Jリーグは佳境に入っている。シーズン終了後には毎年、さまざまなチームや選手が表彰される。その中にはない賞ではあるが、ベ…
Jリーグは佳境に入っている。シーズン終了後には毎年、さまざまなチームや選手が表彰される。その中にはない賞ではあるが、ベテランのサッカージャーナリスト大住良之は「クラブ・オブ・ザ・イヤー」としてヴァンフォーレ甲府を称えたいという。甲府のピッチ内外の奮闘を挙げながら、その理由をつづる。
■山形での落胆
11月12日、寒い午後だった。山形県天童市のNDソフトスタジアム山形は気温7.8度。風も強く、試合中には冷たい雨も降り始めていた。試合終了の笛が吹かれた直後のピッチ上では、ホームのモンテディオ山形の選手たちが狂喜していた。そして白いユニホームに身を包んだビジターのヴァンフォーレ甲府の選手たちは、茫然と立ち尽くしていた。
「7分間」と示された後半のアディショナルタイムもすでに時計では9分を回り、甲府に右CKが与えられた。蹴るのはMF長谷川元希。鋭いボールが飛び、ニアポスト前でFWピーター・ウタカがジャンプして頭で合わせる。しかしボールは無情にもゴールの右上に飛び去った。そして榎本一慶主審の笛が長く吹かれ、試合は2-1で終了した。
甲府にとっては本当に残酷な結果だった。今季最大の目標としてきた「J1昇格」の可能性が、この敗戦で手のなかからこぼれ落ちてしまったからだ。
前節終了時で、甲府は41戦して18勝10分け13敗、得点59、失点48、勝ち点64で6位、「J1昇格プレーオフ(J2の3位から6位が出場)」の圏内にいた。しかしこの敗戦によって8位に順位を下げ、代わって「プレーオフ圏内」にすべり込んだのが、前節終了時には7位だった山形だったのだ。
■痛恨の逆転負け
勝てば逆転で「プレーオフ圏」を確保できる山形は、1万2000人を超すサポーターの大声援を受けて奮闘した。前半、風下に立った甲府は苦しい戦いを余儀なくされたがなんとかしのぎ、後半、MF鳥海芳樹を投入して攻勢に転じた。そして18分には、FW三平和司に対する相手GKのファウルで得たPKをFWクリスティアーノが左隅に決め、待望の先制点を奪った。
だがこのまま守りきるかと思われた後半32分、右から山形に攻め込まれ、山形DF小野雅史のドリブルを止めようとした甲府MF松本凪生のタックルがファウルと判定されてPKを献上する。これを決められ、1-1の同点となる。
そしてアディショナルタイムに入って間もなく、「魔の瞬間」が訪れる。甲府がチャンスをつくり、ウタカのシュートがブロックされたところから始まった山形の攻撃。山形DF川井歩の前進はDF蓮川壮大が出足よく止めた。だが、タックルしたときに足を痛めたのか、蓮川は立ち上がれず、こぼれたボールを自陣に戻りながら拾う川井に詰め寄ることができない。
甲府の選手たちに「空白の瞬間」が生まれたのはそのときだった。川井が再び前を向いた瞬間、信じ難いことに、甲府の全選手の足が止まっていたのだ。川井からペナルティーエリアに走り込んでいた山形MF南秀仁にパスが渡り、南が中央に送ると、そこにいた山形FWデラトーレが右足に当てて甲府ゴールのネットを揺らした。
■終わらない挑戦
2月からほぼ休むことなくJ2の全42試合を戦い抜いた末、甲府の手に残ったものは、目標にあと一歩及ばなかった「8位」という成績だった。しかしスタンド前まであいさつにきた選手たちに対し、遠方からかけつけ、冷たい雨のなか最後まで声援を送り続けた甲府のサポーターたちは涙を流しながらも温かい拍手を送った。そしてひとりのサポーターが大きな声で叫んだ。それは選手たちだけでなく、自分たちに向けての声でもあった。
「この悔しさを、ACLで晴らそう!」
そう、J2の戦いは終わったが、今季の甲府にはまだ大きな「チャレンジ」が残っている。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でのグループステージ突破である。
アジアのクラブ・チャンピオンを決めるこの大会に、甲府が出場権を得たのは昨年の天皇杯だった。吉田達磨監督の下で戦った甲府は、3回戦で北海道コンサドーレ札幌に2-1、ラウンド16でサガン鳥栖に3-1、準々決勝でアビスパ福岡に2-1(延長)、そして準決勝では鹿島アントラーズに1-0と、J1勢を4試合連続で下して決勝進出。そして決勝戦でも強豪サンフレッチェ広島と互角に渡り合い、延長戦まで戦って1-1、PK戦ではGK河田晃兵が活躍して5-4で競り勝ち、見事初優勝。「カップ・ウィナー」の資格でACL出場が決まったのだった。