極私的! 月報・青学陸上部 第37回 第3回世田谷陸上競技会(世田谷記録会)――。 5000mには青学大32名の選手がエントリーしていた。青学にとって上半期、最後の記録会となる。「箱根」を狙う選手たちは、ここでしっかりとした走りを見せて…

極私的! 月報・青学陸上部 第37回

 第3回世田谷陸上競技会(世田谷記録会)――。

 5000mには青学大32名の選手がエントリーしていた。青学にとって上半期、最後の記録会となる。「箱根」を狙う選手たちは、ここでしっかりとした走りを見せておかないと夏の2次、3次の選抜合宿入りに響いてくる。中間レベルの選手たちは上半期の練習の成果を示し、監督にアピールしなければならない大事なレースだ。

 当日は天候が心配されたが、雨で少し地面が濡れた程度。日が落ちると時折さわやかな風が吹き、走るには良いコンディションになった。



イエローのユニホームをまとった青学のランナーが大挙出走した世田谷記録会

 レースは仲 正太郎(2年)が先陣を切って8組でスタート。下田裕太(4年)ら主力が走る最終組の17組まで実力に合わせて、選手が各組に出場していく。

 今回、主力組でエントリーしていない選手がいた。中村祐紀(4年)は個人学生選手権後、「状態が今ひとつで、記録会に出てもタイムが上がらないのでやめました」と、この日は選手のサポートに回っていた。5月下旬の関東インカレでリスタートし、個人学生選手権で優勝を狙ったが思ったように走れず、調整に専念することに決めたという。

 他にも関東インカレで上々の走りを見せた鈴木塁人(2年)、序盤好調だった小野田勇次(3年)、富田浩之(3年)も参戦を見合わせた。上半期最後の公式レースの場に主力メンバーが欠けているのはやはり気になるところだ。

 昨年のこの競技会では、それまで調子が悪いと言われていた4年生たちが奮起。主将の安藤悠哉がシーズンベストで走り、茂木亮太も自己ベスト更新をしてトップを獲った。さらに森田歩希、梶谷瑠哉も自己ベストを更新し、後に箱根3区で快走した秋山雄飛もシーズンベストを出していた。この名前を見てもわかるように三大駅伝で活躍した選手たちが、この時期に軒並み調子を上げていたのだ。それゆえ、中村たちのこれからが少し心配ではある。

 では、参戦したメンバーの走りはどうだったのか。

 13組の谷野航平(2年)が14分33秒60の自己ベストを出すと、14組では松葉慶太(1年)が14分28秒27で自己ベストを更新して続いた。さらに16組では松田岳大(3年)が14分16秒32で自己ベストを更新、箱根メンバーに落選してから調子を落としていた吉田祐也(2年)もシーズンベストを出し、調子を上げてきた。

 最終組は下田、田村和希(4年)、吉永竜聖(4年)、橋詰大慧(3年)、森田歩希(3年)、さらに神林勇太(1年)が出走した。

 序盤、先頭を走ったのは橋詰だ。今シーズン最大の成長株は、今や恐いもの知らずのような勢いを感じる。レースを引っ張り、堂々とした走りだ。

 3000mぐらいで橋詰に代わって、田村が先頭の外国人選手たちに喰らいついた。暑さが苦手な田村にとっては、これからの季節は厳しくなる一方だが、粘りのある走りができてきているようで、だいぶ調子を取り戻しつつある。

 原晋監督不在で、チームを預かる安藤弘敏コーチも「田村がいいね。もっと上げていける」と快走に目を細める。そのまま田村と橋詰が外国人選手についていくのかと思いきや、ラスト1周、8番手から一気にスピードを上げてきたのが下田だった。ラストスパートの力を貯めていたかのか、一気に爆発させたスピードは圧巻だった。田村、橋詰を抜き去り、5位でフィニッシュした。13分53秒45で自己ベストを更新し、ようやく復調したようだ。

「ラストは、まぁまぁでした。4000mぐらいでちょっと崩れたけど、感覚がすごく良かったです。だいぶ状態が戻ってきた感があるんですが、まだ十分に練習を積めていないので、もうちょいですね」

 そう言って、下田は笑顔を見せた。走り自体は、関東インカレの時からいい兆しが見えていた。ハーフマラソンに出場し、1時間04分14秒で2位に入賞した。

 1月に故障して、3月の後半から走り始めて、5月のインカレの頃には、すでに80%ぐらいの状態に戻ってきていたという。6月の個人学生選手権はエントリーをしていたが出走せず、世田谷でタイムを残せるように調整してきた。そうして、しっかり結果を残したのだ。下田の復調はチームにとって、非常に大きい。

 今シーズン、下田自身をはじめ、田村、貞永隆佑(4年)が故障し、4年生が今ひとつの状態が続いていた。原監督から檄が飛ぶこともあった。

「4年生は僕と田村という2枚看板が故障してしまって、中村、吉永も調子が上がらない状態が続いてしまった。それは僕の故障から始まっているんだと思います。僕のところを誰かがカバーしないといけなくなり、負の連鎖が広がってしまったので、これからは自分が結果を出して、その連鎖を断ち切って、いい流れにしていきたい。正直、昨年の4年生は強かったなぁと改めて感じていますし、自分たちはあまりいい状況ではなかったですが、これからしっかりとチームを固めて、夏に向けてやっていきたいと思います」(下田)

 チームの責任を負う姿に4年のエースという自覚が感じられる。昨年は一色恭志という絶対的なエースがおり、彼が出雲、全日本でアンカーを走って青学を勝利に導いた。3冠3連覇達成は、そうしたエースがいてこその偉業だったのだ。下田はそのエースの姿に自分を重ねている。

「昨年はエース、エースと言われても、なかなかそうなれなかったので、今年こそはエースになれるように頑張りたい。そのためには練習でもレースでも、チームを引っ張っていかないといけないですし、一色さんのように頼れる選手にならないといけない。駅伝も昨年は出雲、全日本と結果を残すことができなかったので、今年は三大駅伝すべてで結果を残さないといけないと思います」

 関東インカレでは他大学の下級生の選手たちに、「これも経験、頑張れ」と声をかけていた。そういう姿にも下田の成長やエースとしての振る舞いが見て取れる。もちろん意識だけではなく、走りの部分でもエースたるところを見せることが必要だが、この世田谷でその存在感を示してくれた。

 さらに下田は13日、北海道・網走でのホクレンディスタンス(1万m)に出場を志願し、出走。当日は36度の猛暑となり、しかも相手はほとんどが実業団の選手。一色や3代目山の神・神野大地ら青学の先輩たちも出場しており、レベルは非常に高い。その中、29分20秒91というシーズンベストを出して健闘した。

「暑くて、きつかった」

 下田はそう苦笑したが、実業団選手とガチンコのレースは貴重な経験になり、暑い中でのタイムも悪くなかった。秋は安定した力を発揮することが求められるが、エースとして駅伝シーズンの活躍に期待が膨らんだ。

*     *     *

 世田谷陸上競技会で上半期が終わった。

 今年はちょっと故障者が目立ったが、選手がだいぶ戦列に戻ってきた。ただ、1、2年生、とりわけ2年生が序盤、鈴木しか目立たなかったのは、チーム全体としてさびしい印象だ。4年生、3年生は力のある選手が多く、2年生は彼らと切磋琢磨することで箱根を走れるような選手になっていくわけで、彼らの成長がこれからも箱根で勝ち続けるための大きなポイントのひとつだと思っていたからだ。

『谷間の世代』を作ってはいけない。その意味では今回、永井拓真や植村拓未、生方敦也、吉田祐也ら2年生の頑張りが見えたのは今後に向けて明るい材料になった。

 安藤コーチは言う。

「上位陣の下田、田村、森田らがしっかり走れているし、橋詰もいいのがわかったんで、それは安心。それ以上にこれまで調子を崩していた植村、生方、大越(望/4年)とか、そういう中間層の選手が戻ってきたのが大きいですね。箱根に絡むかどうかはわからないけど、そういう選手が腐らずに夏合宿で力をつけていけば、チームにとって大きい。他のチームの出来と比較してもしょうがないので、うちらの中である程度の手応えを得られて、いい感じで夏合宿に入っていけるんじゃないかなと思います」

 14分30秒以内のタイムを出した選手は、昨年が16名、今年は15名だった。その中で自己ベストを更新した選手は昨年が5名、今年は3名だった。数字的には昨年と変わらない実績にまで戻してきているので、チーム全体としては悪い感じではない。

 また、ここ3年間、青学はこの世田谷を上半期最後のレースにして、データを蓄積している。上位10人の選手を集計し、過去の記録と比較するとだいたい今後が見えてくる。安藤コーチは選手のタイムを見て、今回のデータが過去、優勝したシーズンとそれほど変わらないということを察し、なんとなく手応えを感じていたのだろう。

 ただ、瀧川大地コーチは、世田谷記録会終わりのミーティングで「今年のチームはまだ弱い。まだまだ本来の青山学院ではない」と述べた。常勝チームになった今、徐々に上向いているとはいえ、箱根で勝つためにはまだ物足りなさを感じているのだ。

 実際、まだチームの軸が安定していないし、昨年の一色のような大黒柱もいない。現段階で下田が一色のような存在になれるかどうかはもう少し静観する必要があるし、駅伝のメンバーを組むうえで、ビシッと1本線が通るような編成をするには、安定した力を発揮する選手がまだ足りていないのだろう。

 はたして、箱根4連覇に向けて足りないものを夏合宿でどのくらい補うことができるのか。

「今年は相当厳しい戦いになる」

 原監督の言葉が耳に残る。青学は例年にない厳しい夏を迎えようとしている。