横浜市内で行われている「横浜スポーツビジネススクール」全6回のプログラムで、ベイスターズの事業・育成両面の取り組みや海外スポーツの事例なども交えて展開されている。前回行われた第4期では「他球団との比較から見る、特徴を活かしたプロジェクトの作…
横浜市内で行われている「横浜スポーツビジネススクール」
全6回のプログラムで、ベイスターズの事業・育成両面の取り組みや海外スポーツの事例なども交えて展開されている。
前回行われた第4期では「他球団との比較から見る、特徴を活かしたプロジェクトの作り方」をテーマに、福岡ソフトバンクホークスでの取り組みの紹介や、両チームの事業トップがトークセッションを行っていた。
ここではお互いに地域に密着したプロ野球球団としての取り組み、そして今では全球団行われているあの企画の誕生秘話などを共有した。
(取材協力:横浜DeNAベイスターズ、福岡ソフトバンクホークス 写真 / 文:白石怜平)
事業面における両チームの強みとは?
セッションで登壇したのは、林裕幸・株式会社横浜DeNAベイスターズ取締役 ビジネス統括本部長と白川隆志・取締役兼執行役員営業本部長(当時は取締役兼執行役員マーケティング本部長)。
両者は事業全体を管轄する立場から、それぞれの球団の強みについて語った。
ホークスは、パ・リーグで唯一年間の平均観客動員数が200万人を超え、今シーズンも250万人以上を動員した屈指の人気球団。
ただ意外にも、離反してしまった方やまだ来場経験のない方が福岡県内の生産年齢人口で80%あるなど、まだ伸びしろがあることが調査の結果判ったという。
そこで球団は地元の民放5局全てと手を組み、100試合行われている試合中継に加え、CMや応援番組を増やしていくことで認知度をさらに向上させた。
Webにおいても、AIや機械学習を活用したパーソナライズの情報発信や広告出稿などを行い、年代ごとのニーズに応えていった。
こうした取り組みを重ね、観客動員はコロナ前の水準まで引き戻すとともにファンクラブの会員数も福岡県在住以外でも3割以上増やすなど成果を見せている。
白川さんも、「我々がすごく恵まれている点だと思うのですが、福岡県の民放5局全てと一緒に取り組めるので、ありがたいことです」と地元メディアとの強い信頼関係で結ばれていると語り、林さんも「本当にうらやましいです」と返していた。
一方、ベイスターズの特徴は何か。林さんは「企画や演出が私たちの強みだと思います」と明かす。
ベイスターズはDeNAが球界に参入してから今年で12年。その間、従来では類を見なかった斬新な企画や横浜スタジアムでの演出を披露し、スポーツ界のみならずビジネス界からも注目を浴びてきた。
今シーズンも本拠地開幕戦で、主将の佐野恵太選手が試合前のセレモニーでスタジアムの上空を飛ぶ演出を行った。
6月30日~7月2日の中日戦では「ポケモンボールパーク ヨコハマ」を開催し、選手がピカチュウのヘルメットを着用してプレーするなどそのアイデアは鋭さを増している。
これらを実現するためには、選手側の協力が必要不可欠。実施に至った過程や選手たちとのやりとりについて明かしてくれた。
「チーム側も事業側の取り組みについて理解いただいているのが大きいですし、我々もファンが増えることによる選手たちのメリットも含めることで理解してもらえるよう説明しています。
ピカチュウヘルメットの時も、最初は(選手が)面食らったと言いますか、『本当に被るの?』というリアクションも実際はありました(笑)ただ、事前に説明もしますし、結果どうだったかフィードバックもしっかりやろうと決めていて、ファンからの喜びの声やデータも交えて必ず共有しています」
ユニフォーム配布の”元祖”が明かす開始のきっかけ
中盤からは受講者からの質問に答えながらセッションが進んだ。その一つに挙がったのが来場者へのユニフォーム配布イベントについて。
現在ではほとんどの球団が毎年行っており、配布日は各球場が満員になる人気イベントであるが、これを最初に行ったのがホークス。ダイエー時代の04年に、第1回目の鷹の祭典で配布されたのが始まりだった。
球界全体に波及した画期的アイデアが生み出されたきっかけについて、白川さんは当時を知る立場として話した。
「03年に阪神タイガースとの日本シリーズで甲子園球場に行った時でした。とにかく驚いたのは、ユニフォームの着用率なんですよね。既に電車の中でもみんな着ているじゃないですか。
当時ホークスでは球場に来てユニフォームを着ている人が少なかった。なので、”球場でユニフォームを着る”ことを定着させたいと考えて一番最初に始めたのがその04年でした」
ただ、実施に至るまではハードルがあった。当時の大変さについても明かしてくれた。
「配るって言ったら、グッズのチームが『ユニフォームが売れないじゃないか』という反発があったり、チケット側では『確かに売れるかもしれないけども、その前後に偏って他の試合が売れなくなるのではないか』と今では絶対ない議論なんですけどもありました」
そこで提案したのは、イベントのスポンサー獲得を約束することだった。収益を確保することで実現し、約20年続く大人気イベントへと成長していった。
ベイスターズも毎年8月、ホームでの3連戦を「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」と題し、毎年デザインを凝らした特別ユニフォームが来場者に配布される。
ただでさえチケット入手困難と言われる中、イベント時にはさらに争奪戦が激化するほどである。林さんも「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」の反響についてこう語った。
「初めて来た人がユニフォームを着る体験をすることで、ファンになってくれる最初のきっかけになるのではないかと思います。既存のファンにとっても、『次は別のユニフォームを買おう』とも考えていただける機会にもなりますので、本当に秀逸なものをホークスさんが生み出してくれて感謝です」
林さんはこのイベントが、ベイスターズに転職したきっかけ。
地元出身でかねてからベイスターズファンの林さんは、観戦に行った13年のイベント時にスタンドが青で染まる光景を見て心動かされたという。後に募集があることを知った際に迷わず応募し、現在に至っている。
それぞれが語る事業における考え方
約1時間のトークセッションでは、他にもお互いのキャリアについてなど様々な質問が寄せられるなど、各回同様に盛り上がりを見せた。
白川さんは最後に、事業側として大切にしている考えを受講生に向けて話した。
「球場に来るお客様は必ずしも野球が好きで野球のルールを知っているわけではないので、試合の演出や球場の雰囲気など、とにかく球場に一度来て、『自分の想像していた以上に楽しかった。また来たい』と思っていただける感動体験を提供できるよう、毎試合積み重ねないといけないです」
林さんは、強みと語った演出について必要と感じていることを述べた。
「続けていくとアイデアも枯渇するので、新しいメンバーあとは若手メンバーの意見も積極的に取り入れるようにしています。最近ですと”Z世代向けのイベントやりたい”ということで存じないアーティストの話があっても、我々は中身を判断できないんですよ(笑)。
ただ、”自分は知らないから”ではそこで終わってしまう。なので、私もZ世代について知る努力が必要と取り組んでいます」
今月からは第5期が開講している。プロ野球はシーズンオフだが、この横浜の地でもうひとつのシーズンが始まっている。
(おわり)