コマスポ編集部 インタビュー(全2回)前編・新聞製作の裏側 学生自らが同じ大学の選手を取材する大学スポーツ新聞がおもしろい。定期刊行の紙面だけでなくウェブサイトでの記事配信、SNSでの速報など多面的に発信し、そのクオリティも目を見張るものが…

コマスポ編集部 インタビュー(全2回)
前編・新聞製作の裏側

 学生自らが同じ大学の選手を取材する大学スポーツ新聞がおもしろい。定期刊行の紙面だけでなくウェブサイトでの記事配信、SNSでの速報など多面的に発信し、そのクオリティも目を見張るものがある。

 なかでも、近年、陸上競技部の活躍と同時に注目度が高まっている「駒大スポーツ新聞(コマスポ)」編集部を訪ね、話を聞いた。そこには、学生ならではの苦労とやりがいがあった。(※肩書きは10月9日時点)



コマスポ編集部の編集長・中西真雪さん(右)、陸上班チーフ・宮澤希々さん(中央)、次期陸上班チーフ・大塩希美さん(左) photo by Kitagawa Naoki

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【選手との距離の近さが強み】

 コマスポは、春・夏・秋・箱根(駅伝)号の年4回発行。年間発行部数は17万部を超え、複数ある大学スポーツ新聞のなかでも特に多い。これまでに通算108号を刊行(10月25日現在)してきた。

 現在、部員数は53人。3年生10人、2年生12人と比較的少人数で運営していたが今春の新歓が奏功して、1年生は31人も加わった。コマスポ最大の特徴は、選手との距離が近いからこそ引き出せるインタビューと、メインメンバーだけでなく控え選手やチームを支えるマネージャーなどにもフォーカスする視点にある。

 一般のスポーツ紙に匹敵するようなクオリティの高さに驚くが、製作しているのは大学生。企画からアポイント、取材、撮影、執筆、レイアウト、校正、広告営業、発送にいたるまですべて学生主体となり進行している。

 編集長を務める文学部3年の中西真雪さんは、コマスポの強みについてこう話す。

「私たち3年生の部員は10人と少ないからこそ、何度も同じ人が取材に出向きます。そうすると、選手や監督からも顔を覚えてもらえてだんだんと距離が近づいていく。他の大学スポーツ新聞だと、部員が多いゆえに毎度取材に行く人が違うと聞きます。その点において、他大学と比べて選手との距離が近いことが強みではないでしょうか」

 とある駒澤大出身のプロ野球選手は、スタンドに見知った学生記者の姿を見つけ、サインボールを投げてくれたという。コマスポへの信頼を裏づけるエピソードだ。



「記事を書くことが本当に楽しい。引退してからも文章を書いて発信を続けたいです」と中西さん photo by Kitagawa Naoki

【駅伝、ドラフト、Jリーグ内定...一面争奪戦】

 一方、「やりたいと思ったすべての役割に挑戦できる自由度は、部員数が少ないからこその環境」と話すのは、陸上班チーフを務めるグローバル・メディア・スタディーズ(GMS)学部3年の宮澤希々(ねね)さん。宮澤さんは、記事の取材・執筆はもちろん、レイアウトも担当し広告営業なども経験してきた。



「掲載する写真は、ピースをしていたり素の表情が出ているような、私たちだからこそ撮れるものを優先して選んでいます」と宮澤さん photo by Kitagawa Naoki

 ひとつの号を製作する大まかな流れはこうだ。陸上やサッカー、野球などをそれぞれ担当する各班が、会議に持っていくネタをあらかじめ考える。そして1度目のネタ出し会議で、どの記事をどの面に配置するかを話し合う。

 一面は悩ましい展開になることも多いそう。とくに秋号は、駅伝やプロ野球ドラフト指名、サッカーJリーグ内定など大きく取り上げたいニュースが多く"一面争奪戦"になる。2度目のネタ出し会議で各記事の記者とレイアウトの担当者を決定し、各班のチーフが部へ取材依頼を行なう。

「基本的には希望している競技や選手を取材できるように記者を配置します。その選手への知識量があればあるほどインタビューに深みが増すからです」と中西さん。

 写真撮影も自分たちで行なうが、入部当時はほとんどが素人。取材を重ねながら撮影経験を積んでいくという。機材は編集部にも数台用意があるが、技術を高めようと自腹で買う部員も少なくない。

「強制ではないけれど、自分のカメラで撮りたいという気持ちが出てきますね。カメラが人生で一番高い買い物でした」と宮澤さんは笑う。

 その後、集まった原稿にみんなで目を通し、赤字を入れていく。記者は記事に自ら見出しもつける。校了後に印刷所から刷り上がった新聞が到着すると、学内などに設置。定期購読者への配送を行なう。新聞を郵送サイズに折り畳み、住所を貼り付け、近隣の郵便局へ持ち込むという地道な作業だ。



3人は取材中に終始、楽しそうにスポーツについて話していた photo by Kitagawa Naoki

【少人数でも大きな愛と熱】

 学業の合間に試合や合宿などの取材を熱心に行なう編集部員は、駒澤大の各部の選手に関して誰よりも詳しいと自負していると口をそろえる。ともに陸上班の中西さんと宮澤さんは、陸上専門誌を読みながらふたりで2時間も電話で話すことがあるという。

「取材も一緒に行って、授業の合間とか暇があれば一緒にいて、過ごす時間が誰よりも長い。『あの選手のこのコメントがいい』『この前の記録見た?』と話が尽きなくて、ずっとふたりで陸上のことについてしゃべってます」と、ふたりは話す。

 そんな先輩たちの姿を見て、陸上班のチーフを引き継ぐGMS学部2年の大塩希美さんは打ち明ける。

「先輩たちの熱量がすごいんです。目から出ているビームで紙が焦げるんじゃないかと思ってしまうほど雑誌を読み込んでいて(笑)。正直、引き継いで私がチーフになることはプレッシャーです」



「どの取材に行ってもいつも感動します。恵まれた環境のなかで新聞づくりができて、形に残せることに喜びを感じます」と大塩さん photo by Kitagawa Naoki

 そんな大塩さんも、「部員が少ないからこその絆の深さを感じています。前回の校了日に2年生でカラオケに行ったんです。深夜2時くらいにいきなり日本ハムの応援歌を誰かが入れて。すると次に楽天、そして阪神の六甲おろし、中日と続いて、最後になぜか早稲田大の応援歌。こんな集団、なかなかいないですよね。同期が大好きです」と笑顔を見せる。

 スポーツが好きという熱量は後輩たちにもしっかり受け継がれているのだろう。

【取材費はアルバイトでやりくり】

 しかし、新聞製作は楽しいことばかりだけではない。注目度が高まれば高まるほど、批判の声がSNSなどを通じて目立つようになったという。

 たとえば、駅伝取材の場合、区間ごとに担当を決め、X(旧ツイッター)で速報を流しつつ、翌日にはウェブサイトとインスタグラムの更新をするが、「情報が遅い」との声も届く。遠方で開催される大会では「あの大学の新聞は取材へ行っているけどコマスポは行っていない」などと言われることも。

「選手が活躍すればするほどコマスポに対する厳しい言葉も増えて、落ち込みます。じつは、活動を続けていて報われないなって思うことも多いんです」と宮澤さんはこぼす。



新聞製作の苦労についても打ち明けた photo by Kitagawa Naoki

 金銭事情も悩みになっている。コマスポの場合、取材にかかる交通費や宿泊費などの経費は大学側から6割は出るが、残りは自己負担だ。

 そのため、宿を使わずに夜行バスの往復で宿泊費を抑えたり、遠方だと取材自体をあきらめざるをえない。普段の授業に加えて週末は大会の取材をすることが多いため、アルバイトに十分な時間を割くことすら難しい。

「なんとか時間を捻出してバイトもしますが、学生なのでお金も時間も足りなくて......。でも、当然この状況について読者の方は知らないですし、伝えるべきことでもないですよね。規模の大きい大学の新聞部とは、町工場と大企業ぐらい違うんです」と中西さんは言う。

【スポーツを追いかける青春】

 厳しい状況もあるなかで新聞製作を続けたいと思うのはなぜか。中西さんは続ける。

「使命感が大きいのかもしれません。待ってくださる読者が本当にたくさんいて、私がサボったら届かないという編集長としての責任がある。そして、もちろん部としての活動が楽しいことも大きな理由です。2時間も雑誌読みながら語れる人なんて他にいませんから(笑)。試合や大会を観て応援することが好きだし、結果だけでなく選手の人となりをもっと伝えたい気持ちが強いです」

 宮澤さんは、「私は、文章はそんなに得意じゃないけど陸上が好きということが原動力。自分の目で見たものを伝えられることがやりがいです」と話す。



競技ごと班のチーフが段取りを細かく資料にまとめて取材に臨む photo by Kitagawa Naoki

 コマスポでは、主力選手以外に目を向けることも重視する。主力選手はスポーツ紙をはじめとする多くのメディアで紹介されるが、エントリーメンバーに入らない選手を応援する人だっている。

 通常のメディアでは報道されることの少ない、今はまだ活躍できていない選手や裏方として重要な役目を担っているマネージャーたちを取り上げていきたいという思いも強い。

「掲載された選手の親御さんから喜びの声を直接いただくこともあります」と中西さん。

 この秋に代替わりとなり、これからは今の2年生が率いていく番だ。大塩さんは、新聞づくりのやりがいをこう語る。

「自分の好きなことを共有できる仲間がいて、新聞を通して思いを伝えることができることが本当に幸せだと思っています。頑張っているのは、プレーしている選手だけではない。選手の応援を頑張るエントリーされなかった選手や応援団だっています。誰がどんなふうに青春をかけているかは違うけれど、私たちは頑張っている人たちの存在を伝えることに青春をかける。他人の青春を追いかけるのが自分の青春なんです」

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