4団体統一世界王者を目指す寺地拳四朗インタビュー 後編前編「寺地拳四朗、TKO勝利の裏でよぎった弱気をどう立て直したのか」>> 9月18日、WBAスーパー&WBC世界ライトフライ級(48.9キロ以下)2団体統一王者、寺地拳四朗(BMB)は、…

4団体統一世界王者を目指す
寺地拳四朗インタビュー 後編

前編「寺地拳四朗、TKO勝利の裏でよぎった弱気をどう立て直したのか」>>

 9月18日、WBAスーパー&WBC世界ライトフライ級(48.9キロ以下)2団体統一王者、寺地拳四朗(BMB)は、WBA4位&WBC1位で元2団体統一&元2階級世界王者のヘッキー・ブドラー(南アフリカ)相手に9回TKO勝ちで防衛に成功(WBA2度目/WBC3度目)した。終始ペースを握ったKO劇はメインイベンターに相応しい戦いぶりで、会場の東京有明アリーナは大歓声に沸いた。



2つのベルトを肩に掛け、笑顔を見せる寺地拳四朗

 前編では「判定でもいいかな」と気持ちが揺らいだ拳四朗がKO勝利に至った経緯。師弟関係にある加藤健太トレーナーとの絆について紹介した。後編は共にボクシング界を盛り上げ牽引する、セミファイナルに出場した那須川天心について拳四朗はどう見ているか。そして、長期出稽古をサポートしプロモート面でも支える三迫ジムの三迫貴志会長に、最近の拳四朗の成長や今後のプランについて聞いた。

【経験を積めば自然とできるようになる】

 ボクシング転向2戦目(8回戦)の今回、天心はメキシコバンタム級王者ルイス・グスマンから2度のダウンを奪い判定勝利(3-0)を収めた。しかしデビュー戦(2023年4月8日。日本バンタム級4位、与那覇勇気戦)に続いての判定決着で、ボクシング転向初のKO勝利はお預けになった。

「(天心は)まだ2戦目でしょ。まだまだ経験を積んでさらに伸びていくだろうし、いまはそこまでKO勝利にこだわる必要はない気がします。僕も昔はKOにこだわっていなかった。KOできなかったといっても、メキシコ王者相手に2度ダウンを奪っての圧勝ですからね。『まわりの期待値が高すぎるんかな』とは思います。でも、それだけ注目されるような人気も実力もある選手なので、勝ち方まで求められることはいいことだと思います」

 試合後、天心本人と少し話す機会があったそうで、その時天心は「キックとは全然違う。ボクシングで倒すのは難しい」と振り返っていたという。

 拳四朗に単独インタビューする直前の共同会見で、天心に、拳四朗について質問してみた。天心は「スタイルとかを見ていて、自分にないものを持っているというか、自分に足りないものを持っているチャンピオンだと思ったので『自分も取り入れてみたい』と思う技術もあります。あまり他の選手を気にしたり見たことがなかったですけど『真剣に見てみたい』と思うようになりました」と答えた。

 天心のコメントを拳四朗に伝えると「そう思ってもらえるのはうれしいですね」と答え、「天心は自分の課題はわかっているはずです。なので、今の取り組み方で間違っていないと思います」と話した。

 ただ、もしひとつアドバイスするとすれば、「駆け引きが各局面で、『用意スタート。終わり』『はい次、用意スタート』と、毎回リセットされているように感じます。経験を積んで『試合』という大きな流れのなかで駆け引きができるようになれば、自然とKO勝利できるようになるのでは」と言う。

【めっちゃ盛り上がる試合がしたい】

 現役時代は重量級で日本&東洋のベルト巻いた名ボクサーだった父、寺地永氏が会長を務める京都BMBボクシングジム所属の拳四朗は、東京で世界戦を開催した際にサポートしてもらったことが縁で、現在は主に、レベルの高いスパーリングパートナーを探したり、前述した加藤に教えを請うために三迫ジムで長期出稽古を続けている。

「本当に、チーム一丸で強くなってきた。僕ひとりではここまで辿り着けなかった。三迫会長、トレーナーの加藤さん、スタッフ、選手、一般会員さんも含めてみんなの協力に支えられてここまで成長できたことに心から感謝しています」(拳四朗)

 三迫ジムは、昭和のボクシング人気全盛期、輪島功一はじめ3人の世界チャンピオンを輩出した老舗ジムだ。現在も数多くの有望選手を抱える名門ジムとして看板を守り続けている。

 そんななか、本来は他ジムの選手である拳四朗に対しても所属選手と同じように愛情を持って、4団体統一世界王者という目標に向けて全面サポートしている。

 拳四朗をそこまで応援する理由について三迫会長は「何よりも拳四朗の人柄によるところが大きい。これが自分勝手な考えの選手ならば、誰も応援しない」と話した。

「拳四朗だから(サポート)できているように思います。うちの選手たちもみんな拳四朗が大好きで、仲間と思っているからこそ手伝いにきたり、応援にもきてくれる。逆にうちの選手にとっては、世界チャンピオン、稀代のスーパーチャンピオンを間近で見られる、一緒に練習できる、なおかつ一緒にマス(ボクシング)やスパーをするのは、なかなか経験できないことです。

 拳四朗の敗北から立ち上がるまで(2021年9月22日、9度目の防衛をかけた対矢吹正道戦でプロ初黒星を喫しWBC王者陥落。引退も考えたが半年後のリターンマッチで3回KO勝ちし、ベルトを取り戻した)も、みんな全部間近で見てきた。ボクシングの技術だけでなく、メンタル面の学びや経験も含めて、他では味わえないものをうちの選手たちはもらっている。なので、相乗効果だと思います。普段の練習でも若い子がどんどん上がってくる姿を見て、拳四朗も刺激を受けて自分を追い込んでいます」(三迫会長)


ともに戦う三迫貴志会長(左)と加藤健太トレーナー(右)。4団体統一を目指す上でなくてはならない存在

 photo by Aizu Yasunari

 拳四朗は、試合で勝利しても、自分のことよりも周りに対する感謝を一番に伝える。自分がベルトを巻くよりも先に、父親の永氏やトレーナーの加藤に巻かせようとしたこともあった。素直で、誰に対しても分け隔てなく接し、まわりを大切に、感謝を忘れない選手だからこそ、誰もが『チーム三迫』の仲間として協力したい、自然と応援したいという気持ちになるそうだ。

 目標とする井上尚弥に次ぐ日本人ふたり目の4団体統一王者、そして2階級制覇は、交渉さえまとまれば、かなり現実味のある目標と言えた。あとはタイミング次第。こればかりは運にも左右されるので、陣営としてはいつ時がきてもいいように万全の体制で待ち続けるしかない。

「矢吹戦を境に、拳四朗は新しいスタートをきったというか、第2章が始まったと思います。以前は、13回連続防衛(具志堅用高氏の持つ、日本人による世界戦連続防衛記録)とか『防衛できればいい。とにかく勝てればいいんだ』というような話が多かったように思います。

 今は会見でも、記録についてよりも『強い相手と戦いたい』と話すようになりました。4団体統一という目標も、突き詰めれば『一番強い世界チャンピオンになりたい』ということ。2階級制覇も同じように『強い相手と戦いたい』という思いからではないでしょうか。いまの拳四朗は『記録を残すことよりも、純粋に強い相手と戦いたい』という気持ちでリングに上がっているように感じています」(三迫会長)

 三迫会長の話を、拳四朗は隣で頷きつつ聞き、「めっちゃ盛り上がる試合がしたいですね」と答えた。それを受けて三迫会長は、「あくまでわたしの夢ですが......」と断った上で、こんな仰天プランを話してくれた。

「仮にノンタイトル戦でも、誰もが驚くようなビッグマッチが実現できれば面白いな、と思います。

 メイウェザー対パッキャオ戦(2015年5月2日、米ラスベガスのMGMグランドガーデンアリーナで行なわれた世紀の一戦。ボクシング史上最高の売り上げを叩き出した)も、タイトル云々は関係ない話でしたよね。

 日本でも昔、小林弘さんと西城正三さんという、階級の違う全盛期の現役世界チャンピオン同士がノンタイトルで対戦(1970年12月3日。WBAジュニアライト級王者小林弘と、WBA世界フェザー級王者西城正三のノンタイトル10回戦。会場の日大講堂は1万2000人の超満札止め。中継した日本テレビの視聴率は45.3%を記録した)したこともありました。

 海外とは違って日本はまだまだタイトル至上主義なので、実際試合を組むとなれば難しい部分はもちろんあります。それでも、拳四朗に対抗できるようなライバルがいるならばタイトルや国内開催、海外開催関係なく、ファンも選手もワクワクするような試合が実現できれば面白いなと思います」

 ネット配信が普及したおかげで、観たい試合があれば世界のどこにいても観戦できるようになり、またモンスター井上尚弥の出現で、日本のボクシングは世界からも注目されるようになった。今回の興行に出場した拳四朗、天心、そして、「ネクストモンスター」と期待される中谷潤人以外にも、世界基準の日本人ボクサーが何人もいる。イベントや中継の工夫次第で、過去とは違ったスタイルで、日本でボクシングが盛り上がる要素は揃っている気がした。

 ちなみにAmazonがスポーツのライブ中継第1弾として配信した世界ミドル級王座統一戦、村田諒太(帝拳)対ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)は、ボクシングで日本史上最大の興行となった。同社が、独占配信権、システム整備費、広告費など10億円近くを投資。村田にも約6億円の報酬が支払われたという。

 この試合の視聴者数は日本で単日の最高記録を更新。新規会員加入者数もトップ3に入るほどだった。そういった流れのなかで、Amazonは今回も継続してボクシング中継に取り組み、拳四朗はメインイベンターとしてリングに上がったのだ。

 いまや10年ひと昔どころか1、2年で思いも寄らないことが当たり前のように実現する時代だ。4団体統一、そして2階級制覇とファンの期待に応えるような戦いを続けていけば、誰もが驚くような拳四朗のビックマッチが現実になる日も、そう遠くないかもしれない。

Profile
寺地拳四朗(てらじ けんしろう)
1992年1月6日生まれ、京都府出身。プロ戦績は23戦22勝(14KO)1敗。
元日本ミドル級王者で、元OPBF東洋太平洋ライトヘビー級王者の寺地永を父に持ち、中学3年からボクシングを始めた。大学卒業後プロテストに合格し、その年の8月にプロデビューした。2017年、WBC世界ライトフライ級王座を獲得。2021年4月までに8度の防衛に成功したが、9度目で矢吹正道に敗れた。昨年、王座を奪い返すと、京口紘人とのWBA、WBC世界ライトフライ級王座統一戦でも見事勝利。今回のブドラー戦でWBA2度目、WBC3度目の防衛に成功した。