プロリーグができてわずか30年ということを考えれば、日本サッカー界の成長は目覚ましいものがある。だが、サッカージャーナ…

 プロリーグができてわずか30年ということを考えれば、日本サッカー界の成長は目覚ましいものがある。だが、サッカージャーナリスト・大住良之の目には、ある重要な欠落が映っている。それは、日本代表のワールドカップ優勝へのラストピースになるかもしれないのだ。

■手本とすべき選手たち

 Jリーグを見ると、一般に外国人選手はヘディングでかなりきっちりと味方につなぐ。鹿島アントラーズのMFディエゴ・ピトゥカ、川崎フロンターレのMFジョアン・シミッチ(ともにブラジル人)といった選手たちのプレーに注目してほしい。彼らは浮き球が自分のところにきたときには、「ともかく前に飛ばす」というようなヘディングはほとんどしない。素早く周囲を見てフリーの味方を見つけ、頭でそっと触ってそこにコントロールしやすいボールを落とす。たいていは横パスである。

 浦和レッズのDFアレクサンダー・ショルツも、うっとりするようなヘディングのパスを見せる。ペナルティーエリアで相手のクロスをはね返すときにも、タッチライン際にいるフリーの味方選手に渡そうとする。

 こうした外国人選手たちには、ヘディングにあっても、「ボールを失わないよう、味方にしっかり届けなければならない」というパスの考えが当然のように伴っている。

■希有な日本人選手

 2021年限りで引退した阿部勇樹(ジェフ市原―浦和レッズ―レスター・シティ―浦和)は、ヘディングパスの名手だった。とくに1シーズン半をレギュラーとして過ごしたレスターから戻っての「ヘディングパス」の精度は群を抜いていた。日本人プレーヤーとしは希有な存在だった。

 だが残念ながら、Jリーグの日本人選手の多くはヘディングしたボールが前にさえ飛べば自分の責任を果たしたように思っている(としか見えない)。AFCチャンピオンズリーグの試合を見れば、韓国Kリーグの選手たちのほうが圧倒的に「ヘディングパス」がうまい。彼らには明らかに「味方につなぐひとつの手段がヘディング」という意識がある。

 「欧州や南米だからヘディングパスもうまい」のではなく、サッカーの技術を突き詰めるうえでのヘディングの考え方において、日本のサッカーはどこか欠落しているとしか思えないのである。「ヘディングパス」の成功率が上がれば、Jリーグのサッカーは確実にもう一段階レベルアップするはずなのだが…。

W杯優勝のために

 Jリーグでこれだから、その下のレベルでヘディングパスの精度が高いわけがない。高校サッカーでもジュニアのサッカーでも、ヘディングは非常におざなりにされている。あるいは、クロスボールやロングパスを競り合ってヘディングシュートしたり、あるいはクリアすることにしか焦点が合っておらず、なかでも中盤でのヘディングは軽視されている。

 日本人にヘディングパスの技術がないわけではない。しかしヘディングという技術のなかに「味方につなぐ」という意識が欠落しているのだ。

 育成年代からこうした考え方を植えつけることが何より必要だ。たとえば10メートルのパスをインサイドキックでけって1メートルもずれていたら、指導者たちは「もっと正確に!」と注意するだろう。しかしヘディングに対しては、頭に当てて前に飛ばせば、それが相手に渡っても「ナイス・ヘッド!」と手を叩くのではないか。

 「ヘディングもパス」という考え方を徹底することが、何よりも必要だ。ヘディングの強化は、19位まで上がったFIFAランキングを10位台の前半に押し上げ、さらに「10位以内」に食い込む(そうなれば、「ワールドカップ優勝」は現実的な目標になる)ステップの無視できない要素なのではないだろうか。

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