女子プロレスラー安納サオリ インタビュー後編(前編:プロレスで闘い続ける理由 俳優を夢見た「やさぐれ時代」の悔しさ>>) 2015年5月にアクトレスガールズでプロレスデビューした安納サオリは、2020年からフリーで活動を始めた。2023年4…

女子プロレスラー

安納サオリ インタビュー後編

(前編:プロレスで闘い続ける理由 俳優を夢見た「やさぐれ時代」の悔しさ>>)

 2015年5月にアクトレスガールズでプロレスデビューした安納サオリは、2020年からフリーで活動を始めた。2023年4月には6年ぶりにスターダムのリングに登場。KAIRI&安納サオリ&なつぽいのトリオ「REstart」でアーティスト・オブ・スターダム王座を奪取した。

 現在は、スターダムのユニット「COSMIC ANGELS」に所属し、なつぽいとのタッグで「ゴッデス・オブ・スターダム王座」を保持する安納に、スターダムに再登場するまでの経緯、なつぽいとの特殊な関係、今後の目標などを聞いた。


2023年9月3日、スターダムの広島大会に出場した安納 photo by 東京スポーツ/アフロ

【大舞台のリングに立つも、

「悔しくもあった」】

――2020年からフリーで活動を開始したものの、翌年4月には腰椎横突起骨折でしばらく欠場となりました。

安納 それが初めての大きなケガでした。それまでは欠場したことがなかったし、病院で「折れてますね」と言われた時は泣きましたね。ただ、落ち込んだのは一瞬で、「じゃあ、今できることやろう」って切り替えました(笑)。そのポジティブさが功を奏したのか、約4か月で復帰できたんです。

――2022年6月に行なわれたアイスリボンのICE×∞王座決定トーナメントの決勝を制し、第34代ICE×∞王者に。フリーとなって初のシングル王座を獲得すると、翌年1月22日には、女子プロレスラーとして初めてプロレスリング・ノアのリングに上がりました。

安納 会場は横浜アリーナでしたね。グレート・ムタさんの引退興行として行なわれた「GREAT MUTA FINAL " BYE-BYE"」に参戦させていただき、ジャングル叫女をパートナーにして、夏すみれさん・雪妃真矢さんと対戦しました。

 それまでも、DDTプロレスさんや全日本プロレスさんには出場させていただきましたが、ノアさんは初めて。横浜アリーナに立てたことは、自分の中で大きな1歩でした。私の夢は、何千人、何万人の観客の前に立つこと。あの日、入場者数は8400人を超えていたそうなので、夢のひとつが叶ったんです。

 でも、同時に悔しくもあって。その時のお客さんは自分の力で集めたわけじゃなく、もちろんムタさんやノアさんの力で、私はそこに出させていただいただけ。だから浮かれることなく、「次の大きい舞台に立つ時は、少しでも私の力でお客さんを集められるようにしよう」という気持ちになりました。

【プロレスラーとしての成長を求め、再びスターダムのリングへ】

――今年4月には、6年ぶりにスターダムに参戦しましたね。

安納 その試合前、名前を伏せられていた「Ⅹ」の選手の話題が挙がるたびに、「安納じゃねえ?」という噂がすごかったですね。スターダムからは何年も声をかけてもらっていて嬉しかったですけど、「そんな簡単にスターダムには上がってやらんぞ」という気持ちもありました。ファンの期待を、ちょっと裏切りたかったんです(笑)。

――そんな気持ちもある中で、なぜそのタイミングでスターダムに参戦したのでしょうか?



6年ぶりのスターダム参戦、今後の目標などを語った安納 photo by Tanaka Wataru

安納 2020年からフリーになって3年。「環境を変えないと、プロレスラーとしての限界が近い」と感じていたところで、KAIRIさんから連絡をいただいたんです。スターダムには、アクトレスガールズ時代にタッグを組んでいた、なつみ(なつぽい)がいる。「私がスターダムのリングに上がると、どう思うんだろう」と想像することもありました。

 でも、イメージするだけではわからないし、やっぱりリングに上がらないとダメだと。「安納サオリというレスラーを知らない人もいるかもしれないけど、それなら知られるようにすればいいや!」と腹をくくり、勇気を振り絞ってリングに向かいました。

 スターダムのリングに上がらなかった期間も、試合は観ていたんです。その間に私はいろんなことを経験することができましたし、「このタイミングの参戦で間違ってなかった」と感じました。

――安納選手は4月15日の代々木大会で「COSMIC ANGELS」に加入します。

安納 加入というか、"助け"に入った感じです。2016年5月の、たむ(中野たむ)のデビュー戦の相手は私でした。スターダムのリングに上がらない間も、たむの試合をこっそり会場で観戦することもありました。

 アクトレスガールズ時代の彼女はニコニコ笑っていたのに、スターダムのたむは、いつ見ても暗くて話しかけられる雰囲気じゃなかった。そして4.15代々木大会で、COSMIC ANGELSから白川未奈と月山和香が抜け、たむが見たことがないくらい泣いていたのを見て、リングに上がっちゃいました。

【パートナーでありライバル、なつぽいへの信頼と嫉妬】

――COSMIC ANGELSには、なつぽい選手がいます。なつぽい選手は安納選手にとって「闘う相手」だと思っていました。

安納 私も「なつみは闘う相手だ」と思っていましたよ(苦笑)。彼女はアクトレスガールズ旗揚げ戦の、タッグマッチの対戦相手だった。その後、私はフリーの道を選び、なつみは東京女子プロレスに所属。袂を分かった2人がひとつになりました。

 なつみと対戦相手として会いたい気持ちもあったけど、別に嫌いなわけではないですよ。どちらかといえば好きだし、彼女に対してはいろんな感情があるんです。

――4.23横浜アリーナにて開催されたスターダムの興行「ALLSTAR GRAND QUEENDOM 2023」では、なつぽい選手と同じコーナーで再会しましたね。

安納 なつみとKAIRIさんと組んで、王者のプロミネンス(柊くるみ・鈴季すず・世羅りさ)から6人タッグベルト「アーティスト・オブ・スターダム王座」を奪取しました。

 なつみとは数年ぶりに同じリングに上がりましたけど、息が合うんですよ。動いている中で顔を見合わせるぐらい、「やっぱりわかる?」という感じでした。それまで、リング外でも全然会ってなかったし、話もしてなかったけどわかるんです。「今、なつみが来るな」と。たぶん、なつみも同じようなことを感じていたと思います。

――アクトレスガールズ時代、一緒に活動したのは3年くらいですか?

安納 そうですね。でも、その3年が濃かったんですよ。プロレスを何もわかっていなかったゼロの状態から一緒に頑張ったわけですから。プロレスをやる前には女優として舞台も一緒に出演していたんですけど、アクトレスガールズでは団体の2トップとして他団体にも参戦しましたから。

――7.2横浜武道館大会では、なつぽい選手とインディアン・ストラップ・マッチ(※)を行ないました。なぜ、そんな過酷な試合をしたのですか?

(※)双方の手首を革のヒモでつないで闘うデスマッチ。3カウントを奪った選手が革ヒモで相手を引きずり、全4コーナーをタッチしながら1周することで勝利というルールで行なわれた。

安納 お互いに嫉妬があったからだと思います。2020年10月、なつみがスターダムに移籍した時もかなり嫉妬しました。ただ、「いつか、この感情は使える」と思ったから、なつみの活躍を悔しがりながら見てましたね。

――おふたりがあえて交わろうとせず、別々の道を歩んでいるのかと思っていました。

安納 私としては「交わるチャンスが来ない」という感じでした。その間、なつみみたいな存在をどこかで探していた自分がいます。正反対なキャラクターが、パートナーとしても、友達としても居心地がいいんです。離れていてもずっとパートナーであり、ライバルだったからこそ、なつみがスターダムに上がったことは悔しかった。

 私はそんな思いを口にしたことはなかったので、なつみに伝えたら「さおり、そんなこと思ってたんだ」とびっくりしていましたよ(笑)。

――それを伝えたのは、7.2横浜大会の試合が終わった後ですか?

安納 闘う前ですね。お互いの気持ちを話したからこそ、あの闘いができました。なつみは今でもライバル。私たちにとっての褒め言葉は「悔しい」です。「今日の試合どうだった?」と聞いて、「悔しいわ!」と言われると嬉しいんです。

――現在、なつぽい選手とのタッグチームで「ゴッデス・オブ・スターダム王座」も保持しています。

安納 タッグを組むなら「似たもの同士がいい」という人もいますが、私となつみは真逆だからこそいいと思っています。ふたりでいろんなことに挑戦してきたけど、今までベルトを巻くことはなかった。だから、初めてお揃いのタッグのベルトを獲得できたことが嬉しい。同じ日に、同じリングでデビューしてから8年が経っていましたから。

――安納選手の、今後の目標を教えてください。

安納 先のことを考えるのは苦手で(笑)。あのベルトが欲しいとか、具体的なものはないです。毎試合毎試合、目の前の闘いを全力で頑張っていたら、自ずと自分が行きたいところに行けると思っています。

 ただ、さっきも話したように「何千人、何万人の前に立ちたい」という夢は今も変わりません。その場所に辿り着くために、ひとつひとつの試合を一生懸命闘う。今回の取材なども含め、リング外の活動も本気でやっていけば、いつか実現できると思っています。

【プロフィール】
安納サオリ(あのう・さおり)

1991年2月1日生まれ、滋賀県出身。160㎝56kg。高校卒業後、上京し女優活動。アクトレスガールズの代表に誘われプロレスラーに。2015年5月アクトレスガールズ旗揚げ戦でデビュー。2017年7月、自身初のベルト「プリンセス・オブ・プロレスリング王座」を戴冠。2018年9月に初代AWG王者に輝く。2019年12月にアクトレスガールズ退団、フリーとして活動。2022年6月にはアイスリボンの至宝「ICE×∞王者」を奪取。2023年4月スターダムに6年ぶりに登場。KAIRI・なつぽいとのトリオで「アーティスト・オブ・スターダム王者」に。現在、スターダムでは「COSMIC ANGELS」に所属し、なつぽいとのタッグで「ゴッデス・オブ・スターダム王座」に君臨する。