【実力、人気も上昇が止まらない日本】 バレーボール男子日本代表は、9月30日から代々木体育館で開幕する「FIVBパリ五輪予選(OQT)/ワールドカップバレー2023」を戦う。24カ国が3グループに分かれて総当たりで対戦し、各グループの上位2…

【実力、人気も上昇が止まらない日本】

 バレーボール男子日本代表は、9月30日から代々木体育館で開幕する「FIVBパリ五輪予選(OQT)/ワールドカップバレー2023」を戦う。24カ国が3グループに分かれて総当たりで対戦し、各グループの上位2カ国が五輪の出場権を獲得する。



9月25日、カナダとの親善試合での(左から)西田有志、石川祐希、髙橋藍

 日本が入ったプールBの8カ国の世界ランキング(2023年9月8日時点)を見ると、5位の日本を上回るのは最後の第7戦で戦う2位のアメリカのみ。ただ、ヨーロッパ勢は世界ランキングでは測れない強さを持っており、特に9位セルビア(第5戦)、8位スロベニア(第6戦)は強力なライバルになりそうだ。

 今年度の日本はここまで、ネーションズリーグ(VNL)で29年ぶりに世界ランキング4位ブラジルに勝利するなど躍進し、主な国際大会で46年ぶりとなるメダル(銅メダル)を獲得。その後のアジア選手権も制した。

 そんな快進撃に合わせるように、人気も上昇している。9月6日発売の雑誌『anan』(マガジンハウス)では、主将の石川祐希と髙橋藍がバレー選手として初めて表紙を飾って話題に。さらに石川は、香港を拠点とするデジタルメディアでもショーモデル風にポーズを決めた写真と、インタビュー記事が掲載された。石川も髙橋も、バレーを広く知ってもらうため、という思いによる挑戦。その人気は海外にまで波及しているようだ。

 確かな実力を証明してきた日本だが、五輪行きの切符をかけた戦いはまた別物。その難しさはフィリップ・ブラン監督をはじめ、リオ五輪の最終予選で敗退を経験した石川や副主将の山内晶大らも理解しており、さらなるチーム力の向上に余念はない。

 9月25日には、会場となる代々木第一体育館でカナダとの親善試合が行なわれた。1セット目こそカナダに取られたが、以降は3セットを連取。ブラン監督はベンチ入りした15名全員をコートに送り出し、当日が20歳の誕生日だった甲斐優斗(専修大2年)など、控えや若手の選手たちも活躍した。

【チーム、各選手も万全な状態で大一番へ】

 石川はアジア選手権の前に腰を痛めていたものの、この試合でもサーブやスパイクなどで見せ場を作った。腰の不調についてはブラン監督も「きちんと管理したい」と慎重に状態を見極めている。

 ブラン監督は「今日の内容ではパリには行けないね」とやや不満げな表情も見せたが、「OQTは大きなプレッシャーを感じながら戦う大会だとは思っていない。チームとしての目標はこの大会で出場権を取ることなので、そこに向けてポジティブに取り組んでいく。1戦目にしっかり入ることが大事」と、余裕を感じさせるコメントも残した。

 チームとしては、昨年からセカンドセッターの模索が続いていたが、アジア選手権の直前に山本龍がB代表から呼ばれて合流。そのままOQTでもプレーする見込みだ。山本は関田と比べてトスのスピードが少し遅く、ふわっとしたボールになる印象だが、石川に尋ねると、「そのあたりは経験のあるアタッカーが合わせていかないといけない。でも、(山本は)力がある選手だと思います」と答えた。

 このカナダ戦はワールドカップ本番と同じ会場で満員の観客が入ったが、「とても貴重な経験だった」と選手たちは口を揃えた。攻守の要である髙橋藍、オポジットの西田有志も「代々木でのプレーは初めて」だったそうで、照明の具合などに慣れるのに時間がかかったという。

 西田は昨秋からの体調不良もあり、VNLでは思うようなプレーができなかったものの、アジア選手権ではイランとの決勝で両チーム最多となる15得点を記録。優勝に貢献して「取り戻すことができた」とホッとした表情を見せた。

 妻の古賀紗理那が率いた女子のOQTはテレビで応援し、五輪の出場権をこの大会では獲得できなかった(残る5枠は、来年のVNL予選ラウンドが終了する2024年6月17日時点の世界ランキングにおいて、上位の5カ国が出場権を獲得)ことについては「自分のことのように悔しい」とSNSに投稿。併せて、「自分がバレーをしている姿を見て、もう1回頑張ろうと思ってくれれば」と、主将として奮闘した妻、女子チームの分もと意気込んでいる。

【厳しい場面も乗り越えるメンタルと対応力】

 OQTでは最後の3戦(セルビア、スロベニア、アメリカ)が特に重要な試合になるが、そのうちスロベニアには、VNLのファイナルラウンド準々決勝でストレート勝ちしている。ただ、その試合でのスロベニアは、ケガや体調不良などで選手が数人抜けており、通常とは違うフォーメーションだったこともあって、石川は「まったく(OQTには)つながらないと思います」と口にした。

 五輪切符を掴むまでは、それくらいの警戒が必要かもしれない。27年前、1996年のアトランタ五輪のアジア予選(4カ国による、東京とソウルでの合計6戦総当たり)で、日本はアウェーで韓国相手にストレートで圧勝。しかし、続くホームでの対戦は1-3とまさかの敗戦を喫して出場権を逃すと、その後の世界最終予選でも切符を掴めずに出場を逃した。

 当時の日本は、前日本男子バレー監督の中垣内祐一が絶対エースで、荻野正二、青山繁といったバルセロナ五輪の6位入賞メンバーが揃っていた。今とは予選の形式も違うが、チーム力の高さ、ホーム開催という条件でも油断はできない。

 五輪の出場権がかかる独特の重圧もあるのだろうが、今の日本の選手たちは、優勝したアジア選手権でメンタルの強さも見せた。開催地がイランだったため、準決勝のカタール戦、決勝のイラン戦では観客がブブゼラを吹き鳴らし、日本のサーブ時にはブーイングが飛び交った。さらに、日本が2セットを連取すると、3セット目には髙橋藍に対してペットボトルが投げ入れられる場面も。ベンチ陣も選手たちも怒りをあらわにして抗議したが、そこで我を失うことなく得点を重ねて勝利した。

 また、会場がウルミアという標高が高い土地にあったため、ボールの弾み方の違いにも苦しんだ。特にリベロの山本智大は、いつもであれば拾えているはずのボールを上げられない場面も目立った。それでも試合が進むにつれて対応していき、決勝のイラン戦では好パフォーマンスを見せた。厳しい環境で勝ち抜いた今の日本であれば、ホームのアドバンテージにも浮かれず、しっかり自分たちの力を発揮して戦うことができるだろう。

 カナダとの親善試合後、石川は「必ずみなさんと一緒に出場権を取ります」と力強く宣言した。OQTの観戦チケットはすでに完売。大きな声援の後押しを受ける日本が、パリ五輪へと飛翔することを期待している。