以前よりスタンドで見られないものの、それでも約31,915人が集まった。
試合は互いにトライを取り合う熱戦となり、明治大が早明戦・歴代最多得点となる58-38で勝利。通算成績は明治大の42勝55敗2分となった。
明治大が縦の強さを発揮して早稲田大に勝利
photo by Saito Kenji
早明戦の歴史を少し紐解こう。
初対戦から5戦は1918年に創部された"先輩"の早稲田大が勝利し、明治大が初めて勝利したのは1928年。その後は互角の戦いを見せるが、戦争の影響で1942年は春と夏に2回開催され、1943年~1945年は行なわれず、戦後の1946年から現在まで毎年対戦が続いている。
1953年以降は秩父宮ラグビー場で対戦するようになり、対抗戦で対戦するようになったのは1967年から。ラグビー人気の高まりとともにファンを収容できなくなり、1973年から国立競技場で開催され、1982年は66,999人を記録した。
最もファンに知られているのは、「雪の早明戦」と呼ばれる1987年の一戦だ。優勝をかけた試合というだけでなく、12月上旬の積雪は戦後初めてで、学生や関係者が総出で雪かきをして開催にこぎつけたという。早稲田大にはSH堀越正巳やFB今泉清、明治大はWTB吉田義人という「スーパー1年生」たちが躍動し、早稲田大が5年ぶりに10-7で勝利した。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
【5勝1敗同士の対決。対抗戦2位となるのは?】
「(早明戦と言えば)やっぱり、雪の早明戦でしょう。私は当時中学生で、家で見ていました。憧れて明治大に進学しました」
自身も選手として活躍し、対抗戦の早明戦は3勝1敗だった明治大の神鳥裕之監督はそう懐古する。
彼らスーパー1年生たちは3年後の1990年、対抗戦の優勝をかけた一戦が早明戦で、結果24-24と引き分けて同点優勝となった(この年度は大学選手権でも再戦して明治大が16-13で優勝)。この4年間は早明戦、そして大学ラグビーが最も盛り上がりを見せた時期だった。
1990年代は明治大が優勢だったが、2000年代となって早稲田大に清宮克幸監督が就任すると、両者の立場は逆転した。そんななか、よく覚えているのが2008年の一戦だ。
明治大はすでに対抗戦2勝4敗で、大学選手権出場を逃し、早明戦がそのシーズンのラストゲームとなった。早稲田大は前年に71-7で明治大に大勝しており、下馬評も圧倒的な不利。そんな状況のなか、明治大が24-22で9年ぶりに早稲田大に勝利した。紫紺のプライドを大いに見せた戦いで、PR土井貴弘(現・グリーンロケッツ東葛)らの涙は忘れることができない。
国立競技場の改修で2014年からは秩父宮ラグビー場で戦っていた両者が、2022年から再び新しい国立競技場での開催に戻っている。99回目の今年はともに対抗戦5勝1敗で3位と2位。勝利したほうが対抗戦2位で大学選手権に臨むという一戦だ。
選手時代の早明戦は4戦全勝だった早稲田大OBの大田尾竜彦監督は、試合前に「早明戦と歴史と絡めて、コンタクトが重要になってくる」と選手たちに説いた。
一方、明治大の神鳥監督は「早明戦の価値や今まで先輩たちが積み上げてきたものを感じて戦ってほしい。僕も含めて早明戦を見て明治に来た選手が多いので、今、自分たちが子どもたちにとってそういう対象になっている。それを試合中のしんどいときに感じて、1秒、1メートルのがんばりに変えて戦ってほしい」と選手を送り出した。
【両チーム合わせて14トライを記録した乱打戦】
縦の明治、横の早稲田──。100周年を迎えた今年の早明戦は、昔から言われている伝統的なカラーが色濃く出た試合となった。
「理想的な前半だった」と神鳥監督も選手も口を揃えたように、明治大は前半からFW陣を中心に接点で前に出てペースを握る。早稲田大がたまらず反則を犯すとラインアウトを選択し、前半5分、23分にはFW陣がモールを押し込んでHO松下潤一郎(4年)が2トライを奪う。
さらに20-3とリードした前半39分にも「ゴール前に来たらピック(&ゴー)で攻めると決めていた」PR為房慶次朗(4年)が飛び込んでゴールも決めて27-3。大きくリードを広げて前半を折り返した。
後半も流れは変わらず。20分までに明治大のBK陣が2トライを重ねて41-3。このまま一方的な流れで進むかと思われた。しかし、そのままで終わらないのが「早明戦」である。
早稲田大キャプテンFB伊藤大祐(4年)は覚悟を決める。
「前半が終わって苦しい展開になったが、早明戦というビッグイベントでお客さんが見ていて、早明戦を見て早稲田に入った選手も多くて、そんな部員を見ていて、このままじゃ終われないという気持ちがあった」
その言葉どおり、早稲田大は残り20分、「積極的に攻めよう」と自陣からでもボールを回し、BK陣が誇る持ち前の展開力を披露。後半27分のWTB矢崎由高(1年)のトライを皮切りに一気に5トライを重ねて、46-38と8点差まで迫って意地を見せた。
しかし、早稲田大の反撃もこれまで。ロスタイムに明治大が2トライを奪ってノーサイド。両チーム合わせて14トライを記録した乱打戦は、明治大の勝利で幕を閉じた。
試合後、敗北を喫した早稲田大の大田尾監督は、「接点が起こるエリア、スペースの取り合いのところで全部、後手を踏んだ。一番恐れていたシナリオになってしまった」と肩を落とした。
対抗戦最後の早明戦となった伊藤主将は「やっぱり勝ちたかった。前半に接点バトルで(相手に)いかれた部分がすべて。もう1回、どちらも勝ち上がったら同じ舞台(準決勝)でできるので1戦、1戦、準備したい」と大学選手権に向けて前を向いた。
【トライを奪った早明ふたりのルーキーの感想】
一方、昨年に続いて早稲田大に勝利した明治大の神鳥監督は、「これぞ早明戦というようなゲームになりました。簡単にあきらめない早稲田さんのすばらしいアタックと粘り強さで、後半はまた違う景色となった。必ず苦しい時間帯もあると伝えながら準備してきましたので、最後はしっかりトライを取り返して勝ちきれたのは選手たちの成長につながった」と目を細めた。
最後に、これからの早明戦の歴史を紡いでいく、ふたりのルーキーにも話を聞いた。
明治大WTB海老澤琥珀は「(早明戦は)小さい頃からテレビで見ていたので、その舞台に立って、すごく楽しい気持ちが大きかった。観客の数もそうだし、大きなスタジアムに圧倒されて、鳥肌が立ちました」と初々しかった。
早稲田大WTB矢崎は「明治さんの大きな声援に圧倒されました。幼少期から見てきた早明戦に出られたのはうれしかったし、ありがたいことです」と、敗戦に悔しい表情を見せつつ興奮した様子だった。
来年は記念すべき100回目の早明戦。明治大がまたも勝利を重ねるのか、それとも早稲田大がリベンジを果たすのか──。