今年の日本一を決める大会「第6回マイナビ日本スケートボード選手権大会 supported by Murasaki Sports」パーク種目が茨城県笠間市のムラサキパークかさまにて2023年11月3日(金)~5日(日)に渡り開催された。今大会…

今年の日本一を決める大会「第6回マイナビ日本スケートボード選手権大会 supported by Murasaki Sports」パーク種目が茨城県笠間市のムラサキパークかさまにて2023年11月3日(金)~5日(日)に渡り開催された。

今大会は来年度のワールドスケートジャパン強化指定選手及び特定育成選手の選考を行う重要な大会であることから日本中から国内トップ選手たちが勢揃いした。今回は東京オリンピック金メダリストである四十住さくらや同大会銀メダリストの開心那は不在であったものの、先日中国で行われたアジア大会の覇者である草木ひなのや、昨年この会場で行われた「日本OPEN」の優勝者でかつ今年の「X Games California」の銀メダリストである長谷川瑞穂が出場し、今年の国内最上位大会としてふさわしい面々が集まった。

本決勝は全18名の出場者の中、予選・準決勝を勝ち上がった合計8名で競われる形となった。今大会のスタートリストは菅原琉依、千田小陽、貝原あさひ、菅原芽依、溝手優月、佐竹晃、長谷川瑞穂、草木ひなのの順。

そして決勝フォーマットは一人45秒のランを3本滑走した上で自身の最高得点のランが最終スコアとなるベストラン採用方式となった。今大会のコースはここ数年パークの大会も多く行われていることからどの選手にとっても比較的馴染みのあるレイアウト。そのため、この慣れ親しんだセクションを大きく使って、いかに高難度かつオリジナリティのトリックをルーティンに組み込んだ上でノーミスでメイクできるのかというメンタルの強さとスキルの高さの両方が試される試合なった。

大会レポート

【ラン1本目】


貝原あさひのライディング ©ワールドスケートジャパン

今までの大会の傾向では1本目ではミスが目立つ印象だが、今大会では全体的にしっかりノーミスでまとめてくる選手が多かった。その中で早々に高得点を叩き出す選手もいたりと大会全体を通してもこの1本目が勝敗を分ける肝になったのではと感じる。


貝原あさひのライディング ©ワールドスケートジャパン

そんな1本目でまず強さを見せたのが、国内のスケートボードバーチカル界を牽引する若手の女王の貝原あさひ。最初から彼女の得意技である「マドンナ」や「ベニハナ」をディープエンドでメイクすると、その後完成度の高いトリックも連発。周りの選手からは「あさひ、本番強っ!」という言葉が聞こえた。惜しくもラストトリックでトライしたディープエンドでの「ノーズブラント」で失敗するもベストスコアになる62.93ptをマークした。

貝原に続き、今回のベストスコアを1本目に出したのが先日のアジア大会で5位だった菅原芽依。今回は妹の琉依と共に決勝に進出。全体的にスピードがありスタイリッシュなライディングをする彼女は、「キャバレリアル・ディザスター」を決めた妹のライディングに感化されてか、ジャンプ中にボードを掴むインディ系のトリックを加えながら、ディープエンドのコーピングで長い「フロントサイド・スミスグラインド」や、同じくディープエンドでハイエアーをし繰り出す「ジュードーエアー」組み込むランを見せて59.40ptをマークした。


草木ひなののライディング ©ワールドスケートジャパン

そしてなんといってもこのランで圧倒的な強さを見せて優位に立ったのが、現アジアチャンピオンの称号を持つ草木ひなの。草木は1本目からボルケーノセクションでの「サランラップ・360」を見事に決めると、それを皮切りに準決勝では決め切れなかった「キックフリップ・インディ」や、ディープエンドでの「バックサイド540」をメイクするパーフェクトランを魅せて80.53ptもマーク。他選手を大きく引き離した。彼女の圧倒的な強さを見せるランには会場から「ヤバイ!」っという言葉や歓声が響き渡り、後続に大きなプレッシャーをかける展開を生み出した。

【ラン2本目】


長谷川瑞穂のライディング ©ワールドスケートジャパン

そんな見事な草木のライディングがあった1本目を経て迎えた2本目では、自然と各選手が攻めのライディングを選ばざる得ない展開に。大半の選手がミスを重ねて1本目より得点を上げれられない中で、1本目を上回って見せたのが、千田小陽、佐竹晃、長谷川瑞穂の3名だ。

1本目のランのトリックチョイスをベースにライディングのクオリティを上げてきた千田小陽。コーピングを使ったグラインドやスライド系のトリックを特徴とする彼女は「5-0グラインド to バックサイドテールスライド」や「ロックンロールスライド」を取り入れたランで56.30ptをマークし着実にスコアアップさせた。

そしてこのランの注目選手として特に外せないのが、今大会決勝進出者の中で最年少弱冠10歳の佐竹晃。幼少から四十住と一緒に練習することが多い彼女は、四十住譲りのカリスマの持ち主。そんな彼女が見せたトリックは「バックサイド540」や「キックフリップ・インディ」など超高難度トリックの数々。今回のスコアとしては59.27ptとなったが、確実にこれから四十住を超えるほどの超新星として今後から期待される選手であることは間違いない。


長谷川瑞穂のライディング ©ワールドスケートジャパン

しかし、そんな佐竹のランの後に滑走し強さを見せたのは長谷川瑞穂。直前に足首を負傷したことから、予選・準決勝ともになかなか自分の思うようなライディングができず辛い思いをしていた彼女。2本目ではコースを大きく使い、ディープエンドで「フィンガーフリップ・リーン to テール」や「バックサイド・540」など高難度トリックを組み込んだランでフルメイク。74.05ptをマークした。決勝の間はコース横で落ち着いて自信を持ってライディングに取り組めるように常に母親とコミュニケーションを取る長谷川の姿も見られ、まさに親子の力で乗り越えた困難だったと言える。

【ラン3本目】

なかなか大半の選手たちが満足いかない展開の中で迎えた3本目。先に言及するが実はこのランをノーミスで滑り切った選手は誰もいなかった。

そして今回の大会で辛酸を舐める結果になったのは溝手優月だろう。国際大会への経験も多く、バーチカルの選手としても活動しており、今大会では一二を争うほど豊富な経験を持つ彼女だが、なかなか決めきれない決勝ランを迎えた。1本目と2本目では中盤にトライしたディープエンドでの「ノーズグラインド」が決まらず、周りの選手や応援してくれる方には鼓舞され満を持して挑んだ3本目ではトランスファーでの「オーリー to フロントサイドリップスライド」で失敗。
自分の不甲斐なさに悔し涙を流す場面もあり、この大会へ並々ならぬ思いで挑んでいたことが垣間見れた。その溝手を慰めるように貝原が横に座りながら肩を抱く姿にはスケートボードの持つカルチャーの素敵さを強く感じた。


草木ひなののライディング ©ワールドスケートジャパン

一方でどの選手も草木の1本目を超えることができないまま迎えた草木と長谷川の1位2位争い。先にライディングした長谷川が中盤にディープエンドでトライしたノーハンド状態の「バックサイド・オーリー」で失敗。この時点で草木の優勝が決定した。草木もその後のウィニングランでは序盤のボルケーノセクションでの「サランラップ・360」は決めたが、中盤の「キックフリップ・インディ」でバランスを崩し次に繋げられず失敗。結果的に1本目の得点である80.53ptをベストスコアとして守り切り事実上今年の日本一となった。

【大会結果】


©ワールドスケートジャパン

優勝  草木 ひなの(クサキ・ヒナノ) / 80.53pt
準優勝 長谷川 瑞穂(ハセガワ・ミズホ) / 74.05pt
第3位  貝原 あさひ(カイハラ・アサヒ) / 62.93pt 
第4位  菅原 芽依(スガワラ・メイ) / 59.40pt 
第5位  佐竹 晃(サタケ・ヒカル) / 59.27pt 
第6位  千田 小陽(チダ・コハル) / 56.30pt 
第7位  菅原 琉依(スガワラ・ユイ) / 51.49pt 
第8位  溝手 優月(ミゾテ・ユヅキ) /24.51pt

最後に

今大会を通して、この結果は各選手が持つ技術的なスキルの優劣が招いたわけではなく、決勝という場面でしっかり決め切るためのメンタリティを持ち、その高いプレッシャーが掛かったメンタルゲームの中でいかに自分にとって有利な状況が作れるかで勝敗を分かれたのだと感じた。

前回から言及しているが実際に各選手の強さとスキル自体にはそこまで大きな乖離はなく、彼らの持つ高難度トリックやコースの使い方、そしてそれらを網羅するルーティンの全てを出し切ればほとんどの選手が同等レベルであり、誰が優勝してもおかしくないと考えている。

そのため今回試合結果を左右したのは大舞台での経験値の違いであると感じている。ちなみに優勝した草木はアジア大会での優勝に加えて、世界選手権で2位という見事な成績を残して今大会を迎えていた。おそらく彼女のマインドセットとして勝つために必要なパフォーマンスを発揮できる自信を他の選手に比べて特にあったのだろう。海外などの大舞台での経験値をつけるというのは一言で言うにたやすいことでは無いが、確実にこの点は草木を成長させている点ではないだろうか。

そして今大会を終えて今シーズンは終わり、来年に向けてパリオリンピック予選大会の第2シーズンが始まる。現状、日本人別の世界ランキングでは特に変動は無いが、国内のレベルもどんどん上がっている中、来シーズンでどのような変化があるのか楽しみだ。
また一方で今回特に驚かされたのは弱冠10歳の佐竹晃のライディング。世界的に10代前半の若い選手が力をつけている中で、それよりも若い佐竹は今後の世界の脅威になることも間違いないだろう。彼女の今後の活躍にも注目しながら、女子スケートボードパーク界、来年も注目していきたい。


草木ひなのと佐竹晃 ©ワールドスケートジャパン

The post 優勝を確実にしたのは、世界の大舞台での経験値によるものか「第6回マイナビ日本スケートボード選手権大会」女子パーク種目 first appeared on FINEPLAY.