昨季までオーストリアで充実の日々を過ごした23歳の新星、中村敬斗が日本代表で目覚ましい活躍を見せている。 U-17、U-20の両年代別ワールドカップに出場するなど、アンダー世代でさまざまな国際経験を重ねてきた中村は、今年3月のウルグアイ戦…

 昨季までオーストリアで充実の日々を過ごした23歳の新星、中村敬斗が日本代表で目覚ましい活躍を見せている。

 U-17、U-20の両年代別ワールドカップに出場するなど、アンダー世代でさまざまな国際経験を重ねてきた中村は、今年3月のウルグアイ戦でA代表デビュー。

 すると、デビュー2戦目となった6月のエルサルバドル戦で、早くもA代表初ゴールを決め、9月のトルコ戦では1試合2ゴールを記録。"第二次森保一政権"の誕生以降、日本代表の全6試合に招集され、出場3試合で3ゴールと際立つ結果を残している。

 伊東純也、三笘薫といった既存の"カタール組"が貫禄を見せるなか、ワールドカップ後に台頭してきた前線の新戦力としては、筆頭格と言っていい存在だろう。



先日のトルコ戦では2ゴールを決めた中村敬斗。photo by ANP via Getty Images

 とはいえ、目下売り出し中の左ウイングも、今季がすでに渡欧5シーズン目。10代にして海を渡った中村だったが、楽々と日本代表までたどり着いたわけではない。

 トウェンテ(オランダ)、シント・トロイデン(ベルギー)では、思うような出場機会を得られず、やむなくLASKリンツ(オーストリア)のセカンドチームへ移籍。ようやくそこでの活躍が認められ、LASKリンツのトップチームに加入後、2シーズンで計20ゴールを叩き出すに至った。

 迎えた今季、中村はスタッド・ランス(フランス)へと移籍。ヨーロッパ5大リーグと称されるうちのひとつ、フランスのリーグ・アンへと戦いの舞台を移すことになったわけだが、そのステップアップのきっかけが、オーストリアリーグにあったことは間違いない。

「(オーストリアリーグは)僕ぐらいか、僕より下の年齢の選手なんかは特に、みんなしのぎを削って上に行きたいと思っていると思う。僕はドイツ語ができるわけじゃないのでフランス(のクラブへの移籍)でしたけど、(オーストリアは)ドイツ語圏ということもあって、おそらくドイツにステップアップしたい選手が多いんじゃないかなと思います」

 そう語る中村が、リンツでの経験を振り返る。

「オーストリアリーグは技術っていうより、球際とインテンシティがメインの特徴だと思っていて。今、5大リーグのひとつであるフランスで4試合(取材時点)に出てみても、そういった部分ではフランスと遜色がないかなと思います」

「もちろん、(オーストリアリーグに比べて)個人のレベルも、チームのレベルも上がった」と中村。フランスでの現状を、「身体能力が高い選手も多いし、例えば、僕が1対1で仕掛ける時の守備の対応もレベルが高い。もう一個ステップアップしたんだなと感じています」と話すが、それもオーストリアでの経験があればこそ、だろう。

 中村が続ける。

「そういう(球際やインテンシティの)ところに大きな差はないと思っているので、(フランスに来ても)面食らうとかは特になかった。うまく順応していけると思います」

 そんなオーストリアには現在、日本代表の上昇株に続けとばかり、研鑽を積む20歳のFWもいる。

 オーストリア2部のザンクト・ペルテンに所属する、二田理央(にった・りお)である。

 一昨季、サガン鳥栖からヴァッカー・インスブルックⅡ(オーストリア)に期限付き移籍した二田は、今季が渡欧3シーズン目。主に3部リーグでプレーした一昨季を経て、ザンクト・ペルテンへ期限付き移籍した昨季は、2部リーグへとステップアップしたにもかかわらず、肩のケガで長期離脱を強いられた。

 それだけに、今季は鳥栖から完全移籍となったこともあり、「本当に大事なシーズンになる」と二田。強い決意を裏づけるように開幕戦でいきなりゴールを決め、その後もコンスタントに試合出場を重ねている。

 今季の二田は、いわゆる"シャドー"のポジションで主にプレー。もともと最前線で点取り屋を務めてきただけに「相手の最終ラインと駆け引きしようとしたり、"FWっぽい動き"をしちゃって、監督から『そこじゃない!』って指示されることが多い」という。

 だが、「(1列下のシャドーとして)ライン間でボールを受けられるようになれば、FWに戻った時もプレーの幅が広がると思うし、今はミスしたとしてもそれをプラスにとらえて、どんどんチャレンジしていかなきゃいけない」と、前向きに自身の成長を見据える。

「まだまだ全然足りない部分のほうが多いんですけど、以前の自分だったら 、ひとつ何かできないことがあるとズルズル引きずって、他のこともできなくなっちゃうことがあった。でも今は、ミスをしてもすぐに切り替えて、次はいいプレーができる。メンタルのコントロールも徐々にできるようになってきたかなと思います」

 オーストリア2部で現在(第7節終了時点)、首位と勝ち点差3の2位につけるザンクト・ペルテンが目指すのは、言うまでもなく1部昇格。二田自身も来季は1部でプレーし、それを足がかりにさらなるステップアップにつなげるつもりだ。



オーストリアのザンクト・ペルテンに所属する二田理央(右から2番目)とクラブの日本人スタッフ。photo by Asada Masaki

 幸いにしてザンクト・ペルテンには、テクニカルダイレクターのモラス雅輝をはじめ、日本人スタッフが複数所属。トップチーム専用の練習グラウンドなど、充実の練習環境ばかりでなく、そうした支えも20歳の二田には心強い味方となっている。

「本当に環境は整っていますし、今はお金(年俸)のこととかは関係ない。後々自分が成長して上に上がっていったら、そういうものもついてくると思っています」

 2部リーグに身を置く二田にとっては、同じオーストリアで2部から1部、さらにはリーグ・アンへとステップアップした中村は、いわばロールモデルとなる先輩だ。昨季は中村の試合をリンツまで見に行き、「自分も早くこの(1部リーグの)舞台に立ちたい」と思いを強くしてもいる。

 頼もしい先輩、中村が語る。

「一度、(昨季の)冬のプレシーズンで(ザンクト・ペルテンと)練習試合をした時、彼(二田)はケガで出ていなかったんですけど、その試合を見てくれていたのと、ホーム最終戦だったかな、彼が見に来たいというので試合(リーグ戦)に招待してあげたので、その試合でそういうふうに感じてくれたのかな(笑)。いい活躍をすればステップアップできるよ、っていうのを見せられたのならよかったです」

 1部、2部を問わず、多くの日本人選手がプレーするベルギーやドイツに比べ、どちらかと言えば注目度の低いオーストリアリーグ。だが、中村の成功事例に加え、二田の順調な歩みを見る限り、新たなステップアップの舞台として注目しておきたいリーグである。