今年8月中旬からドイツ・バイエルン州のバート・ケーニヒスホーフェンを拠点にしている上田仁。

ブンデスリーガ男子1部のケーニヒスホーフェンで練習しながら、年内はオーストリアリーグの強豪ウィナー・ノイシュタットでヨーロッパチャンピオンズリーグ(ECL)に参戦している。

9月23、24日、クロアチアのドゥブロブニクで開かれたECL第1ステージではチームのリーグ1位通過に貢献し、第2ステージへと駒を進めた。

かつて青森山田高校中学の指導者だった板垣孝司氏が監督を務めるケーニヒスホーフェンには日本からプロや社会人、学生もやって来る。

この街に家族と暮らす上田は自宅近くにある練習場でさまざまな国・地域の選手はもちろん、日本から来た選手たちとも汗を流す。

10月に入って日に日に秋が深まるドイツ。ひんやりする屋外とは一転、熱気あふれる練習場には大阪成蹊大学4年生の皆川優香や専修大学2年生のカットマン原田春輝の姿があった。

原田の相手をする上田のカット打ちを見ていると、なんだか胸が熱くなる。卓球ファンなら誰もが記憶にとどめているだろう2009年全日本選手権大会 男子シングルス5回戦を思い出すからだ。

日本卓球の鉄人と呼ばれたカットマン松下浩二氏を当時、青森山田高校2年生だった上田がゲームオールで撃破した伝説の一戦。あの時の激闘を彷彿とさせるカット打ちだ。

現在31歳の上田はまだ17歳だった。一方、41歳になっていた鉄人・松下はこの試合を最後に惜しまれながら現役を引退した。

次の世代を担うライジングスターの台頭を前に、一時代を築いたレジェンドが32年間の輝かしい競技生活にピリオドを打った瞬間だった。

(文・撮影=高樹ミナ)