"モンスター"は2階級目の4団体統一を果たすのか――。 12月26日、東京の有明アリーナで行なわれるスーパーバンタム級4冠戦の焦点は、ほぼその一点に絞られるだろう。昨年12月にバンタム級で4団体統一を果たした井上尚弥が、…

"モンスター"は2階級目の4団体統一を果たすのか――。

 12月26日、東京の有明アリーナで行なわれるスーパーバンタム級4冠戦の焦点は、ほぼその一点に絞られるだろう。昨年12月にバンタム級で4団体統一を果たした井上尚弥が、その約1年後に1階級上でも4冠制覇を成し遂げればとてつもない快挙だ。


今年7月にフルトンを下した井上。次戦で2階級での4団体統一なるか

 photo by 東京スポーツ/アフロ

 今回の対戦相手はフィリピンのマーロン・タパレス。今年4月、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)を際どい判定で破って2階級制覇を果たした31歳のサウスポーは、パワー、技術、スピードを満遍なく備えた実力派ではある。とはいえ、7月に井上が圧倒したスティーブン・フルトン(アメリカ)よりは一段下と見られており、今戦は「圧倒的に井上が優位」と予想されている。

 4冠戦としては史上最大級に下馬評が傾いている一戦で、ファンはどこに見どころを見出すべきなのか。タパレスが大番狂わせを起こすチャンスはあるのか。軽量級のボクシング事情に精通する3人の在米ベテラン記者に4つの質問をぶつけ、"2023年最後のビッグファイト"の行方を占ってみた。

【12月26日@東京・有明アリーナ】

WBC、WBAスーパー、IBF、WBO世界スーパーバンタム級統一戦

●WBC、WBO王者

井上尚弥(大橋/30歳/25戦全勝・22KO)

12回戦

●WBAスーパー、IBF王者

マーロン・タパレス(フィリピン/31歳/37勝・19KO/3敗)

【パネリスト】

◆キース・アイデック:米ボクシングメディア『BoxingScene.com』のシニアライター、コラムニスト。ニュージャージー在住。全米記者協会(BWAA)のメンバーでもある。
X(旧Twitter):@Idecboxing

◆ショーン・ナム:『Boxingscene.com』の通信員として活躍する韓国系アメリカ人ライター。ニューヨーク在住。BWAAの副会長を務める。X(旧Twitter):@seanpasbon

◆ショーン・ジッテル:米専門メディア『FightHype.com』のレポーター。ラスベガス在住。ビデオグラファーとして史上初のBWAAメンバーとして認められた。X(旧Twitter):@Sean_Zittel

1. 井上vsタパレスの4団体統一戦で注目している部分は?

アイデック:前戦で好選手のアフマダリエフを下したタパレスもいいボクサーだが、「日本の地で井上に勝つ力があるか」と問われたら「ノー」と答える。ただ、たとえ最終的にKOされることになろうと、当然タパレスは勝つつもりで挑むはず。井上ほどではないにしても、タパレスはフルトンよりもパンチ力がある。ファンが観ていて面白い試合にはなるはずだ。

ナム:正直に言うが、このマッチアップにはそこまで興奮していない。井上vsフルトン戦のあとでは"アンチ・クライマックス"に感じてしまう。ただ、この試合(4団体統一戦)が行なわれることの意味は理解している。

ジッテル:井上が2年連続で4団体統一を成し遂げるかどうかが焦点になる。これは、とてつもない偉業だ。タパレスは31歳にして自身最高のボクシングを展開しているが、王座を獲得したアフマダリエフ戦でも井上に通用する技量を示していなかった。

タパレスはパワーがあってフィジカルも強いが、井上がスピードで大きく上回っている。結論を言うと、今戦は"素晴らしいマッチアップ"というよりも、"偉大なボクサーの戴冠式"と呼べるような戦いになるだろう。予想通りの結果に終われば、井上は2023年の年間MVP(Fighter of the Year)の栄誉を手にするはずだ。

2. 試合の展開はどうなる?

アイデック:私は井上のほとんどの試合でKO勝ちを予想してきたが、今回も例外ではない。スピード、パワー、技術をハイレベルで備えたフルトンを完璧な形で叩きのめしてしまった"モンスター"は、タパレスもKOするだろう。井上はわずか1年で2階級の4団体統一を完成させ、年間MVPの有力候補に躍り出るはずだ。

ナム:井上の終盤でのKO勝ち。井上のほうがより正確で、よりパワフル。クイックネスにも大きな差がある。

ジッテル:井上がKO勝ちすると見る。タパレスもフルトン同様に優れた選手ではあるが、井上は"史上最高級の軽量級ボクサー"だ。パワー、スピード、正確さ、バランス、タイミングのよさは特別なものがあり、特にバランス感覚に関してはマニー・パッキャオ(フィリピン)さえも上回っていると思う。井上はタパレスにも圧勝し、コンスタントに試合を行なっていることが評価され、パウンド・フォー・パウンドでも再びナンバーワンに推されるだろう。

3. タパレスが大番狂わせを可能にするために必要なことは?

アイデック:失うものがないタパレスを過小評価すべきではない。タパレスにとっては"人生最大のチャンス"であり、井上に勝つようなことがあればとてつもない物語になる。なんでも起こり得るのがボクシングであり、ワンパンチで流れは変わるもの。井上もノニト・ドネア(フィリピン)との1戦目ではダメージを受ける姿を見せている。

 ただ、井上は最高級のボクサーであり、今回の試合が自身だけでなく、母国の人々にとってどんな意味を持つかわかっている。日本のファンのとてつもなく大きな期待を背負った試合で、対戦相手を軽く見たり、油断することはないはずだ。だとすれば、パウンド・フォー・パウンド最高級のボクサーであり、全盛期を迎えている井上がタパレスに負ける姿は想像し難い。

ナム:タパレスに勝機があるとすれば、井上に距離を詰めさせず、左パンチのカウンターを入れられた時だけだろう。サウスポースタンスからの強打は警戒すべきだ。辛抱強く、注意深く戦い、アフマダリエフ戦のようにジャブをうまく使うこと。ただ、相手の質を考えれば、前戦と同じように戦う難しさは並大抵ではない。

ジッテル:波乱があるとすれば、井上が自信過剰になって油断した場合のみ。世界ヘビー級王者のタイソン・フューリー(イギリス)も、フランシス・ガヌー(カメルーン)を軽く見て大苦戦したばかりだ。ただ、規律を重んじる井上に同じことが起こるとはとても考えられない。

4. 井上が勝った場合、次に対戦してほしい相手は?

アイデック:タパレスに勝ったら、井上にはスーパーバンタム級でやり残した仕事はなくなってしまう。今後、昇級を続けた場合にどこが限界になるかが注目ポイントになるだろう。個人的には、一階級上のフェザー級も限界だとは思わない。

 同じトップランク社のボクサーで、デビュー戦の敗北以降は連戦連勝のWBO世界フェザー級王者、ロベイシ・ラミレス(キューバ)はとても優れた選手だ。プロモーターのボブ・アラム氏は井上vsフルトンの前から、井上vsラミレス戦の可能性について話していた。ラミレス自身、井上vsフルトンのセミファイナルで防衛戦も行なった。だとすれば、近いうちに井上vsラミレスが実現すると見るのが妥当だろう。

ナム:WBCから対戦指令が出たルイス・ネリ(メキシコ)との指名戦が現実的なのか、自分にはわからない。日本での注目度は高いかもしれないが、実現するまでには障害が大きいのではないか。戦えば井上が圧勝するはずで、興味深い試合にもならないだろう。それに比べてフェザー級でのラミレス戦ははるかに新鮮味があり、2024年中に行なわれてほしい一戦だ。

ジッテル:4団体統一を果たせばこの階級での仕事は終わりだが、ネリ戦はスーパーバンタム級での"フェアウェル・ファイト(別れの試合)"の選択肢としては悪くないと思う。ネリも複数階級の王者であり、自信に満ちたトラッシュトーカー。パンチ力があり、日本との因縁もある。身体能力に秀でたメキシカンが"モンスター"にどう挑むかは楽しみだ。

 もっとも、ネリ戦でも井上が間違いなく勝つだろう。その後、井上はフェザー級に上がり、ラミレス、IBF王者のルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)を問題なく打ち破ると見ている。井上の勝敗に興味が湧くとすれば、スーパーフェザー級まで上げてエマニュエル・ナバレッテ(メキシコ)のような選手と対戦した場合だと考えている。