億万長者オーナーらの活発な購買活動で過去最高の盛況に終わった今年の「セレクトセール2017」(主催・JRHA日本競走馬協会)。大きく目立ったのはこうした日本のミリオンダラーたちだが、実は海外からの視線も例年以上に注がれていた。 という…
億万長者オーナーらの活発な購買活動で過去最高の盛況に終わった今年の「セレクトセール2017」(主催・JRHA日本競走馬協会)。大きく目立ったのはこうした日本のミリオンダラーたちだが、実は海外からの視線も例年以上に注がれていた。
というのも、このところの日本調教馬によるドバイや香港、フランスなどの大レースでの好結果に加えて、日本ブランドの血統を持つ海外調教馬も世界各地で活躍が相次いでいるからだ。
自らの目で選んだ馬を競り落として、ご満悦のファハド殿下(右)
例えば、2014年のセレクトセールでカタールのシェイク・ファハド殿下に購買されたチリエージェの2014(牡3歳/父ヴィクトワールピサ)はWarring Statesと命名され、ドイツで調教を積み、当地のGⅢ競走を勝利した。一昨年にオーストラリアの女性調教師ゲイ・ウォーターハウスが購買したアワーオアシスの2014(牡3歳/父バゴ)はフランスに渡り、Bag Raiderの名で先日、初勝利を挙げた。また、セレクトセール出身ではないものの、ハーツクライ産駒のYoshida(牡3歳)がアメリカで、ディープインパクト産駒のSeptember(牝2歳)がイギリスで、それぞれ準重賞を勝利している。
とりわけインパクトが大きかったのがSeptemberの勝利だ。勝ったレースが王室主催のロイヤルアスコット開催で、2戦2勝の内容がいずれもパーフェクト。さらに、アイルランドの名門エイダン・オブライエン厩舎の管理ということで、早くも来年のクラシック候補として注目が高まっている。
それだけに、確実に日本の良血が上場されるセレクトセールは、いまや世界中からバイヤーが集まるものとなり、今年も多くの外国人関係者がセール会場に姿を見せた。
ところが、前述のSeptemberを所有するクールモアグループも現場にいたようだが、お目当ての馬を落札できず、1頭も購入できないままセールを後にすることとなった。実は昨年もお目当ての馬を「サトノ」の冠名でお馴染みの里見治氏と競り合った末に購買を見送っており、ジャパンマネーの厚い壁にまたしても阻まれた形となった。こうした状況を、海外からの参加者はどう見ているのだろうか。
「実にエキサイティングなセールです。今や日本の血統は世界のどこであっても無視はできない。ここに来れば、その血統の中でも上質な部類の馬たちを確実に手に入れることができます。ただし、そのためには予算が驚くほど必要ですね。この予算をどこまで取れるか、オーナーやバックアップするシンジケートの資金力が試されます」
そう語るのは、オーストラリア人のマーク・プレイヤー氏。香港国際競走のスカウトのほか、馬主のエージェントとしても活動しており、今回のセールでもクリムゾンブーケの2016(牝1歳/父ハーツクライ)を2500万円で購買していた。強い日差しに目を覆いながらプレイヤー氏は続ける。
「今年は非常に暑い。ですから、みなさん少し熱にやられているのかもしれません。少しクールダウンしてくれないと、我々のような外国からのバイヤーは簡単に手が出せません(笑)」
一方で、購買目的とは別の用事でセールに来場していた、日本人ながらニュージーランドのオークススタッドファームに勤務する小西研二氏は、「一部のセールの活況は世界的な傾向」と語ってくれた。
「4月にオーストラリアのイースターセールに行ったんですが、そこと似た雰囲気です。やはりいい馬が上場されるセールには世界中からお金が流れ込んでいるので、いい馬はより高くなりますし、それを買うつもりだったのに買えなかった、そこそこ資金力のあるバイヤーが下の価格帯に手を出しますので、そのぶん全体的に平均価格は上がってしまいます。これは共通した傾向ではないでしょうか」
事実、今年のセレクトセールでも2000万円前後を予算の上限と見ていた中小のオーナーが、大オーナーの1000万単位の入札攻撃の前になす術(すべ)なく瞬殺、というシーンが多く見られた。かつては、アドマイヤムーンやジャスタウェイのような、後の国際GI勝ち馬が1000万円台で購買できていたのが、今や難しくなってきたということだ。
こうした状況に、「まったく買いたい馬が買えません」と困り顔を見せていたのが、今年も参加した前出のファハド殿下のチームだ。当初はディープインパクト産駒などを狙っていたようだが、カタールと聞いて思い浮かべるイメージとは裏腹に堅実な予算を組んでいたことから、まったく手が出ずに苦戦していたという。しかし、途中から、「血統がいい馬よりも、そこそこの血統で馬体のいい馬」(代理人談)という方向性に作戦変更すると、次々と落札に成功し、最終的に1歳馬2頭、当歳馬3頭を合計1億2600万円で購買した。この作戦変更の裏には、ファハド殿下自身による、入念な下見があった。特に当歳馬に関しては、当日の早朝からほぼ全馬に直接目を通し、その中から選んだのだという。これらの馬はすべて日本でデビューの予定とのこと。
余談になるが、ファハド殿下は前回のセール参加時と比較して、半分ぐらいになったかと思えるほどシェイプアップ。現在はフルマラソンを走るほか、自身でもアマチュア騎手としてレースに騎乗しているという。3年前にこのセールから2億8千万円で購買したNew World Power(母リッスン)が、競走馬として大成が難しいと見るや、自分が騎乗する馬とし、実際にレースでも2着になったそうだ。日本ではなかなか考えにくいスケールの大きな話である。
活況が続く日本の競走馬市場に対して、海外からの注目、関心はまだまだ静まりそうにない。