【古豪を10年ぶりの箱根本戦に導いたスーパールーキー】 10月14日に行なわれた第100回箱根駅伝予選会は、地方大学を含む史上最多57校が参加。通常大会より「3」多い「13」枠を争い、熾烈な戦いが繰り広げられた。 なかでも大接戦となったのが…

【古豪を10年ぶりの箱根本戦に導いたスーパールーキー】

 10月14日に行なわれた第100回箱根駅伝予選会は、地方大学を含む史上最多57校が参加。通常大会より「3」多い「13」枠を争い、熾烈な戦いが繰り広げられた。

 なかでも大接戦となったのがボーダーライン付近の4校だ。11位・東京農業大が10時間39分05秒、12位・駿河台大が10時間39分40秒、13位・山梨学院大が10時間39分47秒、14位・東京国際大が10時間39分50秒。4校が45秒差以内にひしめき、14位で本戦出場を逃した東京国際大はわずか3秒差に泣いた。



レース中に転倒した、東京国際大のエティーリ photo by 日刊スポーツ/アフロ

 ボーダーライン前後の大学はどこで明暗が分かれたのか。

 レースを振り返ると、10km通過は駿河台大が5位、山梨学大が10位、東京国際大が12位、東京農大が13位と4校とも圏内に入っていた。しかし、圏外にいた3校がレース後半で猛追することになる。箱根駅伝に50回以上出場している日本大、日本体育大、東海大だ。

 この3校は緻密な戦略を立ててレースに出場。10km通過は18位だった日大が5位(10時間36分54秒)、同20位の日体大は4位(10時間36分42秒)、同23位の東海大は10位(10時間37分58秒)で突破した。予選会でも"伝統の力"を発揮したといえるだろう。

 3校が急上昇した一方で、10㎞通過時で3位につけていた拓殖大と同9位の上武大が圏外に弾き出される。そして終盤は東農大、駿河台大、山梨学大、東京国際大の4校が"3枚のチケット"を争うことになった。

 このなかで最上位となったのが東農大だ。小指徹監督に通過できた要因を問うと、「特に前田の走りがよかったですね」と答えた。最終結果を冷静に分析すると、確かに大混戦を抜け出せたのは前田和摩(1年)のポテンシャルによるところが大きい。

 前田は、1万mでU20日本記録2位となる28分03秒51のタイムを持つスーパールーキーだが、ハーフマラソンを走るのは今回が初めて。15kmまでは先輩・並木寧音(4年)とともにレースを進める予定だった。

 設定は15km通過が44分15秒で、フィニッシュタイムが1時間02分15秒だったが、前田は15㎞を44分07秒で通過すると自らペースを上げていく。20km手前で日本人トップの吉田礼志(中央学院大3年)を逆転。ハーフマラソンのU20日本記録にあと1秒と迫る1時間1分42秒、日本人トップの個人9位でゴールに飛び込んだ。結果的には設定記録を33秒上回ったことになる。前田が作った貯金が、古豪・東農大を10年ぶり70回目の箱根駅伝に導いたといってもいいだろう。

【東京国際大の不運と準備不足】

 12位の駿河台大、13位の山梨学大、14位の東京国際大はいずれもケニア人留学生を擁するチーム。なかでも東京国際大は通過が有力視されていた。しかし、5000mと10000mで日本学生記録を持つリチャード・エティーリ(1年)が8.4㎞で転倒し、後半はペースが上がらなかった。

 この3校は留学生のタイムが明暗を分けた。駿河台大はスティーブン・レマイヤン(1年)が個人10位(1時間01分56秒)、山梨学大はジェームス・ムトゥク(2年)が同3位(1時間00分46秒)、東京国際大のエティーリは同12位(1時間02分11秒)だった。

 駿河台大は前回の予選会で個人54位(1時間04分04秒)だったムサンガ・ゴッドフリー(2年)も在籍するが、今回は9月に加入した1年生を起用。9月の日本インカレ1万mで4位に入ったレマイヤンが予選会でも好走して、2年ぶり2回目の出場を手にした。

 最後の1枠に滑り込んだ山梨学大は、「もっといい順位で通過したかったんですけど、ホッとしました。ムトゥクの頑張りでギリギリ通過できたと思います」と、飯島理彰監督は留学生の活躍を評価した。チームには日本インカレ1万m5位のビリアン・キピエゴン(1年)もいるが、前回個人4位(1時間02分15秒)だった先輩・ムトゥクが昨年の経験を生かした形だ。

 一方、僅差で7年連続8回目の出場を逃した東京国際大の横溝三郎監督は、「かなりショックはあります。エティーリも悔しいと思うし、3秒差ということを聞けば、もう少し、という気持ちもあるのでは......」と話していた。

 もちろん、エティーリが転倒しなければ結果は変わっていただろう。しかし、ロードの経験値がほとんどない選手だったことを考えると、指示の徹底が不足していたかもしれない。転倒したシーンを見返すと、エティーリが周りをキョロキョロと見渡しており、集中力を欠いているようにも見えた。また、エティーリにとっては中途半端なスピードが、脚の運びを狂わせた部分もあるように感じている。

 チームには、6月の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会の最終組でトップを飾ったアモス・ベット(1年)という実力者がいて、予選会にも選手登録していた。あくまで結果論だが、ベットを起用していれば通過できていた可能性もある。

 さらに、駿河台大と山梨学大は主力選手の欠場が少なかったが、東京国際大は白井勇佑(3年)、菅野裕二郎(2年)、森春樹(2年)という主力級がエントリーの段階から外れていた。創部以来、指揮を執ってきた大志田秀次前監督が、昨季限りで退任した影響もあったかもしれない。

 3秒差で涙を流した東京国際大には、「不運」という言葉では片づけられない悔しさがあるだろう。今後、それをどう乗り越えていくかに注目したい。