ジュニア世界ランク2位を記録した齋藤咲良のコーチ、松田隼十氏に聞く今後のビジョン 日本人女子ジュニアでトップを走り続けるITFジュニア世界ランク5位の齋藤咲良(MAT Tennis Academy)…
ジュニア世界ランク2位を記録した齋藤咲良のコーチ、松田隼十氏に聞く今後のビジョン
日本人女子ジュニアでトップを走り続けるITFジュニア世界ランク5位の齋藤咲良(MAT Tennis Academy)。1月の全豪オープンジュニアのダブルスで準優勝を果たすと、自己最高2位となって迎えた全仏オープン、そして9月の全米オープンでは海外での試合経験がない里菜央(相生学院高)を引っ張り決勝に進出し、今季グランドスラム3大会をそれぞれ異なるパートナーで準優勝という結果を残した。
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12歳から齋藤を指導している松田隼十コーチは、この結果をどのように受け止めているか、また現在改造中であるというサーブ、今後のビジョンについて聞いた。
――全米オープンジュニアのダブルス決勝は惜しかったですね。もう一歩のところでした。ここまでシードを破って勝ち上がってきました。その要因は何でしょうか。
松田隼十コーチ(以下松田):フレッシュだったからだと思います。決まったペアではないからこそ相手も戸惑っていたし、彼女たちも普段ならできないことができたと思います。
――2人のダブルスを観て印象的だったのが、ニコニコしてプレーしてました。力が抜けてリラックスしているようにも思いました。
松田:(里選手とは)初めてで、ペアを組む予定ではありませんでした。クロスリー真優選手が怪我で欠場したことでダブルスパートナーがいなくなってしまい、シングルスのみ出場予定でした。里さんも組む相手がいなくて、(齋藤)咲良が「里さん空いてるんじゃない?」ってメールしてみたら、それじゃあ組もうかとなりました。
――優勝して歴史に名を刻むまであともう一歩でした。ダブルスを組んで試合を重ねていくことで、齋藤選手が変わったところはありますか。
松田:頼もしくなりましたね。里さんは全国高校選抜を勝っただけに実力はありますが、海外での大会経験がない。それに対して咲良が「引っ張っていかないと」という気持ちがあったのは見ていて感じられました。そのような状況はこれまでにもありましたが、それで勝っていくということはなかった。里さんも咲良の気持ちを感じ取ったのか、勇気を持ってネットに詰めていましたね。
――普通の日本の女子高生が、大柄なヨーロッパの選手に挑んでいく漫画のような展開でしたね。
松田:咲良はこれまでもグランドスラムに出場していましたし、全豪オープンでは木下晴結選手とのダブルスで準優勝しています。でも、海外選手との対戦経験も少ないパートナーと決勝に進出し、負けて悔しいですが勝ち抜けたことはすごいですね。大事なポイントで攻めにいって咲良はミスしましたが、そういう勇気があったから決勝までいくことができたし、決勝での10ポイントマッチタイブレーク8-8のところで振り抜けたことが今後につながる。そうは言っても、勝ちが見えてくるとやっぱり力が入りますね。いずれこの悔しい経験は生きてくれるでしょう。
――柴原瑞樹トレーナーは、妹の瑛菜選手(橋本総業HD/ダブルス世界ランク17位)にも帯同していますし、ご自身でもプレーされていました。彼女たちのダブルスの印象を教えてください。
柴原瑞樹トレーナー:いい内容だったと思いますね。こちらが「ポーチをしよう」「ダウン・ザ・ラインに狙っていくよ」と強気のアドバイスをしても、心折れることなく頑張っていました。2人とも大会中にダブルスがうまくなっていったと思います。
咲良はサーブを強化しているだけあって、怖がってしまうこともありますが、「ここまで来たんだからプロになった時のことを考えてやっていこう」という課題を出しました。この負けから学びを得て、少しでも自分のテニスにプラスできるようになってきた時、咲良はもう一段階強くなっていくのではないかと思います。
齋藤咲良を指導する松田隼十コーチ(写真左)とサーブ改造の役割を担う柴原瑞樹トレーナー
――去年から今年にかけての齋藤選手について取り組んできたことをお伝えください。
松田:大きく変わったところで言えば、スケジュールの中にプロの大会を組み込んだところでしょうか。ジュニアの大会と併用するのが今年は初めての年だったので、ジュニアとは違うプロならではの試合の組み立てや通用しない部分を明白にしていくことを意識していました。特にサーブの強化、あとはベースとなるフィジカルの強化に取り組んできました。
ゲームメイクに関しては、相手も場所も変わる中でそういう状況に対して何ができるかというのをその都度、コートの中で考えるということがベースになっています。
――特にサーブのフォームが変わりましたね。それも少しの変化ではなく、“改造”という感じです。なぜ変えようと思ったのでしょうか。
松田:これまでは動作が多すぎて、プレッシャーがかかっていないときは良いのですが、プレッシャーがかかった時に考えることが多くなりすぎて、ミスが出てしまうというのが一番大きなところです。だからテイクバックを小さくしました。
あとは根本的にサーブを改良するために、身体をどう動かした方がいいかというのをマッスルメモリーだけでなく、頭でしっかり理解してトレーニングをした結果、打ち方が変わりました。全仏、ウィンブルドンの頃は全然フィットしていなかったのですが、(2~3月の)南米遠征でミスが多く出たのでもうやるしかないなと。まだまだですが、少し良くなってきました。
――そのために柴原トレーナーにお願いしたと。
そうですね、サーブを変え始めた頃に連絡を取り始めて、肩回りのトレーニングとサーブの動作を専門的にやってもらうことにしました。そのおかげでサーブが成長スピードが早いです。
――グランドスラムジュニアのシングルスでは2回戦の壁を突破し、初めて準々決勝に進みました。成長した部分や課題などがあれば教えてください。
松田:まだ課題はあるのですが、その中で去年に比べると精神的に強くなったなと。彼女自身、シードのプレッシャーがあって辛かったと思います。その中で全米オープンジュニアのシングルスでベスト8までいけたのはホッとしました。
来年もグランドスラムジュニアには出場できますが、今年でジュニアの大会は最後にする予定です。彼女もプロになる覚悟を決めているのではないかと思います。それが一番成長したところですね。もちろん技術面、フィジカル面、成長した部分はありますが、プロになるという意識が大きいかと思います。
――今後のビジョンについては。
松田:来年はプロのサーキットがすべてになる予定なので、次はジュニアではなくプロとしてグランドスラムに出場できるようにしたいですね。フットワークや敏捷性、ボールの質は負けないと思います。あとは、フィジカル面はもちろん、サーブや重要な場面で決められるウイニングショットは強化していきたいところです。
――齋藤選手の今後の活躍も楽しみにしています。お忙しい中、ありがとうございました。