サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「10グラムの思い」。

■2週間で58試合の過密日程

 ロンドン・オリンピックは、私にとっては1998年のワールドカップ・フランス大会以来の忙しさだった。オリンピックでは、2週間という大会期間に男子16チーム、女子12チーム、計58試合をこなさなければならない。開会式の2日前から試合が始まるのはそのためである。試合は女子の試合の翌日に男子の試合、1日おいて再び女子、翌日に男子という形で決勝まで続いた。

 試合はロンドンを離れ、スコットランドのグラスゴー、ウェールズのカーディフを含めた5つの地方都市でも行われた。女子の試合の前日は移動日である。女子の試合を取材して何本もの記事を書き、翌朝移動して男子の試合を取材、試合後にまた多くの記事を書き、翌日は次の女子試合会場に移動というスケジュールとなる。

 こうした「過密日程」だけでなく、日本代表の奮闘も私を多忙にした。前年に女子ワールドカップを制覇したなでしこジャパンはもちろん、関塚隆監督率いる男子代表も面白いように勝ち上がり、両チームとも大会の最終盤(決勝戦と3位決定戦)までそれぞれ6試合戦ったのである。試合のない日には次のラウンドの展望記事のリクエストまできたから、目の回るような忙しさだったのだ。

■超多忙の取材旅行での潤い

 そんな超多忙の取材旅行のなかで、行った先々の都市で手軽にその町の絵はがきが手にはいるのが楽しく、またポストも街中のいたるところにあるので、私は毎日のように絵はがきを書いては投函した。

 「絵はがきが到着しました」というメール(この場合はもちろんEメールである)が届いたのは、大会が始まって1週間ほどたち、決勝トーナメントにさしかかったときだっただろうか。もちろん「絵はがき送りました」などというメールなど送っていないから、とても驚き、そしてすごくうれしかったというメッセージだった。「そうか、喜んでもらえたのか」と思うと、また新しいものを書くモチベーションにつながった。

 以後、私は海外取材に行くたびに友人たちに絵はがきを書くようになった。ついには、監督をしている女子チームの選手全員に書くようになった。1週間にも満たない取材旅行中に友人たちとは別に、チーム全員、20数人に絵はがきを書くのは、そう手軽なことではない。だが、ともかく書いて送ることに意味があると考え、実行した。

■2つの重要ポイント

 絵はがきを書くのは、たいてい朝食後である。前の晩に、切手と「航空便」のステッカーを貼り(なければ手書きでいいが)、送り先(住所と名前)を書いておく。大事なのは先に切手とステッカーを貼ることである。先に住所を書いてしまうと、たとえば郵便番号が切手で隠れてしまうことになりかねない。切手は1枚とは限らず、2枚以上になることも多いから、重要なポイントだ。

 住所は日本国内で手紙を出すときと同じ形式で、郵便番号、住所、名前の順に日本語で書く。そしていちばん下に目立つように下線を付けて「JAPAN」と書いておけばいい。住所を間違うと絵はがきは「迷子」になってしまう。ここは慎重に、そして確認しながらやらなければならない。2つ目の重要なポイントである。

 「宛名書き」と「本文書き」を分けるのは、理由がある。翌朝、朝食後に「本文書き」にとりかかる。ここで3つ目の重要なポイントがある。「かっこいいことを書こうとしない」ことである。取材にきている町の印象、町の歴史やエピソード、これから行われる試合の楽しみなど、思いついたことを文章にしていく。大事なのは書いて届けることである。内容はつまらないものでもいい。とにかくどんどん書く。字も、読めさえすれば、ヘタでも、きたなくてもいい。

 ただ、誤字はしないように気をつける。漢字を間違ったりすると恥ずかしい。普段、原稿はすべてパソコンを使って書く。用事があって手紙を書くときにも、すべてパソコンである。文字を書く習慣が激減し、思い出せない漢字もある。そのときには表現を改める。

 こうして、私は1枚の絵はがきの本文を書くのに3分間ほどしか使わない。その朝書くものが5枚なら15分程度。仮に20枚あったとしても1時間ほどで終わる。そして書き上がると、散歩ついでに近くのポストまで投函に行くのである。これを習慣化してしまうと、まったく苦ではなくなる。

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