世界水泳競泳2日目、7月24日の女子200m個人メドレー決勝。大橋悠依(東洋大)の銀メダル獲得と今井月(るな/豊川高)の5位に、平井伯昌コーチは「試合前に大橋のメダルの可能性があると言わなかったのはズルかったけど、本当に惜しかったルナ…

 世界水泳競泳2日目、7月24日の女子200m個人メドレー決勝。大橋悠依(東洋大)の銀メダル獲得と今井月(るな/豊川高)の5位に、平井伯昌コーチは「試合前に大橋のメダルの可能性があると言わなかったのはズルかったけど、本当に惜しかったルナも含めて『メダルもあるな』とこっそり狙っていたんです。もちろんふたりには『狙え』とは、はっきり言わなかったけど、大会の前にはこっそり話していました」と明かす。



おっとりとした雰囲気ながらも芯の強さを見せて銀メダルを獲得した大橋悠依

 だが、前日の予選と準決勝での大橋は、そんな気配をまるで感じさせなかった。予選は2分11秒44で8位通過。準決勝は予選から2分07秒台を連発するカティンカ・ホッスー(ハンガリー)を筆頭に、6選手が8秒台と9秒台に入っているにも関わらず、大橋は2分10秒45のギリギリ8位で通過した。むしろ7位通過ながらも、自己ベストを出していた今井の方に勢いを感じるほどだった。

 それでも大橋のゆったりとした雰囲気が変わることはなかった。予選のあとのコメントでは、「150mまでは1分39秒57のベストラップなので、自分の感覚もタイムもいい感じで泳げていると思う。最後のフリーは様子を見て泳ぎました」と、世界大会初出場とは思えない余裕っぷり。

 さらに準決勝では、「できればここで自己ベスト(2分09秒96)を更新しておきたかったんですが、前半はしっかり入れているし、泳ぎに関しても気にするところがない感じで落ち着いています。最後のフリーは隣のシボーン・オコーナー(イギリス・自己ベスト2分06秒88でリオ五輪2位)が近くにいたので、自分も油断したかなと思う」と平然と話していた。

 初めての世界大会。少しでもメダルを意識していたら、3位と1秒近く差がある8位通過は焦りを感じて当然だ。だが平井コーチは「彼女は流しの天才だから」といい、本人も「最後のフリーは流したというか、思い切り行ってはいなかったです」と笑いながら答えていた。さらに大橋は、「(準決勝の)150mまでのラップを見ても状態は悪くないのはわかっていたし……。逆に8位通過すると、決勝の選手紹介は最初に入場できるので、スタートまで時間があるとか、8レーンだから周りを気にせず泳げるという風に捉えていました」と、その状況をプラスに考えていたのだ。

 まさに平井コーチが「あれが大橋悠依なんですよ!」という”大物感”ともいえる度胸のよさ。決勝のレースではそれを存分に発揮した。

 最初のバタフライは「練習ではずっと7秒台で入る練習をしていたんですが、日本選手権でもジャパンオープンでもできていなかった。それをこの世界選手権で実現できたのはすごくうれしい」と言うように、3番手につけた。そしてそこから落ちることなく、背泳ぎ(32秒62)、平泳ぎ(37秒34)と泳いで、3位以内を確実にすると、最後のフリーでは、30秒28のベストラップで2位に上がり、自己記録を2秒以上更新する2分07秒91の日本記録で銀メダルを掴み取った。

 予選と準決勝でため続けた力を一気に爆発させ、したたかとまで言えるような戦略的な戦いぶりを見せてくれた。

「昨日よりも今日のアップの方が状態がよかったので、平井先生からは『しっかり体は動いているから、とにかく思い切って行きなさい』と言われて。8レーンだったので周りも見ずに泳いでいたから、最後のフリーになった時もどんな位置にいるか全然わからなかったけど、泳いでいる感覚としては『多分速いな』と感じていたので、『もしかしたらメダルを獲れるかもしれない』というのが頭に浮かんで最後は腕が千切れるくらい必死に回しました」

 こう笑顔で話す雰囲気はいつもと変わらず穏やかだった。

 それでも、自身のタイム予想では2分8秒台にいけるかなくらいだったといい、2位という結果以上に2分7秒台の記録に驚いたという。

 平井コーチはこの結果を「昨日の準決勝もそうだったが、平泳ぎがよかったのが一番大きい。元々バタフライと背泳ぎはよくて、穴があるとしたら平泳ぎだったので。準決勝の150mまで1分38秒7のベストラップをさらに1秒近く早められたのは、前半を怖がらないで入ったということ」と分析し、「平泳ぎがあそこまでできてくると400m個人メドレーの平泳ぎのラップも面白いなと思いますね」と表情を綻ばせる。

 最後のフリーで追い上げた今井は、自己ベストの2分09秒99で5位。「9秒台を出せたのはよかったですが、2分09秒98が世界ジュニア記録(池江璃花子)なので、それを更新できなかったのが残念です。自分なりに前半から行けたし、その分最後のフリーはきつかったけど、本当に収穫のある試合だったなと思います」と納得の表情を見せる。

「今日の決勝はいい経験になったと思うので、400mも落ち着いて、自分の持ち味を最大限生かすレースをしてメダルを獲りたいと思います」という大橋は、大会最終日の400m個人メドレーでもまた、度胸のよさと大物ぶりを見せてくれそうだ。