女子プロレスラー安納サオリ インタビュー前編 2015年5月にアクトレスガールズでプロレスデビューした安納サオリは、同年10月の試合からスターダムに参戦。プリンセス・オブ・プロレスリング王座や、初代AWGシングル王座など獲得した。 2020…

女子プロレスラー

安納サオリ インタビュー前編

 2015年5月にアクトレスガールズでプロレスデビューした安納サオリは、同年10月の試合からスターダムに参戦。プリンセス・オブ・プロレスリング王座や、初代AWGシングル王座など獲得した。

 2020年からはフリーで活動し、今年1月22日に横浜アリーナで行なわれたプロレスリング・ノア「GREAT MUTA FINAL " BYE-BYE"」にて、ノアのリングで初めて試合を行なった女子プロレスラーのひとりだ。

 現在はスターダムをはじめ、さまざまな団体で活躍しているが、もともと俳優を目指していたという安納はなぜプロレスのリングに行き着いたのか。その経緯を聞いた


プロレスラーになるきっかけ、その後の苦労などを語った安納

【俳優を夢見て上京するも、生活苦で

「やさぐれていました」】

――まずは、生い立ちから伺ってもいいですか?

安納 生まれは滋賀県の大津市。私は長女で弟が2人います。「人に迷惑さえかけなかったら、なんでも好きなことをやりなさい」と言ってくれる両親に育てられました。性格はメチャクチャ活発で、ダンス、バレエ、ピアノ、ミュージカル、学習塾、水泳、習字......本当に興味を持ったことは全部やらせてもらいました。別に、お嬢様ってわけじゃないですよ(笑)。

 その中でずっと続けたのはバレエとダンスです。お芝居やミュージカルにも興味があり、「女優さんになりたい」という思いがありました。

――どのような経緯で上京したんですか?

安納 学生時代はあまり勉強していなかったのですが、「女優さんになる」という夢を叶えるために、高校を卒業した後に18歳で上京しました。それで俳優養成所に2年間通ったんです。事務所には入らずひとりで動こうと思ったんですけど、うまくいかなくてやさぐれていました(苦笑)。

 お金がなくてバイトばっかりしてましたね。舞台もちょこちょこ出ていましたけど、ファンが付いてないから、チケットが全然売れなくて自腹で出演してたんです。家賃を払うとお金が残らなくて電気やガス止まる、といった生活が数年続きました。

 でも、地元に帰ろうという気持ちはなかったです。みんなが応援してくれて、背中を押してもらって上京したので、「みんなにも恩返ししたいし、自慢される存在になろう」と思っていましたから。

【「プロレスをやれ。絶対スターになるわ」】

――そうして女優を目指していたところから、なぜプロレスラーに?

安納 ある日、友達と一緒に飲んでいた時に「知り合いを呼んでいい?」と言われて。それで現れたのは、胡散臭いおっさん、アクトレスガールズの代表でした(笑)。それでいきなり、関西弁で「おい、プロレスをやれ。絶対スターになるわ」と。それまでプロレスを観たこともなかった私にです。

――急なことで驚いたでしょうね。

安納 それでも、「1回プロレスを観に行こう」となって、一緒に後楽園ホールでスターダムの試合を観戦しました。初めてプロレスを観た時に、自分がリングに上がっている姿が想像できたんです。2014年の秋のことでしたね。

 アクトレスガールズの旗揚げが2015年5月に決まっていて、その練習もやらされました(笑)。休もうと思っても、代表から何度も電話がくるんですよ。それまでまともにスポーツをしたことがなく、運動神経もよくなかったので基礎トレーニングは苦手でした。とにかく、「汗をかくのが嫌、ぐちゃぐちゃになるのが嫌、疲れるのが嫌」と、嫌いなことが三拍子揃っていました(笑)。

――その3つは、プロレスをする上では避けて通れないですね。

安納 そのとおりなんですけど、本当に嫌でした。でも、どんどん仲間が入ってきて、顔見知りも増えてきているから、もうちょっと頑張ろうと。「他の子に負けたくない」という気持ちも芽生え、デビューが決まってリングにも上がりましたが......その試合後にプロレスは辞めようと思っていました。

――デビューまでの数カ月間、よく嫌いな練習を続けることができましたね。

安納 負けず嫌いの精神というか、諦めるのが嫌だったので。そこはプライドがありました。

――2015年5月31日に行なわれたデビュー戦のことは覚えていますか?

安納 めっちゃ覚えてますよ。技とか闘い方も含めて、自分の見せ方、立ち振る舞いなどすべてがダサかった。運動していなかったから筋肉がなくて、太っていたし。「こんな姿を、360度晒すのがプロレスなのか」と思いましたし、今でもあの試合の動画を見ると「自分は何をしとったんやろ」となりますね。

【スターダムで「ここでやらないと、先はない」】

――同年10月11日にはスターダムに参戦しますが、どういった経緯があったんですか?

安納 先ほども言いましたが、私はデビュー戦が終わったら辞めるつもりでした。そんな時に、スターダムの風香さんから「練習に来ない?」と連絡をもらって。それでスターダムの練習に行くようになり、辞めるつもりでいた自分の心境に変化があったんです。

 まず違ったのが人間関係。アクトレスガールズは友達感覚でしたが、スターダムは上下関係がしっかりしていました。そんな中で、みんなが「勝ちたい。他のレスラーに絶対に負けたくない」という気持ちを持っていましたね。

 練習内容もまったく違って、ついていけずに悔しい思いもしました。最初はかなり怒られましたが、それがあったから力をつけられたし、人との接し方も学ぶことができたんです。

――当時所属していたアクトレスガールズを、「スターダムの芸能部門」と認識しているファンもいると思いますが、実際はどうなのでしょうか。

安納 よくそう言われますが、まったく別です。スターダムはスターダムで、アクトレスガールズはアクトレスガールズ。スターダムの系列ではないです。

――アクトレスガールズは、女優さんたちが集まって、リングというステージでプロレスをするというイメージでした。

安納 私もアクトレスガールズはそうだと思っていましたが、徐々に変化していったんです。最初は女優として活動していた人が多かったので、プロレスより舞台に近かったですね。

――スターダムの中野たむ選手やなつぽい選手、ガンバレ☆プロレスのまなせゆうな選手、東京女子プロレスの角田奈穂選手など、現在活躍している女子プロレスラーには、アクトレスガールズ出身の選手が多い印象があります。

安納 特にアクトレスガールズだから、というわけじゃないと思います。私を含め、彼女たちは売れていなかった。私が先ほど話したような「やさぐれ時代」の悔しさを味わった子ばかりなので、「ここでやらないと、先はない」という思いでプロレスをやっていたんです。反骨心の塊なので、元アクトレスガールズメンバーは強いんだと思います。

 私はプロレスに出会い、やさぐれていた気持ちや環境などが徐々に変わっていきました。何より、応援してくださるファンの方が優しくて温かい。だからこそ、その声に応えようという気持ちになりました。

【手にした"強さの象徴"】

――2017年7月30日に初めてベルトを戴冠しましたね。

安納 藤ヶ崎矢子さんと闘って、プリンセス・オブ・プロレスリング王座(POP王座)を獲ることができました。藤ヶ崎さんには同年の4月に1回挑戦して負けていたので、「リベンジさせろ」と言い続けて、ようやく頂点に立つことができた。

 アクトレスガールズとしても初めてのベルトでした。デビューしてから約2年。いろんな経験を経て、スターダムで試合をしていくうちに「強さの象徴となるものが欲しい」と欲が出てきた頃でしたから、このベルトは嬉しかったです。

 会場は名古屋のダイヤモンドホールだったんですが、両親も滋賀県から観戦しに来ていて、すごく喜んでいました。そのベルトを持って実家に帰り、みんなで祝勝会をしたのもよく覚えてます。

――2018年11月には、「アクトレスガールズシングルチャンピオン決定トーナメント」を勝ち上がり、初代アクトレスガールズ(AWG)王座を戴冠します。

安納 アクトレスガールズとして初の後楽園ホールでの大会でしたが、そこで優勝することができた。やっぱり「初代」というのは嬉しかったですよ。

 当時、私は"尖って"いました。「自分さえよければいい」という態度をとっていたので、本当に嫌われていたと思います。でもその行動の裏には、「自分の名が売れたら、アクトレスガールズも知ってもらえる」という考えもあったんですが......必死だったとはいえ、今振り返るとよくない態度をとっていた。"若気の至り"ですね。

――その後、2019年12月30日の新木場大会をもってアクトレスガールズを退団。フリーに転向したのはなぜですか?

安納 いろんなことを経験させていただいたからこそ、新たな挑戦をしたい、まだ見てない世界を見たいと思って。大変だろうけど自分の力でやりたいと思って、フリーランスという形を選びました。

(後編:ノアのリングに立って定めた次の目標とは 盟友への信頼と嫉妬も吐露>>)

【プロフィール】
安納サオリ(あのう・さおり)

1991年2月1日生まれ、滋賀県大津市出身。160㎝56kg。高校卒業後、上京し女優活動。アクトレスガールズの代表に誘われプロレスラーに。2015年5月アクトレスガールズ旗揚げ戦でデビュー。2017年7月、自身初のベルト「プリンセス・オブ・プロレスリング王座」を戴冠。2018年9月に初代AWG王者に輝く。2019年12月にアクトレスガールズ退団、フリーとして活動。2022年6月にはアイスリボンの至宝「ICE×∞王者」を奪取。2023年4月スターダムに6年ぶりに登場。KAIRI・なつぽいとのトリオで「アーティスト・オブ・スターダム王者」に。現在、スターダムでは「COSMIC ANGELS」に所属し、なつぽいとのタッグで「ゴッデス・オブ・スターダム王座」に君臨する。