2023年9月9日(土)~16日(土)の8日間に渡ってスイスのローザンヌで開催された「WST:ローザンヌ・ストリート2023」。パリオリンピック2024の予選大会を兼ねた本大会には、各国から130名近くのトップ選手たちが出場。決勝ではオリン…

2023年9月9日(土)~16日(土)の8日間に渡ってスイスのローザンヌで開催された「WST:ローザンヌ・ストリート2023」。パリオリンピック2024の予選大会を兼ねた本大会には、各国から130名近くのトップ選手たちが出場。
決勝ではオリンピック出場枠を手繰り寄せるべく、各選手による超高難度トリックも飛び出す壮絶な戦いが繰り広げられた。そして今回この戦いを見事制したのは前回のローマ大会の覇者ナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)。

現在国内で熾烈なパリオリンピック代表枠争いを繰り広げる日本人選手勢からは、今回堀米雄斗、 佐々木音憧、青木勇貴斗、根附海龍の4名が決勝に進出。一方で、現在世界ランキング6位で小野寺吟雲は準決勝敗退。

そして現在世界ランキング5位で日本人最高位の白井空良が今大会不参加という現時点で代表枠に該当する2名が不在の中で、いかにこの決勝進出メンバーの4名が良い結果を残して自身のランキングをジャンプアップさせられるかが今回の焦点となった。

そして特に、白井と小野寺に続き代表枠に現在該当している佐々木はここでどう逃げ切るのか。一方でこのパリオリンピック代表争いに一歩出遅れている堀米、青木、根附がどう巻き返していくのが注目された。

本決勝には日本人選手4名に加えて、ジオバンニ・ヴィアンナ(ブラジル)、ナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)、 リチャード・ターリー(スロバキア)、オーレリアン・ジロー(フランス)が勝ち上がり計8名により争われた。もちろん今回の決勝出場選手たちはランとベストトリック共に90点台を出せるスキルを持つため、今大会でも高得点のランとトリックが連発し順位が大きく変動。最後まで結果が分からない熾烈な接戦となった。

大会レポート

最初は1本45秒間のランセッション。ベストラン採用方式のフォーマット上、2本のどちらか1本で高得点を残しておくことが、この後のベストトリックを優位に展開するためには重要だ。そのためにはコース全体のセクションを上手く活用し、速いスピード感の中で45秒間にどれだけ幅広いバリエーションの高難度トリックをメイクできるかが肝となってくる。

ランで高得点を取ることで得られる大きなアドバンテージ

今回のランセッションで見事なライディングを披露したのがナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)と佐々木音憧の2名。後述することになるがここで高得点を残すことが勝利を掴む上で大きなアドバンテージになった。


佐々木音憧のラン photograph by Hikaru Funyu

まずは佐々木が2本目で90点に迫る見事のランを魅せる。ラン1本目では「トレフリップ」と「ビッグスピン・フロントサイドボードスライド」のミスが響き38.66ptという苦しい状況であったが、2本目は全体的にスムーズなフローかつスピード感のあるライディングで「バックサイド・ノーズブラントスライド」を皮切りに、クオーターでの「フロントサイド・キックフリップ」で加速。

その後も「ノーリーヒールフリップ」などを組み込みながら、最後は「ビガーフリップ・フロントサイドボードスライド」という高難度トリックでランを締めくくり89.66ptをマーク。ラン終了後には自身も納得したか手を叩いて喜びを示す様子も見られ、ベストトリックに向けて幸先の良いスタートを切った。


ナイジャ・ヒューストンのラン photograph by Hikaru Funyu

一方で、佐々木と同じモンスターエナジーチームで大先輩のヒューストンが文句なしの完璧なランを魅せる。ラン1本目で全体トップの86.88ptをマークした彼は、ギャップ to レールでの「バックサイド・ノーズブラントスライド」、続いて「バックサイド180・ノーズグラインド」、「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」などをメイク。そして最後は「ハーフキャブ・バックサイド・スミスグラインド・フェイキー」をハンドレールでメイクし90.00ptにスコアを引きあげた。
ラン終了後はベストトリックに向けて体を温めるべくライディングしており、スコアが出た後も冷静な表情であったため戦略通りのランだったのだろう。

今回のランセクションでは佐々木とヒューストンをはじめ、青木、根附、ヴィアンナの5人が80点台の高得点をマークした。そして今大会のトップ4はこのランセクションで80点台を獲得したメンバーであるため、いかにランの得点が重要なのかが改めて明らかになった。

ランで高得点を残したメンバーで争われたベストトリック合戦

ベストトリックではランセクションで80点以上を残した選手たちにとっては、いかに高得点を残し上位に食い込めるか、一方でランで高得点を残せなかった選手たちはできるだけ90点台の高得点を残す必要がある展開に。そのためには今大会でまだメイクをしていない高難度トリックを決め切ることを求められ、ランセクションの得点次第でプレッシャーが生まれ、両者の間には異なるメンタルバトルが展開されていた。


根附海龍のベストトリックphotograph by Hikaru Funyu

ベストトリックではランセクションで87.19ptをベストスコアにしていた根附海龍(日本)が、1本目で「ヒールフリップ・バックサイドリップスライド」をギャップ to レールで見事メイクし88.87ptをマーク。自身もガッズポーズを見せて好調なスタートを切ったのだが、そこから2・3・4本目と「ノーリーヒールフリップ・バックサイド・テールスライド・ビックスピンアウト」にトライするもミスが続き得点を残せない状態。ラストトリックとなった5本目ではビックスピンアウトにできなかったものの「ヒールフリップ・バックサイドテールスライド」をメイク。89.67ptをマークして全体4位で今大会を終えた。


ジオバンニ・ヴィアンナのベストトリック photograph by Hikaru Funyu

そして今回、オリジナリティ溢れる高難度トリックを見せたのはランセッションを87.19ptで終えたジオバンニ・ヴィアンナ(ブラジル)。東京オリンピックではブラジル代表として出場経験を持つ彼。ここ最近の大会ではなかなか決勝進出できず、悔しい思いをしてきた彼が今大会では見事なトリックを魅せた。2本目では「フェイキーフロントサイド180・バックサイドスミスグラインド」をメイクし91.87ptという高得点をマーク。その後3・4本目でメイクできず、暫定8位で迎えた彼は5本目で「フェイキー・バックサイド270・ノーズブラントスライド・フェイキーアウト」をメイクして89.00ptをマークし大きくジャンプアップし3位入賞を果たした。

東京五輪金メダリスト堀米雄斗は健闘するも、惜しくも表彰台を逃す展開に。


堀米雄斗のベストトリック photograph by Hikaru Funyu

今回望まぬ悔しい結果になったのは堀米雄斗(日本)。今年は「UPRISING TOKYO」、「X GAMES CALIFORNIA 2023」そして「SLS Tokyo」で優勝しているものの、パリオリンピック代表争いに一歩出遅れている彼。

ランセッションではミスが目立ち、得点を伸ばしきれず75.41ptで迎えたベストトリックでは90点代を連発。1本目では「ノーリーフロントサイド180・スイッチフロントサイド・フィーブルグラインド」で92.33ptをマーク。2本目では自身のオリジナルトリック「ユウトルネード」をハンドレールでメイクし、今大会最高得点の96.95ptとした。しかし3・4本目ではトリックに失敗。3本目では失敗直後に悔しさからか叫ぶなど堀米らしからぬ様子を見せ、改めて彼がどれだけ今大会へかけているのかが感じ取れた。

自身のそんな中で迎えたラストトリックでは「ノーリーフロントサイド180 to スイッチフロントサイド・スミスグラインド」をメイクするも90.81ptで自身のスコアを塗り替えることはできず、5位で表彰台獲得は叶わなかった。改めていかにランセクションでの得点獲得が重要なのかを見せつけられる結果となった。


青木勇貴斗のベストトリック photograph by Hikaru Funyu

一方で、堀米とは違う形で今回辛酸を舐める結果となったは青木勇貴斗(日本)とオーレリアン・ジロー(フランス)。青木はランセクションを82.11ptという得点でベストトリックに望みを繋げるも、1本目でメイクした「フェイキーキャバレリアル・ボードスライド」にてマークした78.52pt以降は2・3本目とミスが続き、ラストトリックでは「ノーリービッグスピン・ヒールフリップボードスライド」をメイクし88.55ptをマークするも全体で6位で終えた。


オーレリアン・ジローのベストトリック photograph by Hikaru Funyu

現在世界ランキング1位のオーレリアン・ジロー(フランス)はランセッションではミスが多く、得点を伸ばせず50.02ptでベストトリックを迎えた。プレッシャーを引きづっているからか、1本目で69.03ptをマークした「ノーリーフロントサイド180キックフリップ」以降は、ラストトリックとなる5本目まで3本とも「ハードフリップ・バックサイド180・オーバー・ザ・レール」のメイクに失敗。背水の陣で挑んだ5本目では念願の「ハードフリップ・バックサイド180・オーバー・ザ・レール」をメイクし93.00ptをマークするも他のスコアが足を引っ張りは入賞は叶わなかった。

日本の若きルーキーが準優勝という快挙。代表枠獲得に大きく近づく。


佐々木音憧のベストトリック photograph by Hikaru Funyu

各日本人選手が苦戦を強いられた中で見事なライディングを見せたのが佐々木音憧だ。ランセクションでは89.99ptという高得点で余裕を持ってベストトリックを迎えた彼は、1本目で「ノーリーフロントサイド180 to スイッチフロントサイド・スミスグラインド」をメイク、2本目では自分の思ったトリックにならなかったためメイクしたもののキャンセル。その甲斐もあって3本目では「ノーリーフロントサイド180・スイッチスミスグラインド to 180アウト」という高難度トリックをメイクし90.88ptをマーク。2本目でのキャンセル時に手応えを感じていたのか、3本目のトリックメイク直後には軽くガッズポーズを見せるだけであまり感情的な様子は見せなかった。

そして勢いそのままにトライした4本目では「フェイキーバックサイド270・ノーズブラントスライド to フェイキー」をメイクし89.99ptをマーク。暫定2位までジャンプアップした。ラストトリックとなる5本目はミスしたがそのまま逃げ切り、佐々木は準優勝の座を獲得した。この熾烈な日本人選手内の代表枠争いにて一歩リードする形となった。

前回のローマ大会に引き続き、絶対王者が優勝を収める。


ナイジャ・ヒューストンのベストトリック photograph by Hikaru Funyu

そして前回のローマ大会同様に、今回の決勝戦を無双したのがナイジャ・ヒューストン。ラン2本目で90.00ptをマークし絶好調で迎えたベストトリックでもその勢いは止まることを知らない。1本目で「ノーリーフロントサイドヒールフリップ180・ボードスライド」を決めスコアを90.11ptとすると、そのままの勢いで2本目では「スイッチヒールフリップ・フロントサイドテールスライド」をメイクし92.11ptと自身のトップスコアを引き上げていく。そして完全に勢いづいた彼は高ぶる様子を抑えて冷静に3本目にアタック。ここでは他の選手がトライしない「ノーリーヒールフリップ・ノーズブラントスライド」を決め切りメイク後にはテンションが上がり銃を打つような仕草で喜びを表した。そんな彼の3本目のトリックには93.96ptがスコアされ更に自身の合計点を引き上げる形となった。

その後の4・5本目ではトリックを失敗したものの2位の佐々木とは5点の差をつけて優勝。昨年までは大怪我に苦しめられていた彼が、ローマ大会に引き続き今回も優勝を勝ち取ったことで絶対王者が完全復活したと言っても良いだろう。

まとめ

今大会はナイジャ・ヒューストンの安定的な強さを感じた一方で、いかにランセクションでの得点獲得が勝敗を大きく左右するのかを改めて感じさせられた大会となった。今回ベストトリックでは見事なライディングを見せた堀米雄斗だったが、やはりランセクションでいま一つ得点を伸ばし切れなかったことが表彰台を逃した大きな原因となった。

そして今回の結果により、日本人選手内でのパリオリンピック代表枠争いが更に激化するのは免れない。現時点での日本人別の世界ランキング上位3名は、白井空良(5位)、小野寺吟雲(6位)、佐々木音憧(13位)である中で、佐々木が今回準優勝したことで大きくランキングをジャンプアップさせてくるだろう。今回決勝に残った堀米雄斗、根附海龍、青木勇貴斗をはじめ、日本人勢トップ3を追う後続の日本人選手たちが出場枠を獲得するには、次回の東京大会が肝になってくる。パリオリンピック予選大会の数が徐々に減ってくる中で、日本人選手たちの間でどんな熾烈な出場枠争いが今後展開されるかにも注目だ。

大会結果


photograph by Hikaru Funyu

優勝 ナイジャ・ヒューストン – アメリカ合衆国 / 275.94pt
準優勝 佐々木 音憧 (ササキ・トア) – 日本 / 270.53pt
第3位 ジオバンニ・ヴィアンナ – ブラジル / 268.06pt 
第4位 根附 海龍 (ネツケ・カイリ) – 日本 / 265.82pt 
第5位 堀米 雄斗 (ホリゴメ・ユウト) – 日本 / 264.69pt 
第6位 青木 勇貴斗 (アオキ・ユキト) – 日本 / 249.18pt 
第7位 リチャード・ターリー – スロバキア / 243.75pt 
第8位 オーレリアン・ジロー – フランス / 212.05pt

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