日本サッカーにとって、ベトナムは縁のある国である。ベトナム代表チームを率いるのは、元日本代表監督のフィリップ・トルシエ…
日本サッカーにとって、ベトナムは縁のある国である。ベトナム代表チームを率いるのは、元日本代表監督のフィリップ・トルシエだ。先日のなでしこジャパンのように、代表チーム同士の対戦もある。蹴球放浪家・後藤健生にとっても、ベトナムは思い出深い地なのだ。
■称賛に値する女子ベトナム代表
日本女子代表(なでしこジャパン)が、パリ・オリンピックに向けてのアジア2次予選を突破しました。ウズベキスタン戦は最終予選をめぐる駆け引きのために「わざと点を取らない」というおかしな試合でしたが、最終戦のベトナム戦は「なかなか点が取れない」試合でした。90分間、組織的な守備を続けたベトナム代表は称賛に値します。
今や東南アジア最強国となった男子代表も含めて、ベトナム・サッカーの将来には注目です。
掲載した写真をご覧ください。ベトナム最大の都市、ホーチミン市ショロン地区の仏教寺院で撮った写真です。線香の煙でボヤけていますが、両側の赤い柱に金色の漢字がたくさん書いてあるのがご覧になれるでしょう。
ベトナムの古い寺院などを見に行くと、たくさんの漢字に出会います。
ホーチミン市を訪れたのは2019年11月のことでした。2021年のU-20ワールドカップを目指す、当時のU-18日本代表が、その最初の関門となるAFC U-19アジアカップの予選を戦ったときでした(2021年大会は新型コロナウイルス感染症の影響で中止になってしまいました)。
当時のU-18ベトナム代表の監督はフィリップ・トルシエ。トルシエと久しぶりに会うのもベトナム訪問の目的に一つでした。トルシエは今ではベトナムのフル代表監督。アジアカップでは、初戦で日本代表と対戦します。
■漢字が通用する理由
ベトナムを訪れるのは、これが3回目でした。
最初は2007年に東南アジア4か国共同開催のアジアカップの時でした。日本はB組に入り、グループリーグは3試合ともベトナムの首都ハノイのミーディン・スタジアムが会場だったので、その間、ずっとハノイに滞在。7月の暑さが身に堪えました(ベトナム南部にあるホーチミン市は「常夏」で雨季と乾季があるだけですが、北部のハノイは冬場にはかなり涼しくなります)。
2回目も、ハノイ。北京オリンピック予選のベトナム戦を見に行きました。
ハノイの一角に「文廟」と呼ばれる観光地があります。孔子をお祀りしてある「孔子廟」です。ベトナム語なら「ヴンミョウ」ですが、日本のガイドブックにも漢字で「文廟」と書いてあることが多いようです。
ベトナムというのは、広い意味での中国文明圏です。東アジアの中国文明圏では、天(神)によって選ばれた中国の皇帝が世界の中心であって、周辺国の国王は中国皇帝から任命されるものでした。国王は皇帝に対して使者を送って朝貢します。また、皇帝からの使者は国王に対して上座に立ちます。
たとえば朝鮮の国王はこうして中国皇帝に服属し、朝鮮では中国の皇帝が定めた年号を使っていました。だが、それはあくまで形式的なこと。皇帝は各国の内政に口を出したりはしません。
■漢字を読めないベトナム人
ベトナムも、そんな朝貢国の一つでした。そうした東アジア文明圏の国では官吏登用のために「科挙」という試験が行われていました。
中国の古典に関する知識や教養を試される試験です。貧しい身分の者でも合格すれば出世が約束されますから、受験生は一生を科挙に懸けるわけです(もちろん時代とともに、身分は固定化されていってしまうのですが……)。
中国の古典の“総本山”的存在である孔子をお祀りした「文廟」には、ベトナム人観光客もたくさんやって来ます。彼らにとっては日本の「天神様」と同じように受験の神様的な場所でもあります。
「文廟」には数多くの石碑が立っています。そこには、科挙に合格した人の姓名や出身地、合格した年号などが記されています。「どこの出身者が多いのかなぁ」などと思って見ていると、なかなか興味深いものです。
しかし、そうした情報はすべて漢字で書かれているので、現代のベトナム人にはまったく読めないのです。それで、僕は石碑を見ながら、ベトナム人に対して変な優越感に浸っていました。
「オレは、ここに書いてある内容が分かってるんだぜい!」と。