10月のドーハは40度にも達する酷暑が続く。夜の帳(とばり)が降りても気温はまだ30度を下回らず、逆に湿度が70%を超えて不快度が増す。 夜8時、カタールGP決勝のスタートが切られ、角田裕毅は前方のアクシデントを巧みに避けてバルテリ・ボッ…

 10月のドーハは40度にも達する酷暑が続く。夜の帳(とばり)が降りても気温はまだ30度を下回らず、逆に湿度が70%を超えて不快度が増す。

 夜8時、カタールGP決勝のスタートが切られ、角田裕毅は前方のアクシデントを巧みに避けてバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)をかわし、8位に浮上した。



角田裕毅は15位という悔しい結果に終わった

 予選ではQ3進出までわずか0.004秒という好走を見せただけに、このまま入賞を果たせるものと、誰もが期待した。しかし、57周のレースを終えてみれば、15位へと大きく後退。チームメイトのリアム・ローソンも17位に終わり、アルファタウリはまたしてもノーポイントの週末となってしまった。

「スタートはよかったですし、入賞圏を走ることができましたが、レースを通して全体的にまったくペースがなくて、かなりタフなレースでした」

 角田は吐き捨てるように言った。ドライバーとしてできることは何もなかった。そのフラストレーションが表情にはっきりとにじんでいた。

 レースを終えたドライバーたちはみな、一様に疲労困憊していた。なかには脱水症状でリタイアしたドライバーもいれば、走行中に気分が悪化したり意識が朦朧(もうろう)としたドライバー、レース後もなかなかコクピットから降りてこられないドライバーもいた。

 そうなってしまったのは、高温多湿なコンディションだけでなく、高速コーナーが連続して激しい横Gと格闘しなければならないコースレイアウト、そして何より57周にわたって予選と同じようなプッシュを続けなければならなかったレース展開が大きな原因だ。

 金曜の走行でタイヤ内部構造に微細な剥離症状が散見され、これは200km/hを超える高速コーナーで縁石を走行し続けることによるものだと推測された。タイヤに1トン近いダウンフォースがかかる状態で、カタール特有の段差の高い縁石を走行すると、下からハンマーで激しく連打されるような状態になるからだ。

 土曜以降は縁石を使いにくくするため、コース外端を80cm移動させたが、19周のスプリントレースでもダメージは見つかった。そのためピレリとFIAは安全性を重視して、タイヤ1セットの周回数を18周に制限する措置をとらざるを得なかった。

【なぜアルファタウリは優位性を生かせなかった?】

 本来なら全力で走り続けて3回ピットストップするよりも、タイヤをいたわってピットストップを2回に抑えたほうが早くレースを走りきることができるため、全車がその戦略を採る。しかし1セットが最大18周となれば、最初から最後まで全力で走るしかない。そのため、決勝レースは非常にタフな状況に陥った。

 加えていうなら、こうしたフィジカル的にタフな状況になることは土曜になってからわかったことで、金曜の時点でマシンやコクピットの冷却はそれに対応したものではなかった。そしてスプリント週末ゆえに金曜夜の予選でパルクフェルメ保管となり、それ以降、マシンの仕様を変更することができなかった。

 その結果、ドライバーたちはこの異例の過酷なレースに直面することになったのだ。



アルファタウリのマシンに速さはなかった

 この予想外のタイヤ周回数規制は、アルファタウリにとって不利に働くことになった。

 土曜のスプリントシュートアウトはSQ1で早々に敗退した角田は、SQ2で使うはずだったミディアムを新品のまま温存することができた。そして金曜に使っていなかった2セットのハードと1セットのミディアムもあり、新品が計4セットもある状態で決勝に臨むことになった。

 18周制限が設けられたことで、実質的に3ストップ以上、つまり4セットのタイヤを使うことが義務づけられた決勝において、これは有利と思われた。なかには新品2セット以外は残り12〜13周程度しか走行できない中古のタイヤしか持っていないドライバーもいたからだ。

 しかし、アルファタウリはその優位性を生かすことができなかった。

「タイヤ自体は新品を4セット持っていたので、アドバンテージがあったと思います。足りなかったのは、単純にペースです」

 ミディアムのペースは悪くなかった。直接のライバルだったアルファロメオ勢と比べても、同等かそれ以上だった。しかし、ハードに履き替えてからのペースが遅く、じわじわと前とのギャップが広がっていった。

【戦略巧者ぶりでも負けてポジションを失った】

 さらに悪いことに、アルファタウリは4セットの新品を持つ優位性を生かそうと、レース序盤から早め早めのピットインを仕掛け、ミディアムを18周の最大周回数まで使わずに9周、13周と早々に切り捨てていった。その結果、ペースが遅いハードで走る周回数が長くなり、ライバルとの戦いは余計に苦しくなった。

 結論から言えば、タイヤ周回数制限が設けられたことで全車がフルプッシュのレースになり、タイヤマネジメントの勝負ではなく、マシン本来の純粋なペース差の勝負になった。

 端的に言えば、予選と同じ勢力図になる。こうなると、アルファタウリとしては苦しい。

 予選の一発は角田の腕でどうにかトップ10を狙うところにつけているが、それを57周続けることはできない。マシンとしては10台中8〜10番手を争うところにいるアルファタウリでは、純粋なペース勝負になると上位勢はおろか、アルピーヌ勢にも勝ち目はない。ウイリアムズにも及ばず、今回はアルファロメオとの争いもハードタイヤでは厳しかった。

 さらには、セーフティカー中にピットストップを済ませるといった戦略巧者ぶりでもボッタスやランス・ストロール(アストンマーティン)、ケビン・マグヌッセン(ハース)に負け、ポジションを失った。その結果が15位だ。

「マシンバランス自体は悪くありませんでしたけど、単純に十分な速さがなかったというだけで、どこでタイムロスしているかもわかっています。ストレートの速さが十分ではなくて、それでもすでにグリップレベルとしてはギリギリの状態だったので、これ以上ダウンフォースを削ることもできません。

 その点はさらに改善が必要だと思います。改善するのは簡単ではないと思いますが、今後に向けて何ができるかを詳しく見ていきたいと思っています」

 シンガポールGPで投入したアップグレードは、AT04の底上げを果たしたことは間違いない。しかし、まだ十分ではない。それをはっきりと突きつけられた過酷なカタールGPだった。